結菜の過去
「なんで二人が、ここにいるのかしら」
「私達も水着買いに来たの! なにか不満?」
「この前のデートでも、輝久くんと二人で楽しんでいたのに邪魔しないでください」
「はぁ? あの日も今日も、たまたま会っただけじゃん! 真菜もなんか言ってやりなよ!」
僕と結菜さんは約束通り、学校終わりにショッピングモールへ水着を買いに来た。
そこでたまたま、水着を買いに来た美波さんと真菜さんに会い、この状況だ。
「まぁ、三人共! 落ち着きましょう! 店内ですし」
真菜さんは、少しムッとした表情をして僕を見る。
「私は最初から落ち着いてます! 輝久くんの迷惑になることはしません!」
「あ、ごめん」
確かに真菜さんは、水着屋で会ってから初めて喋った。
とにかく、この場を上手くまとめないと。
「ま、まぁ、今日は四人で水着を選びましょう!」
そしてなんとか四人で水着を選ぶことになり、まずは結菜さんの水着選びだ。
僕はさっそく、マネキンが着ていた水着を指差した。
「結菜さんは、やっぱり白い水着がいいと思います! このフリルの付いた白い水着とかどうですか?」
「輝久くんは、私にあれを着てほしんですか?」
「え! う、うん! 絶対似合うと思います!」
「それじゃ、一度試着してきます」
結菜さんは、白い水着を持って試着室に入っていった。
すると、僕の携帯にメッセージが届いた。
あれ? 結菜さんからだ。
メッセージには、こう書いてあった【次は女性用水着を着なくて済むようにお願いしますね♡】そのメッセージの後に、僕が結菜さんのワンピースを着ている写真が添えられていた。
だ、大丈夫。
選ぶだけなら、触らなければ大丈夫!多分。
美波さんが黄色いシンプルな水着を持って、真菜さんに水着を当てがっている。
「真菜はこういうのが似合うんじゃない?」
「これじゃサイズが小さいよ」
えっ、それって胸が大きいからってこと?
そういうことだよね。
「このサイズなら、お姉ちゃんにピッタリじゃない?」
「はぁ!? バカにしてんの!?」
僕は、美波さんをなだめるために咄嗟にフォローしようと話に割り込んだ。
「ち、小さいのも、僕は好きです!」
すると美波さんは、少し顔を赤くしてモジモジし始めた。
「え? 輝久って大きいより小さいのが好きなの?」
「えーっと‥‥‥」
僕が困っていると、真菜さんが涙目になりながら僕に近づいてくる。
「そうなんですか? 輝久くん、大きいのは嫌いですか?」
「す、好きです!! どっちも大好きです!!」
僕はいったい何言っちゃってんのー!?
その瞬間、後ろから結菜さんの声が聞こえた。
「ねぇ、輝久くん」
あ、俺、死ぬかも。
「好きってなんですか? どっちも好きって‥‥‥なに?」
僕は結菜さんが怒っているのを感じ取り、恐怖で後ろを向けない。
目の前にいる美波さんと真菜さんの顔も、心なしか顔が引きつっている気がする。
次の瞬間、結菜さんは、いきなり僕を商品棚に向かって突き飛ばし、そのまま商品棚に背中をぶつけて、軽い痛みが走る。
「いった!」
美波さんと真菜さんは僕に駆け寄ろうと「大丈夫!?」と言いながら駆け寄ってくるが、結菜さんは僕を見たまま、今にも人を殺しそうな恐ろしい表情をして言った。
「輝久くんに近寄るな!!」
美波さんと真菜さんは、結菜さんの声に怯んで立ち止まった。
結菜さんは、商品棚にもたれかかった僕に近づいて、壁ドンのような体勢をとった。
表情は今まで見た結菜さんの表情の中で一番恐怖を感じる。
「ここを出ましょうか」
「は、はい‥‥‥」
美波さんと真菜さんは、それを見ていることしかできない様子だ。
結菜さんは僕の手を掴んでショッピングモールを出ると、僕の手をさらに強く握った。
「痛いです‥‥‥」
結菜さんは、顔をキスすれすれまで近づけてきたが、周りから見たら、ショッピングモールの入り口でイチャイチャしてるバカップルにしか見えないだろう。
本当は超怖い状況なのに。
「ママー! あの人達、チューしようとしてるー!」
「あんまり見ちゃダメ」
知らない親子の会話が聞こえてきて、恥ずかしさで対温が上がる。
顔を近づけてきた結菜さんは、僕を見つめて何も言わない。
その状況の恥ずかしさと気まずさ、そして恐怖で僕は言葉が出なかった。
「輝久くん、貴方が好きなのは誰?」
「ゆ‥‥‥結菜さんです」
「私以外に好きって言っちゃダメでしょ? 私は、あまり輝久くんに酷いことしたくないの。でもね、悪い彼氏にはお仕置きが必要だと思うの」
「ち、違うんです、あれは‥‥‥」
結菜さんの怖い表情が少し穏やかになり、僕から一歩だけ後退りをした。
「ごめんなさい‥‥‥私の勘違いだったのですね‥‥‥」
「そ、そうです!」
「また‥‥‥また輝久くんを騙す女が‥‥‥」
「そ、そうじゃなくて!」
「消さなきゃ‥‥‥消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ!!」
「僕、結菜さんの家に行ってみたいです!!」
それは結菜さんを、美波さんと真菜さんのとこに行かせないようにと、咄嗟に出た言葉だった。
そして結菜さんは顔を赤くして驚いている。
「私の家ですか!?」
「はい!」
「輝久くんが、私の家に‥‥‥」
きゃー!輝久君が私の家に!?
それってなにされてもいいってこと!?
そういうことよね!と思っていそうだ。表情的に。
「是非! さっそく行きましょう!」
「えっ、はい!」
なんとか作戦は成功して、僕達はさっそく結菜さんの家に向かった。
さっきは怖くて気づかなかったけど、ショップの袋を持っていて、ちゃんと水着も買ったみたいだ。
それより、結菜さんのご両親はどうな人なんだろう。
お姉さんがいるって言ってたけど、結菜さんに似て美人なんだろうな。
※
妄想を膨らませながら、しばらく住宅街を歩いていると、和風の豪邸が見えてきた。
この辺にも、こんなお金持ちいるんだな。
すると結菜さんは立ち止まり、その豪邸を見上げた。
「これが私のお家です」
「あ、はい。そのパターンくるかなと思ってました、はい」
「勘がいいんですね! 入りましょう」
豪邸の敷地内に入ると、庭には大きな池があり、大きな鯉が泳いでいた。
ザ.金持ちって感じだ。
玄関を開けると、そこにはスーツを着た十人ほどの男性が立っていて、思わず顔が引き攣る。
「お帰りなさいませ! お嬢様!」
「お、お嬢様!?」
待て待て、お嬢様みたいに綺麗な顔立ちとは思ってたけど、本物のお嬢様!?
「ただいま。こちらの男性は、前に話した私の婚約者です」
え?今なんて?
一人の男性が、僕の手を両手で優しく握った。
「貴方が結菜お嬢様の婚約者でしたか! お会いしたかったです!」
「ど、どうもです」
すると結菜さんは、僕達の手を見てニッコリ微笑んだ。
「誰が輝久くんに触れていいと言いました?」
結菜さんの圧に、男性は慌てて僕から離れて、玄関の硬い床の上で綺麗な土下座を披露した。
「すいませんでした! お嬢様!」
え、なに、そんなに?
「輝久くんと一緒に私のお部屋に行きますけど、勝手に入ってきたら‥‥‥分かりますよね?」
十人の男性は、その言葉を聞いて一斉に敬礼した。
「そのようなことは、一切いたしません!」
大丈夫この家!?
日頃から酷い拷問とか受けてません!?
経験したことのない雰囲気に圧倒されながら二階の結菜さんの部屋にやってくると、ベッドと勉強机、UFOキャッチャーで取ってあげた牛のぬいぐるみ、そして押入れがあるだけの殺風景な部屋だった。
「床に座るのもなんですし、遠慮なくベッドに座ってください」
「あ、はい、ありがとうございます‥‥‥って、え!? さすがにいきなりベッドは!」
「気にしないでください」
「そ、それじゃ遠慮なく」
恐る恐るベッドに座ると、ふかふかで座り心地抜群で、ベッドも絶対高いやつだと、寝なくても分かるほどだった。
結菜さんもベッドに座り、僕の方を見て微笑んでいる。
「部屋に何も置かないんですね」
「はい、色んなものが置いてあると、心が乱れてしまいますから。そんなことより‥‥‥」
「はい? うわっ!」
結菜さんは、僕をいきなりベッドに押し倒してきた。
「結菜さーん!?」
「私のお家に来たいなんて、あんな二人ほっといて、早く私と二人きりになりたかったんですよね♡ 今なら輝久くんがしたいこと、なんでもしてあげます♡」
「いや、あの!」
「心配しなくても大丈夫です♡ この部屋は完全防音になっているので、なにをしても♡」
結菜さんは、僕の制服のボタンをゆっくり外しはじめ、僕は焦って飛び起きた。
「そ、その前に、ご両親とか、お姉さんに挨拶したいです!」
僕がそう言うと結菜さんは俯いて、一瞬暗い表情になった気がしたが、笑顔で顔を上げた。
「今日は是非、夜ご飯食べていってください!」
「え、いいの?」
「勿論です! 輝久くんのお母様には、私から連絡しておきますので」
「でも、連絡先知らないですよね」
「この前、輝久くんのお家に行った時、お母様と連絡先を交換しました!」
お母さん、マジでなにやってんの。
「それじゃ‥‥‥お願いします」
「はい! それじゃ、しばらくベッドで寛いでいてください」
「どこか行くんですか?」
「夜ご飯の準備とかいろいろです!」
そう言って結菜さんは部屋を出ていってしまった。
***
結菜は部屋を出て、輝久のお母さんに電話をかけ始めた。
「もしもし、輝久くんのお母様ですか?」
「はい、その声は結菜ちゃんかしら」
「そうです。ご無沙汰してます」
「今日はどうしたの?」
「今、輝久くんが遊びに来てくれていて、夜ご飯をご馳走したいと思うのですが、夜遅くなってしまうと思うので、今日は私のお家に泊まらせてあげたいのです」
「あら、いいの? でも、明日学校でしょ?」
「大丈夫です! 遅刻しないように、しっかり学校に連れて行きますので」
「それなら安心ね。それじゃ輝久をよろしくお願いします」
「はい! ありがとうございます。それではまた何かあれば、ご連絡いたしますので」
「はーい!」
そして電話を切ると、結菜は家中の男女達を広い茶の間に集めた。
全員集まると、三十人近くもいる。
全員が揃うと、結菜は嬉しそうに皆んなに指示を出し始めた。
「今日、輝久くんが泊まっていくことになりました! 最高の夜ご飯を用意してほしいです! 宴会です! 宴会!」
そこにいた全員が結菜を見て驚き、さっき土下座をしていた一人の男性が小さな声で言った。
「結菜お嬢様が‥‥‥笑ってる‥‥‥」
それを聞いた結菜は、一瞬で無表情に戻ってしまった。
「笑ってませんけど」
次の瞬間、みんなは大慌てながらも、どこか嬉しそうに夜ご飯の準備に取り掛かった。
「お前は寿司屋から最高の食材を仕入れてこい!」
「はい!」
「お前は八百屋だ! なんでもあるだけ買ってこい!」
「分かりました!」
結菜は制服の袖をまくり上げて、手伝う気満々でキッチンへ入った。
「結菜お嬢様は、輝久さんとゆっくりしていてください」
「でも」
「大丈夫です! 最高のご馳走を準備いたしますので!」
「そう、ありがとうございます! それじゃ、準備ができたら呼んでください!」
「はい!」
***
僕は結菜さんを待っている間、なにもない部屋で押入れの前に立っていた。
うーん、ダメなことと分かっていても、衝動が抑えられない!
なにが入っているのか気になって押入れを開けると、隅に黒いビニール袋が置いてあった。
おもむろに袋を開けてみると、そこには結菜さんの制服が入っていた。
なんで制服?って‥‥‥くっさ!!まさか‥‥‥あの時の制服、まだクリーニング出してないの!?
「見つけちゃったんですか?」
なぜこのタイミングで帰ってきたのー!?
神様は本当に意地悪だー!
「いや、なにも見てません」
「それ、とってもいい匂いがするでしょ? 輝久くんの匂いです♡」
ビンゴだー!!
「いつも寝る前に、その制服を抱きしめて輝久くんを感じています♡」
「一度、耳鼻科に行くことをオススメします」
※
結菜さんが部屋に戻って来て、一時間半ぐらい経っただろうか。
部屋のドアをノックする音が聞こえ、廊下と中を繋ぐスピーカーでもあるのか、部屋に女性の声が響いた。
「お食事の準備が整いました」
そう言われて、結菜さんに連れられて茶の間にやってくると、大きなテーブルが何個も繋がれていて、その上には豪華な食事が大量に並んでいた。
それに、男女合わせて三十人ぐらいが、そのテーブルを囲んでいる。
こんなに人いたの!?
てか、茶の間っていうか宴会会場だよね。
案内されるがまま席に座ると、まさに宴会が始まるように、一人の男性がマイクを握った。
「今日は、結菜お嬢様が始めてお客様を連れてきた素晴らしい日です! 結菜お嬢様、そして、輝久さんの素敵な未来に! カンパーイ!!」
みんなは嬉しそうにジョッキを合わせ始めるが、結菜さんは恥ずかしそうに、もじもじしている。
それにしても、高そうな食事がありすぎて、どれを食べたらいいか分からない。
結菜さんは食事に手をつけない僕を見て、小皿に一口サイズのステーキや刺身を乗せてくれた。
「遠慮しないで食べてください!」
「ありがとうございます!」
僕がマグロを口に含んだ瞬間、結菜さんは大きな伊勢海老を指差した。
「あ! 輝久くんはあれ食べたことありますか?」
「ないです! 生で見たのも初めてです!」
すると結菜さんは、慣れた手つきで伊勢海老を剥きはじめた。
「見てください! プリプリです!」
「美味しそうですね!」
「はい、あーん♡」
結菜さんが伊勢海老を食べさせてくれ、僕に衝撃が走った。
今まで食べたことのないプリプリ感で、とっても美味しい!
そして恥ずかしすぎる。
その光景を、周りの大人達はガン見していることに気づき、更に恥ずかしくなってしまった。
「ヨッ! お似合い夫婦!」
そう言われて、結菜さんは照れながらも嬉しそうにしているが、僕は今みたいなノリが苦手で、反応に困った。
その後も、みんなで沢山食べ続け、結菜さんは食事中、終始笑顔が絶えなかった。
学校にいる時は、こんな嬉しそうで楽しそうな結菜さん見れないから、なんか嬉しいな。
それにしても、どの人が両親で、どの人がお姉さんなんだろう。今はいないのかな。
※
宴会のような食事も終わり、結菜さんは僕を茶の間に残して、お風呂に入りにいってしまった。
一緒に入ろうと誘われたけど、もちろん断った。
完全に帰るタイミング逃しちゃったな。
結菜さんがお風呂から上がったら帰ろう。
大人達が後片付けをする中、茶の間でゆっくりしていると、一人の男性が真剣な顔をして話しかけてきた。
「輝久さん、ちょっといいですか?」
「はい」
その人は土下座をしたり、乾杯の挨拶をした人だった。
僕はその人に、綺麗な庭に連れていかれた。
「私の名前は
「どうも」
名を名乗った宮川さんは、いきなり頭を下げてきた。
「今日は本当にありがとうございました!」
「なっ! なにがですか!?」
「結菜お嬢様が、あんなに笑っているところ、二年ぶりぐらいに見ました」
「あー、結菜さん、学校でもあまり笑わないんですよ」
「結菜お嬢様が笑わなくなったのは、家族を失ってからなんです」
「え?」
「結菜お嬢様が、中学二年生の頃の話です。結菜お嬢様のご両親は、とある会社の社長でした。仕事の関係で海外行きの飛行機に乗ったのですが、不幸なことに‥‥‥」
「それじゃ、結菜さんのお姉さんは? 生きてるんですよね」
「結菜お嬢様のお姉様、
それを聞いて、僕はなにも言えなかった。
「結菜お嬢様のお父様は、海外に行く時、必ず私に遺書を渡してくる方でした。その遺書には、こう書かれていました」
【結菜と栞を頼む。会社の金、私の遺産、全てを使い、二人を幸せにしてくれ。もちろんその金は、社員の生活費にも役立ててくれて構わない】
「そして会社の社員、三十人程が名乗りを上げて、このお家に住まわせてもらい、みんなが親代わりになれるように頑張っています。結菜さんが私達をどう思っているかは分かりませんが、出て行けと言われるまでは、結菜さんの側にいたいと思っています」
「結菜さん‥‥‥そんなことが‥‥‥」
「はい、結菜お嬢様のお部屋に入られた時、なにか思いませんでしたか?」
「殺風景な部屋だなってぐらいですけど‥‥‥」
「そうです。元々は家族の思い出の品が沢山あったんですけどね。家族を失った後、私達に心を開かなかった結菜お嬢様が、最初にしたお願いが『家族関係の物を全て処分してほしい』そんなお願いだったんです。まぁ、実際は捨てないで隠してるんですけどね」
「でも、結菜さん‥‥‥お姉さんの制服着てますよね」
「ご両親が亡くなった後も、ずっと栞さんが側にいました。その時の結菜お嬢様の心の拠り所が栞さんだったのでしょう。だから今でも、あれだけは大切にしているんだと思います」
あの制服、大切な物なんだな‥‥‥でも言えない、最近あの制服を着ている理由は絶対に言えない。
「そして、今の心の拠り所、それが輝久さんなんだと思います。愛情表現に少し過激な面もありますが、それも結菜お嬢様の過去が関わっているんだと思います。輝久さん! どうか、結菜お嬢様を見捨てないでください!」
また僕は‥‥‥なにも言えなかった‥‥‥。
すると、お風呂から上がった結菜さんが、僕を探しに庭に出てきたが、結菜さんは、小さな牛が沢山プリントされたパジャマを着ている‥‥‥。
結菜さん、どんなセンスしてるんだ‥‥‥でも、パジャマ姿も可愛い。
「あー! こんな所にいました! 帰ってしまったと思って心配しましたよ。あれ? 宮川さんも一緒なんですか?」
「ちょっと世間話をしていまして」
「そうなんですか。輝久くんも早くお風呂済ませちゃってください!」
「僕はもう帰らないと」
「大丈夫です! 輝久くんのお母様に、お泊りの許可も貰いましたから!」
「え!?」
結菜さんは戸惑う僕と腕を組み、笑顔で僕をお風呂場まで連れてきた。
結菜さんの過去を知った後だと、結菜さんの笑顔がなんだか少し切なく見える。
「ここがお風呂です!」
「結菜さん、出て行ってくれますか?」
結菜さんは、ニッコリと微笑みながら首を傾げた。
「ん?」
「ん? じゃないですよ! 見られてたら入れませんよ!」
その時、脱衣所の外から宮川さんの声が聞こえてきた。
「結菜お嬢様、輝久さんもお風呂ではリラックスしたいのです。夜は長いです、焦らなくて大丈夫です」
「宮川さん!? なに言っちゃってんの!?」
宮川さんの言葉を聞いた結菜さんは、ワクワクした様子で素直に部屋に戻っていった。
想像はしていたけど、お風呂も大きい。
※
だいぶお風呂でリラックスしてお風呂を上がり、服を着ようとしたら、どこを探してもパンツだけが無い。
僕はしょうがなく、タオルを巻いて結菜さんの部屋に戻った。
恥ずかしいのを我慢して部屋に入ると、結菜さんが僕のパンツを頭からかぶり、ベッドに横になっていた。
「確信犯すぎるでしょー!! 返してください!」
すると結菜さんは起き上がり首を傾げた。
「ん?」
パンツの向こう側の顔が想像できるのが腹立つ。
そのあと、無事に結菜さんからパンツを奪い返し、パジャマは新品の物を宮川さんが買ってきてくれた。
パジャマ姿でリラックスしていると、結菜さんが、ジュースの入ったコップを持って来てくれた。
「お風呂上がりは喉が渇きますよね。これ飲んでください」
「ありがとうございます」
一気にオレンジジュースを飲み、しばらくすると急に眠くなってしまった。
なんでこんな急に‥‥‥。
ベッドの上で、睡魔で意識が朦朧とする中、結菜さんが僕の上に乗り、顔を近づけてくる。
「婚約者なんだから、いいですよね♡」
その言葉を聞いたのを最後に、僕は完全に寝てしまった。
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