Aパート2 アイキャッチ
それからおよそ十分後。
プラスチック・ムーン号のリビングで、リュミスが受けてきた勝負の内容が
「馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが……」
「馬鹿だと思われていたんだ。よりにもよって、あなたみたいな馬鹿に……」
馬鹿同士の不毛な会話が、リュミスの説明の締めくくりだった。
その説明を要約すると、
一つ。
対戦するスポーツはサッカーである。
二つ。
GT達が負けると、リュミスは相手の指定した
「……どう考えても、馬鹿の取引だ」
「う、うるさいわね。ちょっと周りに煽られて、引っ込みが付かなくなったというか……」
ケートが側にいたのがマズかった。
途中で、クーンの面白さに気付かれてしまったのも最悪だった。
気がつけば、ケートが触れ回ったせいか周りにファン達が集まっていて、尻尾を巻いて逃げ出すわけにも行かなくなっていたのだ。
「そこは、どうでもいい」
「え?」
「クーンに負けるわけがないだろ。俺が馬鹿だと言ってるのは、何でこっちが勝ったときの条件を決めてないのかってことだ」
「あ。そっちね……」
「仕方ない。モノクルに考えさせよう」
「ほ、報告するの?」
「当たり前だ。何、子供みたいな事言ってンだ」
「ぐっ……」
一言も言い返せない。
「で、何処まで段取り出来てるんだ?」
「クーンのことは置いておいて、試合場の設営はこっち……というか、一応第三者のみんなでやってくれることに。クーンも元々、
「まぁ、当然だな」
そんなジョージの偉そうな態度がいちいち癇に障るものの、負い目があると自覚しているリュミスはぐっと我慢する。
「私達のチームは、まぁ、ファンから有志を集めて、という流れね。サッカー経験者を中心に集めたいところだけど、相手がマフィアってばれてるから、ちょっと集まりが悪い」
「それはご苦労なことで。ま、頑張ってくれ」
――ん?
いま、ジョージはおかしなことを言わなかったか?
「あなたも参加するのよ!」
「何を言ってる? 俺はルールを知らないぞ。最初に興味がないって言っただろ」
「にしたって、ルールぐらい……それに、参加するつもりが無いなら何だって“クーンに負けるわけがない”になるのよ?」
「試合している間に、撃ち殺せばいいじゃないか」
あっさりと告げるジョージにリュミスは二の句が継げない。
そして言葉を紡ぎ出せない代わりに勢いよく立ち上がると、両手をワキワキさせながら、
「こ、こ、こ、こ――」
「こ?」
「この馬鹿がーーーーーー!!!」
勢いよく雷を落とした。
~・~
――果たして、
結論から言うと“降るときもある”である。
要は現実と同じだ。
なので、試合当日の天候がどうなるか危ぶまれたが、快晴とは言わないまでも十分に恵まれた天候だった。
便宜上、リュミスチーム側は真っ赤なユニフォームに身を包んでいる。
そしてクーンチームは、真っ黒だ。
そしてその真っ黒の一団の中に、意外な顔があった。
アガンだ。
「……お前、何してんだ?」
クーンとの交渉のために、赤いチームを離れ黒いユニフォームの集団に近づいていったGTは思わず声をかけた。
『ははぁ』
実のところ、ユニフォームにチェンジすることを拒否したGTはいつもの黒スーツなので、胸元に薔薇もちゃんと刺さっている。
『クーンさんだけじゃ勝ち目がなさ過ぎると思ってましたが、こういう段取りでしたか』
「どういうことだ?」
『だって、こっちにはあなたにリュミスさんという特殊能力持ちが二人もいるんですよ? クーンさんだけで、どうやって勝つんです?』
「勝つための策としてはアガンの協力もそうだが、お前はルールを知らないだろ?」
黙りこくっているアガンの向こうから、クーンが説明を加えてきた。
なるほどそこに勝機を見いだしてきたわけか、とこの馬鹿馬鹿しすぎるクーンの申し出に、GTも一応の理解を示しておく。
「おいおい、頼むぜ。いきなり反則やらかして退場なんて事になったら、こっちも張り合いがねぇからな」
『その点は大丈夫です。私がちゃんとサポートしますから』
モノクルの声は弾んでいた。
『――ところで、私の不在を良いことに、何だか随分と偏った賭けを押し通されたようで』
「何を言ってやがる。それは、そっちのミスじゃねえか。偏ってようが何しようが俺の知ったことか――」
モノクルとクーンの交渉がヒートアップしていく中で、GTのアガンを見つめる視線はドンドンと温度を下げていく。
「な、なんだ、てめぇ……」
たまらずに、アガンが何事か言い返そうとするが完全に飲まれている。
“位付け”が完全に済んでいる形だ。
「……お前、本当に何にもできないのな」
「な……」
「クーンは馬鹿だけど、とりあえず現状を何とかしようとしてる。お前、芸能界で何やってたんだ? 顔が抜群に良いのも確かに才能の一つだが、お前、それに頼り切りで他に何にもしてないのか?」
「お、お前らみたいな、底辺にいる連中とやり合う方法なんか、知ってるわけねぇだろ!」
「だけど、お前、現状じゃその底辺の俺達とやり合わないと、にっちもさっちも行かねぇ状態じゃねえか。アーディとか言うのに飼われて、
『はいはい、そこまでそこまで。今日は何しろスポーツをするわけですからね。ここでヒートアップして、試合が壊れたら何にもなりません』
さらに、詰め寄ろうとしていたGTをモノクルが止めた。
実際、ここで止めなければアガンはGTに斬りかかっていただろう。
そうなれば当然試合は中止――
『横着は許しませんよ。非常に不本意ではありますが、こちらが勝った場合の条件も飲んでいただいたことですし』
「そうなのか?」
『ええ、泣く泣くですが、仕方ありません』
の、割にはモノクルの機嫌は上々のようだが。
GTはそこに突っ込むのはやめておいた。
交渉ごとに勝ったと気炎を上げるクーンをその場に残して、赤いユニフォームの集団に戻る。
「……やっと、戻ってきた」
そして、こちらにはイライラがマックスにまで達しているリュミス。
今日はユニフォームに合わせて、髪の色は赤。それを三つ編みにしてさらにひっつめて小さくまとめている。
「あなたには、ゴールキーパーをやって貰うから。それなら一人だけユニフォームの色が違ってもそんなに違和感ないし、やることも簡単だから」
「そうなのか?」
「ボールを、あそこに入れたら良い競技だって事は理解したわね」
リュミスが設置されたゴールを、指さしながら確認する。GTもそれにうなずいた。
「ああ」
もっとも、そこしか理解しなかったとも言い換えられるのだが。
「相手も当然それを狙ってくるわけ。だからあなたはそのボールを止めて。キーパーだけは手を使っても良いから、あなたの身体能力だと、まず問題ないでしょ――モノクル」
『はいはい。その他については、出来るだけ私がフォローしましょう。何だか勝手に始まった勝負とはいえ、負けるわけにもいきませんからね』
素直に応じながらも、イヤミを混ぜてくるモノクル。
だが、今のリュミスには負い目があるので、言い返すことも出来ない。
「バラキア! さっき話したとおり、キーパーが素人だから、スイーパーの位置に入って。守備の指示はあなたが出してよ――それからケート!」
リュミスはその場から逃げ出して、チームメイト達に荒く指示を出していった。
「……あいつ、サッカー詳しいんじゃねぇか?」
『ねぇ』
スポーツに興味のない男二人がテンション低くそれを見送る。
~・~
ピーーーーーーーッ!
審判がホイッスルを吹き鳴らした。
試合開始だ。
この審判も誰がやるかでかなり揉めたのだが、リュミス陣営、クーン陣営共に色々な候補を疑ってかかり、最終的に両方共が納得したのが、この審判だ。
どうやら
見つけてきたのがクーン陣営のマイクであることも、信頼性が増した一因だ。
マフィアのクセにすれてなさ過ぎるマイクは
もちろん、かなりの参加者がこの場に押しかけてきている。
なにしろ
階段式の、簡易な観客席は八割方埋まっていた。
キックオフの権利を獲得したのは、クーン陣営。
センターサークルに陣取るのは、クーンとアガン。
まずはセオリー通りに、クーンは自陣へと大きくボールを戻す。
それを受け取ったのは、顔に傷のある赤毛の男――イザークだ。
「36K! 1F! 2A!」
クーン側のゴール前に陣取る、眼鏡の小男が突然叫んだ。
「なんだ?」
『恐らくは、攻撃パターンを暗号化して、指示を出してるんでしょう。何か練習してますね~』
「その暗号は、わかるのか?」
スイーパーの位置にいるバラキアが振り返って尋ねるが、
『まぁ、とにかく一度攻撃を見てみないことには』
「それもそうか」
と、呑気な会話を繰り広げている間に、イザークから再びボールを回されたクーンが右サイドを上がっていく。
傍目に見ても酷いドリブルだが、それを阻止する方も素人なので、リュミス陣営の中程にまで進まれてしまった。
そしてリュミスチームがわらわらとそんなクーンに駆け寄っていく。
ボールのあるところに誰も彼もが寄っていってしまうという、素人の試合にありがちな光景である。
その点、幾らかでも練習してきたクーンチームには戦術があった。
クーンが、大きく左サイドへとフィードする。
その先には、フリーで左サイドを駆け上がってきたマイクがいた。
「しまった! こんどはあっち!」
と、素人丸出しの指示をリュミスが飛ばすが間に合うはずもない。
もちろん、ダイレクトで折り返す――などという事をこの局面下で選ぶはずもなく、マイクはキッチリとトラップしてボールを足下に落とした。
そして、ゴール前にセンタリング。
しかし、誰もいない――いや。
アガンが、随分遠くからゴール前に駆け込もうとしている。
動くのがめんどくさかったのか、バラキアがスイーパーの位置にそのままいるので、対応しようとするが、相手は腐ってもアガンである。
一瞬の爆発的な加速で、バラキアの視界から消え失せると、そのまま頭でボールを押し込んだ。
加速の勢いも完全に殺していないので、その運動エネルギーを加えられたボールは大きくひずみ、反発するエネルギーでゴールマウスを目指す。
GTはまったく動こうとしていない。
左右の揺さぶりに、ついて行けないのか、やる気がないのか。
そのGTが、僅かに身じろぐ。
(馬鹿め。今から詰め寄ってきたら、ボールを押し込むついでに刺し殺してやる……!)
アガンの瞳が殺意に歪んだ。
ドゥンッ!
「え?」
響き渡る銃声。
アガンの目の前で、ボールに銃弾がめり込んでいく。
◆◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆ ◆ ◇◆◇
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