Bパート2 ED Cパート 次回予告
GTはいきなりRAに向けて加速した。
歩いてきている間に、どのぐらいの力加減であれば、空回りしないかを測ってきたのだ。
もちろん光速に達するレベルではないし、音速にも届いていないだろう。
だが、このいきなりの加速は今までのゆったりとした動きからは、意表を突けるはずだ
――RAがまともな状態であればの話だが。
RAの右手が跳ね上がる。
(ジャイロジェット……?)
ビシュビシュビシュビシュ!
今までに見せたことのないジャイロジェットピストルによる連射。
だが、それはGTの足を止めるに至らない。
その全ての狙いが外れていたからだ。
もちろん不審さを感じるGTだが、何しろ加速の最中だ。
自分の進行方向とは逆方向に加速していく――それでも発射された直後なのでかなり遅いのであるが――ジャイロジェットピストルの銃弾と交差しながら、RAに迫る。
どんな策があろうとも、先に
そんなGTをラムファータの銃口が出迎える。
これも当たり前の展開、一旦停止して……
ギュアアアアアアアアッン!!
背後で異常な音が響く。
鉄骨が不協和音を奏でているのだ。それもあちこちの鉄骨が一斉に。
GTには振り返る余裕はない。
何しろ目の前に、ラムファータの銃口がある。
だが、想像は出来た。
曲げられ捻られた鉄骨のレールに沿って、ジャイロジェットの銃弾が弧を描き反転して、自分の背後に迫っている。
銃弾自体に加速するための装置があるジャイロジェットピストルの銃弾にしかできない芸当だ。
これは以前、西部劇の街で行われた銃弾による包囲網の再現。
しかし、今はリュミスのサポートはない。
しかも背後の銃弾は爆発を伴うのだ。
それなら、鉄骨に触れたときに爆発しろ、とも思うが銃弾の先端に弾頭が設置してあると考えると、それにRAの技量が加われば、今のような状況を作り出すことはさほどの難事ではないだろう。
元より、RAも一つも爆発しないまま、全弾がGTの背後に迫るような事態は想定していなかったの可能性もある。
だが、そんな推測は今は役に立たない。
出来る判断は活路が前にしか残されていないこと。
そして、その活路がラムファータによって塞がれているということだ。
ゴゥンッ!
ラムファータの銃口が火を噴いた。
ブラックパンサーで迎撃――この距離では銃弾の威力が違う。
この急場で正確に弾き飛ばせる保証はない。
P-999の威力では、最初から無理だ。
ギッ!
GTの奥歯が鈍い音を立てた。
そして、何を思ったかGTが両手の銃を捨てる。
さらに左腕を、自らの身体の前にかざした。
「おお……」
RAの喉から感嘆の声が漏れた。
GTの左腕を犠牲にして、突撃するその姿こそは、かつてRAが見たジョージ・譚の姿。
だが、その時とはジョージが攻撃されている状況が違う。
今、ジョージに迫るのは規格外の威力を誇るラムファータの銃弾。
左腕を木っ端微塵に打ち砕いた後に、GTの身体を四散させるだろう。
銃弾が――GTの左腕に――――接触した!
ギャン!
あり得ない音が響いた。
GTの左腕が、弾け飛んでいる。
肩から先の部分がおかしな具合にねじくれているから、左腕はもう使い物にならないだろう。
だが――それだけだ。
GT自身が消失エフェクトに包まれるような兆候はない。
「うぉおおおおおお!」
喉から
ドォオオオオオオオン!!!
GTの背後で爆発が起こる。RAの計算上、GTがいるべき場所だったはずの
その爆風すらも利用して、GTは右手をRAの喉笛に叩き込もうとする。
RAは――リシャールは、この瞬間に満足していた。
そして理解もした。
どうして、これほどにジョージに執着していたのか。
自分は無視されたのだ。
戦う価値のない存在として、完全に放置された。
それは怯えていた自分の本心を見抜かれてのこともかもしれないが――いや、だからこそ許せない。
――
そして今。
今だ。
髪の色も、瞳の色も違う。
だが目の前にいるのはジョージだ。
ジョージ・譚だ。
本気になった、ジョージ・譚にこれから殺される。
己も野獣なのだという
喉に食い込む五指の感触に恍惚感を覚えながらRAは笑う。
そして黒と白は爆発に巻き込まれて、一塊になって廃墟の中を吹き飛ばされていった。
~・~
……おぼつかない足取りで先に立ち上がったのは、GTだった。
言うことの効かない左腕はそのままに。
そして、その右足がRAの喉を踏みつぶそうとしていた。
そのまま踏みつぶそうとしたその時――
「――僕の負けです」
嗄れた声でRAが呟いた。
相変わらず雨は降り注いでいる。
雨が優しく二人の身体を包み込もうとしているようだった。
GTはずるりと、その右足をRAの喉からずらす。
「……納得しました。ただ不思議があります。なぜラムファータを弾けたんですか?」
「……腕時計だよ。頑丈さ優先で選んだから一か八かだった。くそ、よくもやりやがったな」
その悪態に、RAは満足げに微笑み、そのまま声を立てて笑い出した。
「ハハ……あれだけの殺しを重ねたあなたが、今更腕時計の一つで、そんなことを言うなんてね。しかも、それで僕に勝ったというのに」
「……うるせいよ」
まさか、どういう事情で手に入れた腕時計なのかをくどくどと説明するわけにも行かないGTは、そう短く言い返すだけで留めておき、じっとRAを見つめた。
「わかってます。アーディのいる座標ですね……それとこれもお教えしましょう。恒星ミーター、第四惑星・月読。そこには日系ヤクザ組織加東組の本家があります。そこのボスの名前は西園寺健悟」
「何を……」
「そのボスの兄、西苑寺哲士がフォロンの正体です。病弱が過ぎて家から出たこともないような人物ですから、知られていませんがね」
GTの目が見開かれる。
RAが自嘲するような笑みを浮かべた。
「ウフフフフフ……僕も、公安職員の端くれですから。一応は調べたんですよ」
そのまま、虚無的な笑い声を響かせるRA。
だが、それはどこか産声のような、無垢な叫びが伴っているようにも聞こえた。
「……まったく、業が深えなぁ」
GTがポツリと呟いた。
◇◇◇ ◇ ◇ ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆
オレンジに光る恒星ミーター。
その周囲に、次々と超光速でい近づいていく公安の連絡艇。
今、一つの世界が終わろうとしていた。
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次回予告。
フォロン――西苑寺哲士に迫る公安。
しかし、彼を裁くべき法は
悠然と構える哲士に、シェブランは告げる。
自らが敷いた秩序世界を、自らの目で確認しろと。
追い立てられるように哲士は、
そこには――
次回、「薔薇の花が舞う時、終わりを告げる鐘が鳴る」に、
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