Bパート2 ED Cパート 次回予告

「RA、見違えたぞ。人間に進化したのか?」

「ウフフフ。手先も器用になりましてね。銃も変えました」


 そう言って、RAは二つの銃を両手に装備してみせる。

 普段ならここで薔薇がしゃべり出すところだが、今、モノクルは接続ライズしていない。


「銃は信頼性がどうとかいってなかったか? 俺でもそんな銃見たこと無いぞ」

「あなたを倒す為には、いかなる主義主張も変更されて然るべきなのですよ、ウフフフ」


 今までリュミスが歌っていたステージで、わけのわからない会話を繰り広げる二人。

 客は怒り出してもいい状況ではあるが、未だに棒立ちのままだ。


 それを良いことに、二人はさらに会話を交わす。


「秩序の維持とやらも変更になったのか? その割にはすぐに俺に攻撃を仕掛けてこなかったようだが……」

「今日は本当に挨拶のつもりだけだったんですけどね。ウフフフ。エトワールさんがお困りのようでしたので思わず手伝ってしまいました」

「……へぇ」


 RAにも、リュミスの銃が狙いを外すことがわかったということだ。

 そこまでならいい。


 問題なのは、一番早く的を撃ち抜いたのがRAだったという事実だ。


「――ちょっと俺とやり合わないか、RA」

「ウフフフ。戦力分析ですか? そうとなれば私も本気を出さざるを得ませんよ」

「ちょっと!」


 リュミスの声が割り込んだ。

 さきほど、GTにいきなり抱え込まれて舞台の袖に下ろされていたのだ。


「こんなとこでやりあわないで! みんなが危ないでしょ!!」

「ウフフ、大丈夫ですよ」


 それに対して、RAが先に答える。


「頭を低くしていればそうそう当たるものではありません」


 反論のズレ方が誰かを彷彿とさせて、思わずつんのめるリュミス。


「気が合うなぁ、それじゃあ、るか!」


 ドゥンッ!


 挨拶代わりの咆吼が、ブラックパンサーの銃口から迸る。


 ゴゥン!


 ラムファータの返礼が、その銃弾を打ち砕いた。


 ステージ中央で、火花が激しく散る。

 そして二人は黒と白の残像をその場に残して高速移動を開始した。


 要所要所で、足を止めて銃撃を行う。


 そのために、現れては消え、現れては消え、を繰り返す二人の姿はほとんど魔法使いのように観客には感じられた。

 だがそれでも、これは二人の最高速度ではない。


 足下が、人工物のステージであるために二人の全力を受け止めるだけの強度がないのである。

 二人はお互いの行動に気を遣うのと同じぐらいに、かなり優しく足下を扱っていた。

 そして、それをする限り現状で不利なのはGTであった。


(こいつ……!)


 元々、出現するたびに強くなっていた男だ。

 だが、今回は桁違いに強くなっている。


 今のRAは、見慣れぬ巨大なリボルバー一つでGTがひたすらに打ち続けているブラックパンサーの銃撃をかわしている。

 もとより、お互いに銃弾を見切ることが出来るのというのが基本ではあるが、回避するであろう場所に前もって銃弾を撃ち込んでいくこともまた基本。


 RAは今までならそれを右手に持った銃で、そういった“前置き”の銃弾の露払いに使用していた。


 だが、今使っているのは左手の銃だけである。

 しかも、それは六連装のリボルバーなのだ。


 さほど手間もかからずにリロードされる天国への階段EX-Tensionでの事とはいえ、そこには僅かながらタイムラグがある。


 それをものともせずに、RAはGTと互角なのだ。

 そして、右手の奇妙の形の銃は未だに火を噴いていない。


「どうした! その右手の銃は飾りか? バランスを取るためのおもりにしちゃ軽そうだが!」


 高速で移動、その合間の銃撃。そして回避。

 しゃべることさえ困難な戦闘の中、GTはRAを挑発する。


 それは余裕の表れではなく、右手の銃に対する不安や焦りが思わず口に出たものだった。


「……ウフフフ、気になりますか。ではお披露目と行きましょう」


 右手のシキョクが鎌首をもたげた。


 RAは、音もなくスライドするように横移動。

 0.1秒間隔で、シキョクの引き金を絞る。

 それに備えようとするGTの思考が、そこでつんのめった。


 遅い。


 銃弾が遅いのである。

 当然かわすことは難しくない。


 ――ならば!


 それをRAが後生大事に切り札だと主張するなら、今ここでチェックメイトだ。

 撃たれた銃弾の隙間を見切り、ブラックパンサーを……


 だが、GTの目はそこで再び信じられないものを見る。


 銃弾が加速したのだ。


 RAの右手の銃から放たれた銃弾が、火を噴き、回転しながら加速している。

 冗談みたいな光景だが、間違いない。


 だが、結局は同じ事。


 速度が変わろうが、その銃弾の軌道に明確な変化が起こるわけではない。

 GTは、恐るべき胆力と技量とで瞬時にそれを判断し、RAに銃口を向ける作業を継続した。


 そのRAは今度は左手の銃を、こちらに向けている。

 だがそれでも、予定に変更はない。


 GTは引き金を絞る。

 ほとんど同時に、RAも左手の銃を撃った。


 今度はまともな速度の――


 ――ゾクリ。


 そう感じた瞬間に、GTはステージを踏み抜きつつも空高く飛び上がった。


 一瞬の嫌な予感の原因は、RAの追撃が正確には自分を狙っていない、と判断できたこと。

 RAの左手の銃から放たれた一撃は、右手から放たれた銃弾の一つに狙いを定めていた。


 そこから連想できる事態――


 バッゥゥン!


 GTが一瞬前までいた地点で小規模ながらも高熱を伴った爆発が確認された。

 至近で食らっていればひとたまりもなかっただろう。


 かわしたとしても、その光と熱がGTに致命的な隙を生じさせてしまう。


 光速移動は、それを行えるだけの状況が揃うことによって初めて可能だ。

 回避行動のあと、こんな不安定な足場の上で行えるものではない。


 ドドドドゥンッッ!


 宙返りしたGTのブラックパンサーが、客席に飛び込もうとしていたRAの遅い銃弾をことごとく撃ち抜いた。


 ババババァンッッッ!


 連鎖的に爆発が起こる。


 これは観客席への被害を抑えるというよりも、むしろその爆音の間に着地したいというGTの欲求も大きい。

 だが、それを素直に口にしたりはしない。


「お前! 観客巻き込んで、正義の味方気取れると思っているのか?」


 着地と同時に転がりながら、GTが文句を付ける。

 そこにラムファータとシキョクで追撃を加えるRA。


 速度の違う弾丸が紛れ込んでいることで、著しくかわすための難易度が上がっている。

 しかも、その内の半分は“爆発する銃弾”だ。


「ウフフフ。あなたを倒すためなら、全ての行為は正当化されるのです――先ほど、申し上げたとおりにね!」


 RAの姿が世界に滲む。

 そして白いサークルがGTの周囲に展開された。


 RA一人に、GTが包囲されたのだ。

 状況は極めて不利――


「――リュミス! お前の銃を寄越せ!!」


 白いサークルによって、今まさにリュミスの視界からGTが消えようとした直前に救いを求めるGTの声がステージに響いた。


 それにリュミスがとっさに反応できたのは、自分もそうしたいと思う気持ちがあったからだろう。

 GTがRAと同じく、二つの銃を使えるのならば、負けるはずがない、と。


 サークルが閉じる寸前、GTとリュミスの瞳が交差し、うなずき合う。


 GTは、輪の中心点にいる状況をまずは打破すべく、高速で動くRAに的確な銃撃。

 いくら高速であってもGTの目は誤魔化せない。


 その銃撃によって僅かに輪が乱れるが、それでもRAの移動も攻撃も止まらなかった。

 だが、その隙にリュミスが空高くジャンプする。


 そして伸身の後方宙返り。それによってリュミスは視界の中にサークルをすべて収めることが出来た。


 もちろん、そこから狙いなどは付けられない。

 RAの姿も捉えられない。


 だが、銃弾がどこに集まっているのかは簡単に理解できた。

 サークルの中央に、リュミスはとにかくP-999のありったけの銃弾を撃ち込んだ。


 バンッ!


 その一つが遅い銃弾を撃ち抜いたようだ。

 銃弾の過密地帯であった周囲一帯もそれに連れて誘爆を繰り返し、音と光が飽和する。


 それを目くらましにして――いや、それが起こる以前にGTはすでに飛んでいた。


 そこにはリュミスの宙返りの勢いで放り投げられた、銃弾を撃ち尽くしたP-999が。

 RAはそれを阻止しようとするが、自らの銃弾が引き起こした爆発と、


 チュン!


 今度はリュミスが空中で放ったライフルの一撃に牽制されてしまう。


 そして、その隙に――


 ジャコン!


 着地したGTが持つP-999とブラックパンサーの薬室チャンバーが同時にスライドして、GTの戦闘準備が整ったことをRAに知らせた。


「……二丁拳銃は、格好悪いんじゃなかったんでしたっけ? ウフフフ」


 それを見て、随分前にGTに揶揄されたことを持ち出すRA。


「格好付けて負けるよりも、必死になって勝った方がまだマシだからな」


 GTもそこは覚悟の上だ。


「――さぁ、仕切り直しだ」

「ウフフフフ」


 二人は、再び銃口を向け合う。


 GTが両の手に銃を持ったことで、戦況は互角となった。


 遅い銃弾はRAが撃つ端から、P-999で狙撃。

 元より、GTに利き手利き腕という不自由な発想はない。


 両方とも自在に動かせなければ、とっくの昔に骸を晒していただろう。


 こうして、互いの左手P-999右手シキョクが牽制し合うこととなり、勝負は互いのメインウェポンである、ブラックパンサーとラムファータの撃ち合いが主となった。


 だが、こうなるとお互いに致命的な一撃を加えることが出来ない。


 今までであれば、RAの銃弾を正面から打ち砕いて、さらに連撃を銃そのものに加えることで、その武装を無力化することも出来た。

 だが、今はブラックパンサーが押されている。


 人類には扱えない、とまで言われた強力すぎるが故の欠陥オート“あの”ブラックパンサーが。


 だからこそ、威力だけは一週間の世界ア・ウィーク・ワールド最強のはずだ。

 ところが、RAの持つ銃は明らかにそれを上回っている。


「そんな銃! どこで手に入れた!?」

「例の、イヤミなお友達はどうしたんです? ウフフフフ。喧嘩ですか?」


 それでも互角にやり合えているのは、リボルバーとオートの装弾数の違いだろう。


 二人の銃撃戦は、まさに互角。

 世界に、自らの姿を滲み込ませながら、銃弾をかわし、はじき、時には銃把で殴り合う。


 果たしてそれは、奇しくもどんな一流のパフォーマーでも到達できないレベルのショーでもあった。

 リュミスのライブの観客達は何時しか二人の銃撃と戦いに魅了されていく。


 そして拳を振り上げて、


 ウォオオオオオオオオォォォォォォォォ!


 と、無責任な歓声を送っていた。


 GTがある程度知られていたこと。

 リュミスの関係者らしいこと。

 そして、窮地から今の状況にまで持ち直したドラマ性。


 そのおかげか、観客の支持を集めていたのはどちらかというとGTだった。

 一方で、正体不明のRAにも魅力を感じた者がいるのか、こちらも声援を集めている。


 そこにパラキアが噴水を操って、ときおり彩りを加えた。

 リュミスのライブのあとにくっついてきた余興にしては、盛り上がり方が半端ではない。


 ――だからだろうか。


 皆が忘れていた。

 この天国への階段EX-Tensionには時間の限界があることを。


 戦いの合間の、ちょっとした小康状態が訪れた時にラムファータの銃口から白煙が立ち昇った。

 それを、RAは芝居ッ気たっぷりに吹き消して見せる。


「……どうした?」

「残念ながら、時間のようです」


 RAは純白のボーラーハットを脱いで、優雅に一礼。

 そのまま、唐突に消えてしまった。


「――くそ! 仕留めきれなかったか!」


 そう毒づく、GTの姿もかなり不安定だ。

 ライブの準備のため早くに接続ライズしていた分、こちらもさほど時間が残っていない。


「みんなーーー! 怪我はなかった!?」


 時間が残されていないのは、リュミスも同じだったが、さすがにここでうやむやにするわけにはいかない。

 ステージに昇りながら、リュミスが締めにかかる。


 この最初の呼びかけに、戸惑うものは多かったが不満の声が上がるようなこともなかった。

 やはり、すでにライブという日常から切り離された状況に置かれていたことで、どこか麻痺している部分もあるのだろう。


「最後に、とんでもないおまけが付いちゃったけど、今日のライブはこれで終わり! 今日は来てくれてアリガトね!」


 そこで元気よく手を振ってみせるリュミス。

 それに歓声で応える観客達。


「実はね、今日のライブはこの黒ずくめのトリガーハッピーが色々手伝ってくれたの。だから次のライブも期待して――ただし、銃撃戦はもうないからね!」


 そこで再びのウィンク。

「じゃあ、みんな。気をつけて切断ダウンしてね!」


 そう言ったリュミス自身が切断ダウンすると、観客達もそのまま切断ダウンしていく。


 ――こうして祭りライブは終わった。


◇◇◇ ◇  ◇   ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆


 ライブが終わった、ほとんど直後の「プラスチック・ムーン」号。

 そのリビングルームで、ジョージはライブ活動からの引退を宣言した。


「ダメ」


 それをにべもなく却下するリュミス。

 切断ダウン直後なので、幾分か表情がはっきりしないが、その言葉は聞き間違えようがなく明瞭だった。


 ジョージは即座に言い返す。


「ダメも何もあるか。あれじゃあ、外部からの守りに対して無防備すぎた。あのステージの形は完全に失敗――」

「どこにも失敗はないわよ。ライブは大成功」


 リュミスの瞳に力が戻ってきた。


「最後の銃撃戦は、別にあなたのせいでもないし、ちゃんとお客さんも守ってくれたし」

「しかしだな……」

「――困難だからという言い訳で、あなたは何もかもを諦めるの?」


 それは、殺し文句だった。


 据わった目のリュミスに、そう告げられてはジョージも後に引けない。

 グゥの音も出すことが出来ずに、そのまま黙り込んでしまった。


「大丈夫よ。これからのライブにはあなたが護衛してればいいんだから。そもそも、私の護衛のためにこの船に乗りこんだんでしょ? 最初から最後まですっきりした話じゃない」

「それは話が違うだろ」


 さすがにこれには言い返すGTだが、リュミスはそれには耳を貸さず、


「そろそろどこかに降りるから、その話はロブスターでも食べながらにしましょう。今日はもう眠いわ。シャワー浴びてくる」


 と、情報の洪水でジョージを圧倒すると、さっさと席を立ってしまう。


 一人残されたジョージは、感情の行き場を失い――


 ――ハンモックの上に引きこもった。


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次回予告。


“篭”一派の勢力を削る活動を再開するGT。

その前に、現れるフォロン。取り合わないGTであったが、さらに現れたアーディによってGTはいともたやすく押さえ込まれてしまった。


だが、それではお互いに決め手にはならない。

フォロンは今の状況が膠着状態であることを指摘し、O.O.E.という世界の秘密を語り出す。


次回、「雲の上にて」に接続ライズ

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