理由

夜になると、美波と結菜は同じベッドに入り、寝る前に美波は、結菜のことをもっと知りたくなり、話をすることにした。


「結菜ってさ、なんでM組に来たの? 私がM組に通うようになった時には、もういたよね」

「私は、いじめられていました」

「結菜が? 誰に?」

「これは、高校一年生の頃の話です」



【私は高校一年生の頃、今とは全然雰囲気が違い、髪は三つ編みでメガネをしていて、典型的な真面目っ子って感じだった。

輝久くんいじめていた、拓海という男に私もいじめられていて、とある日、拓海さん含めて五人の男に、体育館倉庫で無理矢理酷いことをされそうになった。

その時、震えた輝久くんが駆けつけて、私を逃がしてくれた。

その日から、いじめの対象が輝久くんに変わった‥‥‥

私はそれが許せなくて、とある日、私の方から体育館倉庫に拓海さん一人を呼び出すことになった。

拓海さんは、それだけでその気になっていたけど、私は抱きつくふりをして、縄跳びで首を絞めた。

そう、本気で殺す気で。

その時、点検に来た体育の先生に見つかって、M組に通うことになってしまった‥‥‥】


全てを知った美波は眠気が飛び、上半身を起こして話を続けた。


「それで、助けてくれた輝久を好きになったの?」

「好きになったのは、助けてもらう前です。前の全校集会の時も、雰囲気が変わった私に拓海さんは気づいてなかったみたいですけど、なにより、輝久くんも全く私に気づいていません」

「そんなに雰囲気変わったんだ。それじゃなんで輝久を好きになったの?」

「私が中学生の時の話です。私は両親を亡くしました。それでしばらく学校も不登校気味になって、気分転換に一人で散歩をしに行ったんですが、いろいろ込み上げてくるものがあって、公園で何時間も一人で泣いていたんです。気づけば夕方になっていて、そこに、学生服を着た輝久くんが話しかけてきました。『あの、大丈夫ですか?』って、そしたら輝久くんは、ガチャポンで手に入れた牛のストラップをくれたんです」


思い出して泣きそうになりながらも、結菜は話を続け、美波もそれを真剣に聞いている。


「本当にいらないだけだったのかもしれないけど、私にはそれが嬉しかった。優しい人もいるんだって、強く感じたの。その日からずっと輝久くんのことが好きで、高校生になって、助けに来てくれた時、すぐにあの日の人だって気づきました。同じ高校って知った時は嬉しかったけど、その後すぐ私はM組に通うことになって、輝久くんと話す機会がなくなってしまいました。ですが、高校二年生になり、輝久くんがM組にやってきたんです。それで今に至ります」

「なにそれ、すご!! (ダメだ‥‥‥こんなの聞いたら、結菜と輝久の邪魔をできなくなる‥‥‥)それで、その時もらったストラップを今も大事に持ってる的な!? ロマンティックだね!」


結菜は表情を曇らせてしまった。


「無くしました‥‥‥」

「そんな大事な物を!? どこで!?」

「いつものように、気分転換に散歩で川を眺めに行ってたんです。休憩しようと思って川の近くの野原で、携帯からストラップを外して眺めていた時、携帯に電話がかかってきたんです。警察からでした」

「なんで警察?」

「お姉ちゃんが自殺したって‥‥‥」

「そんな‥‥‥」

「それで慌てて、お姉ちゃんのいる場所に走り出す時、野原のどこかで落としてしまったみたいで‥‥‥」


美波は少し考え込んだ後、結菜の手を力強く握った。


「探そう!!」

「無茶です! 草が沢山ありますし、それに一年以上前の話です」

「でも探そう!」

「どうやってですか‥‥‥」

「ストラップの特徴は?」

「紐が黄色で、牛が一匹付いていて、小さな鈴が一つ付いていました」

「鈴! 金属探知機とかで探せるかもしれないよ!」

「でも、あそこはすごい広いですし‥‥‥」

「私、宮川さんに金属探知機ないか聞いてくる!」


美波は部屋を飛び出し、宮川を見つけて事情を説明した。


「金属探知機ですね! 分かりました!」


宮川は話を聞いてすぐに、どこかに電話をかけはじめた。


「もしもし、宮川です。金属探知機を用意できるだけ送ってほしい」


すると電話を切り、すぐにまた別の場所に電話をかけはじめた。


「宮川です。結菜お嬢様の大切な物を一緒に探してほしい、全員に連絡を回してくれ」


そして電話を切り、宮川は嬉しそうに言った。


「三日以内には探し始めることができそうです!」

「本当ですか!? 私、結菜に教えてきます!」


美波は結菜の部屋に戻り、喜びのあまり結菜に飛びついた。


「結菜! 金属探知機、準備できるって! 三日以内には探し始めるって!」

「ありがとうございます。とりあえず離れてください。体が痛いです」

「あ、ごめんごめん。まぁ、今日は結菜がいろんなこと教えてくれたから、私も教えてあげる! なんで私がM組に来たか」


結菜はベッドに横になり、美波のいる方とは逆の方を向いた。


「興味ないです」

「なっ!? まぁいいや、んじゃ寝ながら聞いて」


美波も同じベッドに入り、結菜に背を向けた。


「私はね、真菜があんな感じなのは、薄々気づいてたんだけど、案の定そうでさ、真菜が高一の時好きだった人をボコボコにしちゃったんだよね。愛と支配、そして暴力の違いがいまいち分かってないんだと思う。それで、妹を哀れんだ私は、私がやったことにしてM組に通うことになったってわけ、まぁ結局それから数日後に、また暴力を繰り返して、真菜もM組に来たんだけどね。今回こんなことになっちゃったけど、きっとまた仲直りして、一緒に買い物とか行くんだと思う。だって双子だもん。姉妹だもん。仲良くしなきゃね」


喋り終わって結菜を見ると、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。


「本当に寝るんかい!」


それを見て、美波は結菜の髪を撫で、静かに眠りについた。

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