Bパート2 ED 次回予告

 そして今、図らずも長期休暇を取ることとなり、そこから復帰しようとしている者がいた。


 全身に十二発の弾丸を撃ち込まれるという悲惨な殺され方をして、深いダメージを負ったRAはしばらく接続ライズも出来なかったのだ。


 天国への階段EX-Tensionでの事とはいえ、あれだけのことをされれば、生身に影響が出ないわけがない。

 そのためにRAがアーディの玉座の前に現れたとき、フォロンは安堵よりもむしろ驚きでRAを迎えることとなった。


 だが、それは早々の復帰に驚いた、というばかりのことではない。


 まず、RAの姿形が完全に変化していた。

 犬耳に尻尾というわかりやすい異形を抱え込んでいたはずだが、今のRAにはそんな要素は微塵もない。

 完全な人間として、その場に立っていた。


 GTと対を成すような、完全にしろづくめの格好で、白のボーラーハットに純白のスーツ。

 光沢のある黒いシャツに深紅のタイ。


 そして胸元には青い薔薇。


 黒髪と、黒い瞳に変わりはないが、その瞳はさらに黒く深くなっているように思えた。


「RA……か?」

「申し訳ありません。長期のいとまをいただいてしまいました。本日より復帰させていただきます」


 自分がいない間に、仲間内では重大な事態が訪れているのだが、RAはそれを知るよしもない。

 いや、それどころか明らかに憔悴しているフォロンの姿にもまったく興味を示さなかった。


 ただ、その口調が丁寧なだけで、大事な“何か”が明らかに欠けている。


「そ、それはいい。あれだけの攻撃を受けたのだからな――だが、その姿は……」


 隠しきれない動揺と共にフォロンが尋ねると、RAは「ウフフ」と静かに笑う。


「さぁ。気付けばこのような出で立ちになっていました。そして、武器も改めました」

「何?」

「ご覧になりますか?」


 そう言って、RAが左手に出現させたのは極端なロングバレル――いや、全てのサイズが規格外と言ってもいい、巨大なリボルバーだった。


「KKA社の未発表の銃です。コンセプトは軍の強化パワードスーツ装着者が使用した場合に対応するハンドガンを。ですので通常生身で撃てるものではありません。開発コードはXQR-773『ラムファータ』」


 そして右手にも銃が現れた。

 こちらは見た目は普通のオートに見える。


 だが、RAはそこで不思議な言葉を呟いた。


「これはメイハイム社のジャイロジェットピストル――『シキョク』です」

「……なんと言った?」

「もちろん、開発当初から随分と改良は加えられてはいますがね。これの原型が世に出た当時は“玩具”とまで言われました。ですが、発想自体は悪くなかったと思うのですよ」


 RAはまた「ウフフフ」と笑う。


「僕はその武器の説明を求めているんだ、RA」

「――戦いましょうか、フォロン」

「何?」


「僕は新たな力を得たという確信がある。ですが確証はありません。が、この力は出来れば確証と共にGTにぶつけたいのです。そして今現在、GT並の能力を持つものはあなたしかいません」


 RAはそこで、フォロンを無視して空白の玉座に跪いた。


「盟主アーディよ。どうか我らに戦いの許可を」


 そしてそのままこう続けた。


「フォロンが危険であれば、どうかそのお力でフォロンを守っていただきたい」


 その言葉に、フォロンの額に青筋が浮かぶ。


「RA、のぼせるのも……」

<……よかろう>


 玉座に老人の姿が現れた。


<RA。確かにそちからは新しい力の息吹を感じる……フォロン>

「は! ははッ!」


 すでにフォロンはその場に跪いていた。


<お主であれば、GTの代わりとして十分であろう。RAの力を引き出してやれ>

「――御意にございます」


 アーディからの命が下れば、もはやフォロンに是非はない。


 フォロンとRAは立ち上がると、お互いに距離をとった。

 それは、これからの戦いが模擬戦であるという、お互いの確認儀式のようにも見える。


 RAはその両手に、先ほどの銃を出現させる。

 フォロンは半身に構え、右手を僅かに構えた。


 ゴォンッ!


 RAの左手に握られたラムファータの銃声が、静謐だったこの広間を一瞬にして侵略する。

 竜の咆吼は、全ての生物をひれ伏せさせ動けなくする、という伝承もあるがこのラムファータの銃声にも、同じ効果があるように思えた。


 あまりの轟音に、通常であれば棒立ちにならざるを得ない。


 フォロンは――


 ――それでも反応していた。


 GTに「自分以上」と言わしめた身体能力はすなわち聴覚にまで及んでいるのだが、棒立ちにはなっていなかった。


 だが、それでも動けないでいる。


 その原因は、聴力ではなく視力。


 15mmにも及ぼうという銃弾が、自分に目がけて襲いかかってくるという事実。

 なまじ見えるだけに、その銃弾に対する原初的な恐怖がある。


 いつものフォロンであれば、この銃弾を横薙ぎに弾き飛ばすことを選択していたであろう。

 だが、それを選択した場合、自分の手は無事で済むのか。


 その疑問がフォロンの動きを止め、そのために弾き飛ばすには、すでに手遅れなほどに銃弾はフォロンの懐に飛び込んできていた。


「く……」


 もうかわすことしか選択できない。

 それもギリギリのタイミングだ。


 僅かに首をかしげてかわすフォロンの頬にダメージエフェクトが浮かび上がった。

 触れていないことは確かであるから、ラムファータから放たれた銃弾は近くを通り過ぎただけで、相手にダメージを与える――ということになる。


 そして、そのダメージの意外性は再びフォロンの動きを止めた。


 ズシュッ!


 続けてRAの右手の銃が銃弾を発射する。


 今度こそは弾いてみせる、とフォロンが心の中で意気込むが、銃弾がその意気込みに応えなかった。


 遅いのだ。


 歴史の中に埋没した兵器、ジャイロジェットピストル。


 それを一言で説明するなら、片手で発射できる携帯用のランチャー兵器。

 弾速は発射時が一番遅く、徐々に加速していく特殊すぎる弾丸。


 ゴゥンッ!


 再びラムファータが吠えた。

 こちらから発射される弾丸は、初速ですでにマッハを突破している。


 見えてはいる。

 見えてはいるが――どう対処すべきなのか、まったく正解が見いだせない。


 両方とも払いのけるのか。

 両方ともかわすのか。


 あるいは――


 見えすぎるが故の情報過多に陥り、フォロンは最適な行動を選べない。

 だが最大の問題点は、その選択肢の中にフォロンが取るべき最適な解がなかったということだ。


<そこまでだ>


 アーディの声が重々しく響く。

 同時にフォロンに迫っていた二つの弾丸もその場で停止していた。


 そして“フォロンの背後に回り込んでいた”RAも、アーディ自らの手によって動きを止められていた。


「な……!」


 銃弾、それこそが囮であり、RAはその銃弾以上の速度で移動したことになる。

 しかもラムファータの銃口は、きっちりとフォロンの後頭部を捉えていた。

 そして、どこか青みを帯びた昏い瞳には感情の欠片もない。


(盟主が止めてくれなければ、殺されていた――!?)


 フォロンとて、自らの奥の手を切り出したわけではない。

 だからこの場の負けを受け入れることは、さほどの苦痛ではない。


 だが――


「ウフフフ」


 ゾクリ、とフォロンの背筋が震えた。


 この狂気が今は味方であることを、頼もしく思うべきか。

 それとも、危険視すべきか。


<この弾丸……細工がしておるな>


 アーディが、空中で捉えたジャイロジェットピストルの弾丸をかざしながら独りごちる。


「お見通しですか。それを披露する前に、盟主には止められてしまいましたが……ウフフフ」

<よかろう。お前の成長、しかと確認した。お前は強くなっておるよ。力の上でも、策の上でも。お前こそがこの世界の申し子であるのかも知れぬ>


 アーディの口元が、笑みの形に割れた。


 RAは銃をしまうとその場に跪いた。


 その光景を呆然と見つめるフォロン。


 ――今、自分が構築した秩序が生まれ変わろうとしている。


 その予感に、フォロンの身体は再び震えた。


◇◇◇ ◇  ◇   ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆


次回予告。


先だっての騒動で、天国への階段EX-Tensionの利用者であるファン達に協力を仰いだリュミスは、そのお礼をかねて、天国への階段EX-Tensionライブの開催を企画する。

ジョージもその企画に協力しライブは無事開始されるが、その会場には危険な男が紛れ込んでいた。


次回、「死神の舞台ステージ」に接続ライズ

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