迷い

あれから三日が経ち、結菜の目の腫れも治って、綺麗な顔に戻っていた。

今日は、昔無くした牛のストラップを探す日だ。

結菜が目を覚ますと、美波が牛のぬいぐるみを触ってるのが視界に入り、美波の手からぬいぐるみを勢いよく奪って言った。


「これは輝久くんからのプレゼントです。汚い手で触らないでください。あぁ‥‥‥せっかくのプレゼントを美波さんに汚されました‥‥‥汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い」


美波は床を強く踏み、大声を出した。


「ちゃんと手洗ってるよ!!」

「本当ですか? うんち付いてません? むしろ美波さん自身がうんちの可能性も否定できないのですが」

「おい、いろいろツッコミたいけど、まず無表情でそのワード言うのやめろ」

「ごめんなさいうんちさん」

「おい」

「どうしたんですかうんちさん」

「もういい!! 早く川に行くよ!!」

「了解ですうんちさん」

「殺すぞ」


ぬいぐるみを触ってほしくないのは本気だったが、二人は三日間ずっと一緒にいたからか、冗談が言えるほど打ち解けていた。


その頃宮川は、結菜が昔よく散歩していた川を知っていて、先に野原に来ていた。


結菜は、どうせ見つからないという気持ちと、もしかしたら見つかるかもしれないという淡い期待を抱きながら歩いて川の近くの野原にやってきた。

そこには結菜のお父さんが経営していた会社の、元社員が沢山集まっていた。ざっと五十人はいる。

結菜が驚いていると、みんなは結菜に気づいて駆け寄ってきた。


「結菜お嬢様、ご立派になられましたね」

「あ、ありがとうございます」


そこに宮川も駆け寄ってきた。


「結菜お嬢様、今日は絶対に見つけましょうね!」

「こんな大掛かりにしなくても‥‥‥」

「結菜お嬢様のためです!この土地の持ち主に、草を刈ることと、穴掘ることの許可はもらっています!」

「わざわざありがとうございます」


美波は張り切って腕まくりをして言った。


「それじゃまずは草刈りだね!」


それから、みんなで協力して草を刈り終えたが、見つかったのは空き缶などのゴミばかりで、牛のストラップは見つからなかった。


次に、全員で金属探知機と小さなスコップを持ち、自由にいろんな場所を探し始めた。

いろんなところで金属の反応があって穴を掘るが、出てくるのはチェーンの切れたボロボロのネックレスや、ゴミばかりだった。

結菜に関しては、金属探知機が一度も反応しなく、ただ歩いているだけになっている。


その時、美波の金属探知機に小さな反応があり、美波は慎重に穴を掘り始める。


(ストラップって小さいからなー、なかなか見つからなそう‥‥‥これって、鈴?)


地面の表面を少し削ると、鈴のようなものが顔を出した。

慎重に周りの土を削ると、塗装が剥がれ、牛の黒い模様が一つしか残っていなかったが、確かにそれは紐は黄色く、小さな鈴が付いた牛のストラップだった。


美波は慌ててストラップを自分のポケットに入れて、結菜の方を見る。


(結菜は気づいていない。このまま無かったことにして、私がこれをもらった、あの日の女の子ってことにすれば‥‥‥輝久が私に振り向いてくれるかもしれない。バレなきゃ‥‥‥いいよね)


それからも探すふりをして、ストラップを見つけたことを結菜に教えることはなかった。





気づけば夕方になり、今日は探すのを諦めることに決定した。


すると宮川が、残念そうに結菜に話しかけた。


「残念ですが、また今度探しましょう」


結菜も見て分かるぐらいテンションが下がっている。


「そうですね、今日は皆さんありがとうございました」


全員解散して、結菜と美波は一緒に歩いて帰ることになった。


「美波さん、わざわざ手伝ってくれたのにごめんなさい」

「え、大丈夫大丈夫! 気にしないで!」


美波は帰る途中、こっそり輝久にメッセージを送った。


『明日暇?』

『どうしたんですか?』

『大事な話があるの、お願い、会って話そう。お昼の十二時に校門前で待ってる』

『分かりました』


約束をしてもなお、美波の中には迷いがあった。

この三日間、結菜は優しくしてくれた。

結菜の過去も知れた。

本当に裏切っていいのか、結菜にバレたらどうなるんだろうと、不安が募っていく。

怒られるのは勿論、もう口聞いてくれないかもしれない、最初は結菜なんて大っ嫌いだったけど、あんな優しくされて、過去のことを知ると、美波も情が湧いていた。

でもどうしても輝久を諦め切れない気持ちが優先してしまう。


美波は、バレなければいい、その決断をして歩きながら結菜に話しかけた。


「また今度探そうね!」


結菜は嬉しそう微笑む。


「はい! 美波さんはいい人ですね。少し誤解していたかも知れません」


今の美波に『優しい』という言葉辛すぎて、美波は思わず結菜から顔を逸らした。


「う、うん、ありがとう」

「でも、輝久くんを奪おうとしたら容赦しませんけどね」

「そうだよね‥‥‥」

「当然です」

「あ、明日さ、お昼から用事があるから、ちょっと出かけるね」

「分かりました」


二人は結菜の家に帰り、夜になると、今日も二人同じベッドに入って眠りについた。



***

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