Bパート ED Cパート 次回予告

「ここに二人いるんだ! まとめて蜂の巣にすればそれで済む話だろうが!!」


 その右手には、バルカン砲がすでに出現していた。


「……お前、大人の話に子供が出てくるなよ」


 GTが、そんなクーンに子供をあやすような口調で声をかける。


「な、なにおぅ!?」

「そもそも、そのバルカンの弾、俺全部避けただろ。なんで同じ事を繰り返すんだ?」

「それはどうかな?」


 ヘルメットからはみ出した、クーンの口元がニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、バルカン砲の銃口はエトワールに向けられた。


 ドンッ!


 その瞬間、GTのブラックパンサーが火を噴いた。

 もちろんバルカン砲だけを撃とうなどという生やさしい狙いではない。


 いきなりヘッドショット。


 だから次の瞬間に描かれるであろう未来図は、クーンが消失エフェクトに包まれる光景。

 しかし、その未来予想図は現実とならない。


 ボォォォンッ!


 いきなりクーンのヘルメットが爆発した。

 それに目を剥くGT。


『まさか……爆発反応装甲リアクティブアーマー!?』


 モノクルが呆れたように呟く。


 どう考えても、個人装備の装甲に仕込む仕掛けではない。

 もちろん、クーンの身体は派手に吹っ飛んだが――消えてはいない。


「ば、馬鹿……?」


 エトワールが、もっともな疑問を口にする。


 が、その圧倒的な馬鹿さ具合が、クーンをその場に留まらせていた。

 そして、その爆発の合間にフォロンとアガンが姿を消している。


「――くそ! どこまでが計算なんだ!」


 その中でクーンのバルカン砲が動き出した。

 狙いは相変わらず、エトワール。


「あいつの狙いは私みたい。私は弾を避けたり出来ないから、相性が良いとでも思ってるんでしょ!」


 言いながらエトワールは、バルカン砲をライフルで狙撃。


 スコープを覗くことのない、適当な射撃だったが、さすがにこの距離では外さない。

 バルカン砲はエフェクト共に消失した。


「クーンの狙いが私なら、ちょうど良いわ。あなたは二人を追って。未帰還者もピラミッドにいるんでしょうし」

「よし、任せたぞ」


 GTは、エトワールの勧めに迷うことなく決断した。


 砂を力任せに踏み固めると、それを足場にして大きくジャンプ。

 ピラミッドの外壁にとりついた。


                     ~・~


 ピラミッドの中腹あたりに、ぽっかりと黒い穴が開いていた。

 入り口――もしくは出口。


「前は……あんなの無かったよな?」

『無かったと言うより確かめてませんね。あのふざけた構造だと、この程度の改造はいくらでも出来そうですが』


 穴の横に寄り添うようにして、そっと穴を覗き込むGT。

 強烈な日差しの元にいたので、なかなか目が闇になれない。


 しばらく目を凝らしていると、やっと穴の奥が見えてきた。

 通路は一直線のようだ。

 だが、その直線に多くの横道が接続している。


「……迷路?」

『ピラミッドの定番、という気もしますが……連中はこの中にいるんでしょうか?』

「砂漠で他に行く場所があるとは考えにくいな』


 ドンドンッ!!


 出し抜けにGTが通路の奥に銃弾を叩き込む。

 が、それで消失エフェクトが発生することはなかった。


「それほど間抜けではないか」

『むしろ安心しました』

「ともあれ侵入するしか無くなったな」


 通路は磨かれた黒曜石のような素材で出来ており、硬質な輝きでGTを出迎えていた。

 GTはその輝きを踏みつけるように、一歩中へと踏み込む。


 そのまま、二歩、三歩。


「罠は……ないか」

『ここが、連中の逃走経路だとすれば難しいかも知れません』

「……逃走?」


 その言葉に違和感を抱きながらもGTは、さらに大胆に奥へと進んでいった。

 右手にはブラックパンサー。瞳は中央に据えたまま、周囲視で左右の通路を把握。

 進む方向はただ真っ直ぐに。


 通路の暗さ、罠の存在、それと連動して行われるかも知れない水責め。

 それらの警戒のために、GTと言えども速度を上げることが出来ない。

 

そうやって、普通の人間並みの速度で進んでいたことが幸いしたというべきか。

 GTは右手の通路から人の声がすることに気付いた。

 フォロンのものでも、アガンのものでもない。


 その通路に方向転換したGTは、即座に声の主を発見する。

 それは鉄格子の中に閉じこめられた、水着姿の男性。


「わかりやすい絵を描いてくれるぜ……!」


 GTは忌々しげに呟くと、その男性の頭を有無も言わずに吹き飛ばした。

 男性の身体は、消失エフェクトに包まれて鉄格子の中から消えていく。


「そんな荒っぽい手法をとらずとも、例の力で鉄格子を破壊すれば済むことではないのかな?」


 フォロンの声だ。

 通路のさらに奥。

 右手に何か灯りのようなものを掲げてそこに立っていた。


 ドンドンドンッ!


 ブラックパンサーが火を噴くが、フォロンの左手が高速で動き銃弾の全てを払いのけてしまう。


「……相変わらず容赦がない」

『……ジ、GT! そ……フォ……手の光……』


 薔薇から声が聞こえる。

 途切れ途切れであることに、いらつきを感じたがそれに構っている余裕はない。


「こんな事で、あれを使っていられるか。掴まる方が間抜けなんだ」

「だから、殺して解放を? 言い訳にしては少々苦しいかな」

「ほざけ!」


 眉間、心臓、そして右手に掲げる光。


 今度はちゃんと狙って引き金を絞る。


 それと同時に突っ込んだ。


 フォロンは銃弾を払いのけるが、右手の光へと向かった銃弾にだけはことさら慎重に行動した――様に思えた。

 先ほどのモノクルの言葉といい、あれが何か重要な“もの”であることはそれで理解できる。


 だが――


「ウヒャッハーッ!」


 いつもの妙な笑い声と共に、横合いからアガンが二本の曲刀シミターで斬りかかって来た。

 いつの間にか他の通路との交差点に踏み入れてしまっていたらしい。


 フォロンに向けて突っ込んでいる最中であったので、頭上から振ってくる斬撃は銃把で横から殴りつけ、正面から横薙ぎに振るわれた刀は、上体を反らすことでかろうじてかわした。

 大きく崩れた体勢は、強引に身体を回転させることで瞬時に立て直す。


「……気をつけた方が良い」


 GTが立ち上がるのを見計らって、フォロンが声を掛けてきた。


「この右手の灯火こそが、君が、あるいは君たちの依頼主が求める光だ。迂闊に破壊しては依頼主も泣くに泣けないぞ」

「どうせ偽物レプリカだろうが」

「さて……その保証は誰が行うのかな?」


 挑発的な物言いに対して、GTが行ったのは再びのダッシュ。

 ただその前に、アガンを牽制すべく銃撃を行っている。


「そいつを貰って、確かめれば済む話だ!」

「名案だな――実行できれば」


 フォロンの身体がスッと後退する。

 見た目は穏やかな身体の動きではあったが、その速度はGTのそれに匹敵する。

 そして今度は左手から、アガンの急襲。


「チッ!」


 地の利を完全に抑えられている。

 舌打ちしつつ、それをかわすがフォロンの姿はすでに無く、アガンも撤退していた。


 その代わりに目の前にあるのは囚われた天国への階段EX-Tensionの利用者の姿。

 少なくとも、今回の仕事に「未帰還者の解放」が含まれている限り、見て見ぬふりも出来ない。


 GTは全員にヘッドショットを決め、解放する。


 だが、それは上手くいかない現状の不満を解消する代償行為でもあり――GT自身はそれに気付いていなかった。


 その後も、現れては挑発するフォロン。

 あらゆる方向から襲いかかってくるアガン。

 そして、解放を待つ囚われた人々。


 これを幾度も繰り返され、GTの精神こころはいつになく疲労していた。


「随分苦しそうだな、GT。例の武器で通路ごと破壊すればいいのではないかな?」

「……お前らみたいな雑魚に、使えるかってんだ」

「“使わない”ではなくて“使えない”のではないか? あれほどの威力を持つ武器をそうそう用意できるとも考えにくい」

「勝手に都合の良い妄想広げてろ!」


 姿は見えないが、声のした方向に銃撃。

 マガジンが空になるまで撃ち尽くすが、手応えはない。


 カツン……


 落ちたマガジンが、通路に虚ろな音を響かせる。


「ほう、いよいよ特別な銃弾の登場か?」

「使わねぇって、言ってるだろ」


 チャンバーをスライドさせると、GTは再び駆けだした。


 すでに自分の位置を把握しきれていない。

 時間の感覚も怪しい。


 恐らくはこのまま時間切れで切断ダウンすることとなる。

 すでに、未帰還者の大半は帰還せしめただろう。


 最低限の仕事は果たした――


「GT。君もしつこいな。ついに追い詰められてしまった」


 心の中に言い訳が灯りそうなその瞬間、果たしてフォロンの姿が目の前に現れた。

 右手には灯火が今も輝いている。


「結局、例の武器は使わずじまいか。何とも判断に迷うな……」

「ご希望に添えなくて悪くかったな――アガンはどうした?」

「さぁ、道にでも迷ったんじゃないか? この通路は急遽造らせたものだからな」

「あいつを頼るから、こういう事になる」


 GTは言いながら銃口をフォロンへと向けた。


「君も懲りないな。僕に銃は――」

「特別な銃弾だとしたら?」


 フォロンの言葉を遮るように、GTは問いかける。


「……何?」

「海を無くしたのと同じように、お前も消してやろうかと言ってるんだ。お前は弾を弾いているが、それはその方が得意だからじゃない。身体の動かし方を他に知らないだけだ」

「…………」

「避けても良いぜ。だけど下手に避けて体勢を崩してみろ。確実に俺はその灯火を奪う」


 言いながら、GTは撃鉄を起こす。


「――良いだろう。勝負しようじゃないかGT」

「よく言った!」


 ガウンッ!


 ブラックパンサーが火を噴いた。


 そして撃ち出されるのは――ただの弾丸。

 しかし、あれほどのはったりと挑発を行ったのだ。


 フォロンは銃弾を弾くのではなく、一度は避けようとするはずだ――途中で諦めるとしても。

 その好機を逃さずに詰め寄れば……


 だが――


 フォロンはあっさりと銃弾を左手で払いのけた。


 そこには一切の逡巡がない。

 目を剥くGTにフォロンは見下すような笑みを浮かべ、こう告げた。


「なかなかに面白い小芝居だったがね。あの武器は“人”を殺したりは出来ないよ」


 灯火を取ろうと勢い込んで飛び込んでいたGTは、飛び上がって回避するフォロンに即座に対応できない。

 結果、GTはそのまま、フォロンが背後に隠していた扉の中に飛び込んでしまった。


 その扉の向こう側は――何もない小部屋。


 だがそれは今まで散々目にしてきた、牢獄と同じ大きさだ。

 なによりもその部屋は鉄格子によって区切られている。


 ここは牢獄。

GT自分を閉じこめるための牢獄。


「そこが君の終着点ゴールだよ、GT」


 フォロンの声が聞こえる。

 GTが振り返ると、鉄格子の外側にいたフォロンの姿はその場から消え失せ――


 ――GTは自分が囚われたことを悟らざるを得なかった。


◇◇◇◇◇◇ ◆ ◇ ◆ ◇◇


 リュミスは天国への階段EX-Tensionから戻ってきた。


 クーンを倒したわけではない。

 途中でクーンがいなくなったのだ。


 さりとて、ピラミッドに援護に行くことも躊躇われた。

 何かがおかしい、と理屈ではなく予感めいたものがリュミスを突き動かしていた。


 さほど高級ではないが清潔で居心地の良いホテルの部屋を後にすると、リュミスは「シェル・カリアリ」へと向かった。

 さほどの距離があるわけではない。


 走って向かう最中、思い出されるのは「シェル・カリアリ」の設備。


 楽屋のある地下一階に安楽椅子リフティングチェアが二基も用意された部屋があったはずだ。

 今や、連絡用に欠かせない設備だからあのレベルのライブハウスであれば、安楽椅子リフティングチェアがあることに違和感はない。

 そこで、あのジョージという薄汚れた男がGTとして接続ライズしているはずだ。


 ――もう、切断して起きているはず。


 だが、その想いをリュミスは自分で信じ切れないまま「シェル・カリアリ」へと向かって走る。


----------------------------------


次回予告。


天国への階段EX-Tensionに囚われてしまったGT。


そして“篭”の策略はここからが本番だった。

一人その陰謀に立ち向かう、リュミス。


GT――ジョージにその声は届くのか?


次回、「現世と幽世の交差」に接続ライズ

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