Bパート2 ED Cパート 次回予告

 もちろん、それぐらいでダメージを受けるGTではない。

 ボルサリーノを押さえながら、トンボを切って着地する。


 ガルガンチュアは身構えてGTの攻撃に備えようとするが、そこでGTはあらぬ方向に走り出した。


 もちろん逃げ出したわけではない。


 GTは残骸と化していたバルカン砲に近づくと、その欠片を適当に引きちぎり自らの拳に装着した。


「さすがに、金属と殴り合うと痛い」


 と、その行動を説明するといきなりガルガンチュアに向けてジャンプした。

 その高さは、まさにガルガンチュアの頭部の高さにシンクロしている。


 GTは右腕を大げさに振りかぶると、ガルガンチュアの頭部を思いっきり殴り飛ばした。

 そのパワーは圧倒的で、ガルガンチュアの巨体がよろめく。


 殴り飛ばしたことでジャンプのパワーを相殺したGTは、ほとんど真っ直ぐに落下すると、よろめいたガルガンチュアの右足を抱えて、そのまま持ち上げてひっくり返す。


 そして胸部装甲に乗り上がると、再び頭部を右、左、と何度も殴りつけた。


【……調子に乗ってンじゃねぇぞ!】


 この扱いには、さすがにクーンもキレる。


 即座に起き上がることでGTの足場を崩し、振り落とすと、今度はその巨体に任せてGTを踏みつぶしに掛かる。

 体勢がまともであれば、それをも受け止めようとGTはしただろうが、いかんせん突然振り落とされたのでバランスを崩したままだ。


「チッ!」


 舌打ち一つで、GTは横っ飛びにその場を回避する。

 それを追うガルガンチュア。


 二歩、三歩。


 巨体が踏み出すたびに、GTはその足下を逃げまどう。


 土煙が立ち上がり、地形が変わっていった。


 GTはその変化した地形をも利用して、ガルガンチュアの攻撃を回避しつづける。


【こなくそ~~!】


 業を煮やしたクーン。


【タナカパンチ! パンチ!! パンチ!!!】


 連続で右拳を地面に叩きつける。

 その一つを選んで、GTがその腕を駆け上っていく。


「うおおおおお、りゃあ!」


 そのまま肩まで駆け上がったGTは、ガルガンチュアの頭部を盛大に蹴り飛ばした。

 さすがにこの攻撃には、ガルガンチュアの頭部もひしゃげる。


 そして、そのまま倒れ込むかと思われたが、ガルガンチュアは左足を引いてその場に踏みとどまった。

 そして左腕で、GTを振り払おうとする。


 GTはそれよりも先に飛び降りて、再びガルガンチュアと正面から対峙した。


 お互いに飛び道具を使わない、正面からの素手喧嘩ステゴロ


 だが、それは人vs巨人。


 通常の世界では、到底成り立たない勝負だ。


 ――だが、天国への階段EX-Tensionではその無理が通る道理が引っ込むのだ。


           ~・~


 それはまさに死闘であった。


 すでにガルガンチュアから頭部は失われている。

 そのため、クーンはキャノピーを開けて、目で見ながら戦っている有様だ。


 左腕のキャノピーも吹っ飛んでいて、マイクの奇声が響く。

 右腕のタナカはもうずっと前から失神していた。


 GTもすでにボルサリーノは失い、銀の髪を振り乱しながらガルガンチュアと殴り合っている。

 スーツも、あちこちが破れジャケットに至ってはほとんどボロ布のような有様だ。


 それでも、その両の瞳からは輝きが失われていない。

 いや、むしろダメージを食らうたびに、さらに輝きは増し嬉々として巨人ガルガンチュアとの殴り合いに身を投じている。


 だが、そんな時間も永遠に続くわけではない。


 ガルガンチュアの関節部分からは、もう確実に何かがおかしくなっている音が響いている。

 しかも、GTが直接打撃を加えていない膝関節からもだ。


「GT、これを俺の最後の一撃とする!!」


 そんな状況の中、突然にクーンが宣言した。

 間違いなく機体ダメージが限界なのだろう。


 それに対して、GTは肩で息をしながら右手で手招き。

 クーンはそれにうなずいた。


「出でよ! コングロマリット!!」


 ガルガンチュアの右腕が左腕に叩きつけられた。

 すると、両腕の盾状の装甲板が変化して、長い棒――きっと剣のつもりが生み出される。


 ガルガンチュアは、その棒を握りしめると大きく振りかざした。


「受けよ、パンタグリュエル!!」


 恐らくはそれは、剣を振り下ろす技名なのだろう。


 それを見たGTは――エメラルドの瞳にうっすらと涙を浮かべていた。

 そして感極まったように呟いた。


「……な、なんてわかった奴なんだ」

『ネーミングセンスはともかく、本当によくできた人です』


 モノクルも積極的な同意を見せる。


 ズァアアアアアアアアア!!


 恐らくは“コングロマリット”という名の剣が“パンタグリュエル”という技名を背景に振り下ろされる。


 もちろん、出来た悪役としてGTはそれを避けたりはしない。


 喩え、今までの敵を一撃の下に屠ってきた必殺技でも、ラスボスの矜恃として一度は受け止める。


 実際には不可能と言われる“真剣白刃取り”。


 しかしGTの目と反射速度と膂力があれば、それが巨人ガルガンチュアの一撃であってもそれは不可能ではない。


 ガシィイイイイ!


 GTの両手が見事にコングロマリットを挟んで受け止めた。


 ガコッ!


 GTの足下の地面がすり鉢状にへこむ。

 だがGTの身体が折れることはない。


「ぐぅううう……」


 GTの口の端から呻き声が漏れる。

 受け止めたとはいえ、GTの受けたダメージは明らかだ。


「GT! お前は最高だ!!」


 クーンは叫び、コングロマリットを引き戻す。

 そして、右足を引いてコングロマリットを垂直に立てて構えた。


 日系人が見たら、即座に指摘するだろう。


 それは、八相の構えだ――と。


 クーンがその構えを知るはずがない。

 だが、今まで積み重ねてきたクーンの“あれ”な経験が、この構えの力強さを知っている。


 それを見上げるGTは思わず呟いていた。


「……あ、いかん」

『どうしました?』

「これ避けるわけには、いかんだろ」

『避けようと思う方がどうかしてます』


 男二人のバカ会議は終わった。

 このまま行けば、クーンは念願の初勝利を手に入れることとなる。


 だが――


 チュン!


 ライフルの銃声が響く。


 GTの目にはクーンのコクピットに飛び込む銃弾が確認できた。


 開け放たれたキャノピー。

 そして、そこから丸見えのコンソール。


 その中枢部分に致命的な一撃が飛び込んだのだ。


 ブッシュウウウウウウウウ!



 その一撃を受けた瞬間、たまらずにガルガンチュアは、全身から煙を吹き出して停止してしまった。


「リュミスーーーーーーーー!!」


 本気の殺意を込めて、GTがその名を呼ぶ。

 だが、リュミスは平然と返事をした。


『時間よ』

「は?」

『だから、時間。もう接続時間ギリギリなのよ。時間見てろって言ったでしょ』

『ああ、そういえばそろそろですね』


『あなたが一回でも負けたらクーンは終わりだとしても他の連中が勢いづくでしょ? その辺わかってる? それにこのまま殺されたらバカ同士で、語り合うことも出来ないでしょうし』

「お、おう」


 確かに、このまま殺されてしまってはお互いの健闘を称える時間はない。

 リュミスはさっきの一撃で、クーンの頭を吹き飛ばすことも出来たのに、あえてコンソールを狙ったのだ。


「ロボットをバカにしたのは許されないが……」

『許されなくて良い』

「今回の判断には、感謝だ。後でロブスターをおごってやる」


 確かにそれはGTにしてみれば最大限の感謝なのだろう。


『わかったわかった。こっちはもう切断ダウンするから、好きにしなさい』


 GTは、リュミスがいる方向に軽くうなずくと、動かなくなった巨人ガルガンチュアへとゆっくりと近づいていった。

 すると、まずそれを出迎えたのはイザークだった。


 右足のキャノピーが開け放たれており、今日初めて姿を見せたわけだが、イザークは深々とGTに一礼した。

 その行為にどんな想いが込められているのか。

 GTは言葉を掛けずに、こちらにも軽くうなずくだけで応じた。


 左足からはついにスリーKとやらは現れず、腕に乗っている二人はグロッキー――タナカに関しては心に関わりそうだが、GTが気にすることではない。


 GTは、軽くジャンプするとクーンの乗るコクピットに足をかけた。

 そして、一番良いところで動きを止められ、放心状態のままのクーンに、こう声を掛けた。


「――またやろう」


 クーンは、その言葉に顔を上げる。

 そして僅かに笑みを浮かべ――


 ――接続時間限界によって、その場から切断ダウンしていった。


◇◇◇ ◇  ◇   ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆


 惑星ジャガーノートに本拠地を置く、ガルガンチュアファミリーが一斉に検挙されたのはそれから一時間後のことである。


 容疑は、接続延長薬ハイアップの密造、および販売。

 構成員はほとんど抵抗もせず、官憲の指示に従って大人しく拘留されていく。


 そんな中、片眼鏡をかけた男がファミリーのボス、クーンの前に姿を現した。

 場所は事情徴収のために一時的に接収されたホテルの一室。


 どういう絡繰りを使ったのか、片眼鏡の男はクーンと二人きりの状況を作り出した。


「先ほどのロボットはお見事でしたよクーンさん。この姿でお会いするのは初めてですね。私はシェブランといいます」

「……なるほど、お前が“片眼鏡モノクル”か」


 さすがに憔悴した様子のクーンだが、その声には力がある。


「連合の中でも顔が利くらしいな。あのロボットを褒めてくれるなら部下には厳しくしてくれるなよ。俺が巻き込んだ連中がほとんどなんだ」

「……なるほど、それがこの惑星ほしの気風なんですかね」


 クーンの訴えに、シェブランはどこか楽しげに応じた。


「なんだと?」

「この惑星ほしのお年を召した方々から『クーンのような小僧っ子、儂らの使いっ走りのようなものだ。小者を捕まえて粋がってないで自分たちを捕まえろ』と訴えられましてね」


「……あのジジイ共……」

「ここで相談なんですが、クーンさん」

「何だ? 言っとくがジジイ達は――」


接続延長薬ハイアップの研究をお続けになりませんか? あの薬自体はこれからの時代必要になると思うんです。ただ、常習性があるのがマズイ。これを取り除く研究をお願いしたい。あなたは天国への階段EX-Tensionで、人材を集めてくるだけかも知れませんが、それでも凄い手腕だ」


 その言葉に、クーンは混乱した。

 これから自分たちは取り調べられて裁判を受け、刑に服するはずだ。


 この男は一体何を――


「これは取引です。“私達”の仲間になってくれるのなら、今回の件が軽く済むように取りはからいましょう。仲間になってやって欲しいことは、先ほども申しましたように接続延長薬ハイアップの研究。あと、そうそう――天国への階段EX-Tensionでのロボット制作も依頼しましょうかね」

「お、おい、お前は――」


 シェブランの言葉に驚き、それを遮ろうとするクーン。

 だが、シェブランはさらに言葉を重ねることで、その動き自体を封じてしまった。


「私も悪党なんですよ。ある目的のために動いているね。そのために今は信頼できる人を集めているんです。あなたが部下を見捨てるような人であればこの話は持ち出しませんでしたが、有り難いことにあなたは違った」


 すぐに返事が出来るものではない。

 だが、これを断ればまともに刑に服する以上の事態を招くことはわかる。


 何しろ自分から“悪党”と名乗ったのだ。

 となると出来る返事は限られている。


 だが――


「……一つだけ確認したい。GT――ジョージもその仲間なのか?」

「実はまだなんですよ。ただ、仲間にはしたいと思ってます」


 聞いたところで、返すべき答えが変わるものでもない。


 だが、シェブランの答えを聞いて、心のどこかで納得している自分がいた。

 クーンはその気持ちと共に右手を差し出しながら、


「だからって、フォロン達の居場所は売らねえぞ」


 シェブランはにっこり笑って、その手を握りしめた。


「それもまた、私達にとって有り難い言葉です。あなたを仲間に出来た喜びが増えるというものですよ」


 ――この年、ガルガンチュアファミリーは壊滅した、と連合の記録には残されている。


--------------------------------


次回予告。


――宇宙にいる限り“篭”一派の手は及ばない。


それが過信であったことを、GT達は知ることになる。


モノクルからの警告を受け取ったリュミスは慌て、必死になって逃げようとするが“敵”はプラスチック・ムーン号を追い詰める術を持っていた。


次回、「星の煌めきよりも速く」に接続ライズ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る