プライバシー
「嘘つき」
「ごめんなさい」
「それで? 二人で何をしていたんですか?」
「昨日、美波さんからメッセージがきて‥‥‥」
「携帯貸してください」
「え?」
「私達二人の間にプライバシーなんていらないですよね、早く貸してください」
大人しく携帯を差し出すと、結菜さんはメッセージの履歴を見始めた。
すると結菜さんは、僕の携帯をいじりながら言った。
「なるほど、それで、美波さんからのお話というのはなんだったんですか?」
「そ、それは美波さんのプライバシーが‥‥‥」
「でも、輝久くんも関わっているのでしょ? 言いましたよね、私達二人の間にプライバシーは必要ないです。教えてください、なんの話だったんですか?」
僕は言えなかった。
言っても問題なさそうな内容だけど、美波さんは言ってほしくなさそうだったし、前にいじめられてたこととか、あまり知られたくないのかもしれない。
僕が黙っていると、結菜さんは携帯を返してくれた。
「美波さんを呼び戻してください」
「どうして?」
「輝久くんが言わないなら、三人で話しましょう」
「でも‥‥‥」
呼ぶことを渋っていると、結菜さんはいきなり僕に顔を近づけ、大きく目を見開いた。
「どうしてですか? どうして呼ばないんですか? やっぱりやましいことがあるんですね。浮気ですか? まず、私がいない時に、私以外の女性と会うのは浮気ですよ? 浮気者が私のお願いを断るんですか? 輝久くんは私が好きなんですよね。大好きですよね。愛してるんですよね!! それなら私の言うことを聞いてください」
「はい‥‥‥」
結菜さんの勢いに負けて、美波さんを呼び戻すために電話をすることになった。
電話をかける寸前、結菜さんは言った。
「私は一人で買い物にでも行ったことにしてください」
「う、うん」
出ないでくれと思いながら美波さんの携帯に電話をかけると、ワンコールですぐに出てしまった。
「もしもし、輝久です」
「あ、輝久? さっきはいきなり帰ってごめんね」
「大丈夫です。あの‥‥‥」
「どうしたの?」
「もう一回公園まで来てくれませんか?」
「結菜は?」
「もう何処かへ行ってしまいました。一人で買い物に行くとかで」
「わかった! 今すぐ行く!」
しばらくして、美波さんが勢いよく走りながら公園に入ってきた。
だか、美波さんは結菜さんを見て体が固まったのか、ピクリとも動かなくなってしまった。
「ごめんなさい、美波さん」
「輝久? なんで結菜がいるの?」
結菜さんは立ち上がり、ゆっくり美波さんに近づいた。
「私がいたらダメかしら? 輝久くんと私はお付き合いしているのよ? 一緒にいるのは当然でしょ?」
「だって‥‥‥輝久が、いないって‥‥‥(なんで結菜が‥‥‥輝久はさっき、結菜はどっかに行ったって‥‥‥私、はめられた? ストラップのことバレた? どうしよう、なんて言い訳すれば‥‥‥)」
美波さんは明らかに動揺している。
結菜さんは、そんな美波さんの心を追い詰めるように、頬を優しく撫でた。
「美波さん、何故そんなに動揺しているの? 大丈夫ですよ? 少し話を聞きたいだけです」
「な、なに?」
「どうして私に隠れて、輝久くんと会っていたんですか?」
「(あれ? そう聞いてくるってことは、まだなにもバレてない?)結菜には言えない」
「私の彼氏と二人きりで会っていたんです。私に教える義務があります」
「(確か、結菜の家のカレンダーの八月十二日に赤丸が書いてあった。もう賭けるしかない)た、誕生日‥‥‥ 十二日、結菜の誕生日なのかなって、だから輝久とサプライズの計画を‥‥‥」
「なんで誕生日が分かったんですか!?」
「カレンダーに赤丸があったから、誕生日なのかなって、これじゃサプライズにならないじゃん!(ビンゴだ。よかった‥‥‥)」
美波さんは僕にアイコンタクトを送り、ひとまず話を合わせることにした。
「そ、そうですよ! サプライズしようと思ったのに!」
結菜さんは一瞬、申し訳なさそうな表情を見せたが、まだちょっと納得いってなさそうだ。
「でも美波さん、輝久くんに会うなら私に許可を取ってください。許可しませんけど」
「意味ないじゃん!! まぁ、バレちゃったのはしょうがないし、誕生日の日、結菜の家でパーティーしようよ!」
「明後日ですか? 是非!」
あ、十二日って明後日じゃん!!
プレゼントなにも用意してないよ!!
結菜さんは安心したのか、お手洗いに向かった。
僕はその隙に、美波さんにストラップを返すことにした。
「これ、さっき落としましたよ」
「え! ありがとう」
結菜さんが帰ってきて、ベンチに座る僕達を見て、僕と美波さんの間に無理矢理座ってきた。
「お手洗い中に思い出したのですが、輝久くんから美波さんの匂いがしたのは何故ですか?」
美波さんは何のことか分からずに聞いた。
「匂い?」
「はい、輝久くんから美波さんのシャンプーの匂いがしました。匂いが移るほど密着した。そうとしか考えられないのですが」
「あ、あれだよ! 同じシャンプー使ってるの! ね? 輝久?」
「そ、そうです! 同じシャンプー!」
結菜さんは不機嫌そうな顔で僕を見て、他のシャンプーを進めてきた。
「美波さんとお揃いってことですか? そんなのダメです、許せません。今日から私と同じシャンプーにしてください、一本二万円です。リンスも合わせれば月四万円で大丈夫です」
「結菜さんって、僕をいじめたいんですか? 僕のお小遣い、月五千円ですよ!」
すると結菜さんは財布を取り出し、憐れみの目をしながら僕に札束を渡してきた。
「それは可哀想です‥‥‥これは私からのお小遣い、百万円です」
初めて百万円を見た僕は、思わず顔を引きつらせてしまった。
「さすがに受け取れません‥‥‥」
「遠慮しなくても大丈夫ですよ?」
「さすがに怖いです」
金持ちって本当に怖い。
美波さんは百万円を見て、目が【$】になっていた。
なんかめんどくさいし、そこには触れないでおこう。
すると、我に返った美波さんは尿意に襲われたのか、いきなりトイレに走っていった。
「ちょっとトイレー!」
その時、またポケットから牛のストラップを落としてしまい、それに気づいた結菜さんが、それを拾ってしまった。
そのストラップを見つめて何も言わない。
そこに美波さんが、ハンカチで手を拭きながら帰ってきた。
「ふぅー、危なかったー」
結菜さんは、僕の元に向かってくる美波さんを呼び止めると、微かに震えた声で言った。
「美波さん、なんでこれを‥‥‥」
「ん? なに?」
「なんで美波さんが、このストラップを持っているんですか?」
美波さんは、牛のストラップを持った結菜を見て、焦りながら自分のポケットを確認した。
そしてまた落としてしまったということに気づき、何故か青ざめてしまった。
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