Aパート2 アイキャッチ
こうして不安八割、投げやりな期待が二割というぐらいで再開したローダンの遊園地へと向かうこととなった。
「見た目はあんまり変わらないな」
入場前に、ざっと外観を眺めてみたところ、ジョージが解体した観覧車とジェットコースターのレールが見える。
「
早速分析を開始するリュミス。
GTの格好はいつでも同じの黒スーツ。
リュミスはボーダーのチューブトップの上から白のジャケット。それに黒のタイトなミニを合わせている。
どうも、本気でライブのヒントを拾おうと、仕事気分を高めているつもりのようだ。
何とか、GTに頼らずに新しいライブの形を見つけたい、という想いというか執念があるのだろう。
遊園地の女性スタッフは、GTを目印にしていたらしく、その姿を見つけただけで営業スマイルを貼り付けて二人を迎え入れた。
ゲートを潜ると、まず大きな広場になっているのは同じ造り。
というか、元の区画を利用しているのは間違いないのだから、この辺には手を入れてないのだろう。
元々、二人は遊具に乗るつもりもないのでそのままグルリと観察を続ける。
「前はカフェが目立っていたが……店の種類が増えたか?」
「そうか……遊園地には元々集客力があるから、この敷地の貸し出せば儲けも出るし客もまた呼べる。遊具を整理してスペースを作ったわね」
ほとんど
その時、上空から轟音が響いてきた。
ジェットコースターが、通りかかったのだ。
無言で、その姿を見つめる二人。
だが、この時本当に神経を集中させているのは聴覚の方だ。
あの時も異変に気付いたきっかけは、異様な音を察知できたからだ。
そして今日は――何も聞こえてこない。
――ジェットコースターの乗客から聞こえてくるはずの嬌声も。
「……苦戦してるみたいだな」
「でしょうね。あの事故の後に、あまり乗ろうとは思わないだろうし」
GTは、そこで視線を観覧車に向けた。
「あ~……観覧車も乗ってないな」
「イヤな……予感がするわね」
遊園地自体の客入りも、以前ほどではない。
物珍しい施設に釣られてとりあえず入場してみたが、そこから先は噂を聞いて積極的に遊ぶこともしないのだろう。
こうなると、リピーターが生まれずこの遊園地はやがて死に至る。
ローダンがそれに気付いていないわけがない。
「――やぁやぁ、今回はお招きに応じてくださいましてどうも」
イヤな予感が形になってやって来た。
熊のマスコットキャラクターらしい着ぐるみの中から顔を覗かせたローダンである。
「こうして、見事に復活が叶いましてどうも」
「「嘘をつくな」」
思わず二人の声が被る。
だが、ローダンは笑顔を絶やすことなく、
「実はお招きついでにさらなる発展に向けて、ご相談したいことがございまして」
もみ手をしていないことが不思議に思えるほどの、低姿勢でローダンが畳みかけてきた。
「相談?」
「リュミスさん。
「ど、どうも」
何だか笑いながらナイフを突きつけられているような感覚を覚えて、思わず腰が引けるリュミス。
「GTさんも、あのPVには参加してらっしゃった?」
「少しな」
「首謀者が何を言うか」
謙遜ではなく、明らかに関わりたくないという気持ちが透けて見えるGTの反応にリュミスが即座に突っ込みを入れた。
「ほう。首謀者」
ローダンが身体ごとGTへと向きなおる。
「折り入ってお話があります。そこのカフェにでも。さぁさぁ、どうぞ」
ローダンは着ぐるみの体積を利用して、二人をカフェへと追いやった。
~・~
説明は主にリュミスが行った。
GTが説明を拒否したという事情以上に、ローダンが聞きたがったのはPV制作に当たっての参加者と、その参加者がPVにどれだけの権利を有しているという契約関係の話だったからだ。
「なるほど。では使われた曲以外は、全部あなた方が買い取ったということですね」
「“私”が買い取ったの」
即座に訂正するリュミス。
それに深くうなずくローダン。
「それなら、ややこしくならずに我々が幸せになります――そうそう製作者の名前も宣伝しましょう」
「何を勝手に話を進めてるのよ」
「リュミスさん。それにGTさん」
ローダンがずいと身体を乗り出してきた。
「あのPVの影響力をなめてはいけません。あれは
「……徒花?」
GTがその言葉に反応する。
「ええ。この
「そうなの!?」
思わず、声を上げるリュミス。
「ええ。確かな筋からの情報です。だから、以降PV作成といっても、あれほどの苦労をすることは無いかも知れません。加工はともかくとして編集が出来れば、かなり手間が省けますし」
「本当に苦労したわ……」
「儲けは出てるんですか?」
「……まぁ、少しは」
言い淀むリュミス。
「そこで提案です。撮影に使ったセットを、私の遊園地でアトラクションとして公開しましょう、是非どうぞ」
そのローダンの言葉を、二人はすぐには理解できなかった。
確かにセットはある。
正確に言うと、撮影の後の残骸のようなものが。
片付けるべきなのかも知れないが、撮影のために新しい区画を開いたので、どうせ訪れるものもいないだろうとそのまま放置している。
「……どうやって遊ぶんだ?」
GTが思わず尋ねてしまう。
ただの残骸――それがGTの認識なのだ。
「遊び方は、しばらくは来場者に任せます。GTさん、私はアレを撮るための技術を広く公開すべきだと思うんですよ。インテリアや仕掛けはともかくアレを撮影するためにカメラを固定したままレールの上を走らせたでしょう?」
「お、おう。よくわかるな。まぁ、古典的な方法だが……」
「それでもなんでも、
「なるほど……」
ローダンの言わんとしているところを理解し始めたリュミス。
「自分の考えが合っているのか一目確かめてみたい。そういう玄人受けする部分があるということね」
「あるいは技術革新があるのか確かめてみたい。それにあのPVのファンにもうけると思いますよ」
「それはちょっと疑わしいけど……」
「大丈夫です。実際に、あの独特の世界に実際に足を踏み入れてみたいと思う人はたくさんいるでしょう。それにですね……」
「それに?」
「あのPVの舞台は
そのあまりに大げさなローダンの物言いに、二人は絶句してしまった。
~・~
赤いライトに照らされた部屋の中。
当たり前に時刻を示すようなものはない。
食事はまだ与えられていないが、水だけは最初から部屋の中に用意してあったらしく、その場所を教えられた。
そのうちに、トイレの位置も示されることになるだろう。
だが、シェブランからの説得はあの提案以降行われていない。
「ウフフフ……“仲間になれ”……」
なんと合理的な事か、と呆れてしまう。
確かに自分がその提案を呑んでしまえば、自動的に自分はフォロン達の場所を教えるという理屈になる。
提案は一つだけ。
それを受け入れる作業も一つだけ。
だが、享受する果実は大量。
なんという悪党か。
それが自分たちの敵――そう敵だ。
GT。
――GT。
――――ジョージ・譚。
敵でありたい。
あの男の敵でありたい。
そう思って、今まで何度も何度も戦ってきたが未だに充足を得ない。
もし――今、願いが叶うならば……
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