Bパート ED Cパート 次回予告

 この復讐完遂者パーフェクト・リベンジャーに触れることは、裏世界ではそのまま“死”を意味する。


 例え味方に付けたとしてもその意味は変わらない。

 裏世界の住人なら誰もが知っていることだ。


 それなのに一体誰が、この危険きわまりない男を雇ったというのか。

 サミーにはそれを確認しておかなければならない義務が発生した。


「……どういう組織の人間かお伺いしても?」


 必死の覚悟で、尋ねてみる。


 ジョージはエビチリに箸を伸ばしながら、


「組織……? まぁ、連合も組織といえば組織か」


 と、無造作に答えるがサミーにしてみれば溜まったものではない。


 確かに連合であれば、ジョージを雇ったところでそれでどうにかなることはないだろう。


 何しろ警察軍という人類社会最大の暴力装置を保持しているのだから。

 そんな組織が、ジョージを雇って一体何を……


「何だっけ? E.E.O.だか天国への階段EX-Tensionで、よくわからん連中と戦ってるよ」


 続けて聞こうとしたサミーの機先を制するように、ジョージが説明を続けた。


 その説明に、混乱を隠せないサミー。

 事態がまったく飲み込めない。


 それを見てジョージも思うところがあったのだろう。


 多分にGT流の噛み砕き方ではあったが、モノクルから請け負った仕事について説明する。

 最初はさらなる混乱を引き起こすだけの説明であったが、そのうちにサミーも理解でき――幾らかは心を休めることが出来た。


 まず、ジョージはその名で活動していないこと。


 そして、戦っている相手が現実世界でも名の通った組織ではなく「天国への階段EX-Tension」限定の謎の組織であること、などが胸をなで下ろす材料となったようだ。


「……しかしそうなるとわかりませんな」

「何が?」


 エビチリを食べ終えたジョージは口元をナプキンでぬぐう。


「取引相手が連合であるのに、何故先生は今も追われてらっしゃるんですか?」

「そりゃ、モノクルの管轄違いだからなんじゃないのか? 役所ってそういうものだろ?」

「ですが、当然取引として――ロブスター代?」


 そこでサミーは事態が腸捻転を引き起こしていることに気付いた。


「ひょっとして、先生は連合との取引に……」

「あいつが一言でも、それを持ち出したらその場で殺すつもりだった」


 ジョージのその一言で、サミーは部屋の温度が一気に下がった気がした。

 これが「復讐完遂者パーフェクト・リベンジャー」の殺気。


「俺がやったことに、あいつらが勝手に評価をすることは認めてもいい。俺もかなりの数、殺してきたからな。だが、その評価を取引に使おうなどと考えやがったら――」


 サミーはごくりと唾を飲み込んだ。

 自分は今、虎の尾を踏みつけるところだったのだ。


 いや。


 すでに危機は去ったと解釈して良いのだろうか?


 一度敵だと認識したら、どうやっても止まらない――止まらなかったからこその「復讐完遂者パーフェクト・リベンジャー


 自分は……


「ところがモノクルの奴は、そんな取引おくびに出さないのさ。それどころかこっちがロブスター代だって言ってるのに、何とか値切ろうとまでしやがった。クソ! もっとふっかけておけばよかった」


 文句は言うが果たしてジョージの表情には笑みが浮かんでいた。

 自分は危機を脱したらしい、とサミーは今度こそ胸をなで下ろす。


「……なにか、そのモノクル氏でしたか? ――随分と手慣れた様子ですな」


 そのまま黙っているのも不自然なので、多少阿るつもりで言葉を添えてみると、


「同感だ。連合の職員には違いないだろうが、あいつもおかしなところに片足突っ込んでるか……俺みたいなのと関わるのが始めてではないとか……そんなとこだろう」


 これでお互いに、話すべき事は話し、聞くべきところは聞いたはずだ。

 お互いに手じまいのタイミングを計って、微妙な沈黙が流れたが、やおらジョージがサミーへと話しかけた。


「それはそうと、ロブスターの情報知らないか? このままだと俺困るんだけど」


 サミーもその問題があったかと、思わず手を打ちそうになったが事態はそう簡単ではない。

 この惑星ほしにいる限り――


「先生、O.O.E.には出入りされて居るんですよね?」

「そう言ったろ」

「で、あればそこで情報を聞いてみるのはいかがでしょう? それより前に、そのモノクル氏に尋ねてみるのも悪くはないかと」

「あ……」


 ジョージは腕時計を確認する。


「そう言えば、そろそろ定期連絡の時間か」

「それはようございました。私どもの安楽椅子リフティングチェアをご使用になりますか?」


 その言葉に目を見開くジョージ。


「あれって、民間で持てるのか?」

「もちろんでございますよ。もちろん価格はかなりの額になりますが。私どもも一台保有している限りです」


 が、兎にも角にも一台はあるのだ。

 渡りに舟、とばかりにその申し出を受けたいところではあるが……


「どうぞお気遣い無く。私どもといたしましては、これ以上先生にトラブルを起こされるのは面倒ですし、早くに当屋敷から退去もしていただきたいのです。そのための協力であるなら問題もないでしょう」


 ジョージはそう言われても、しばらくは迷っていたが、ここから例の店まで行く労力を想像してしまったのだろう。

 渋々とではあったが、その申し出にうなずいた。


「……じゃあ、そういう態で」

「ええ、そういう態で」


 サミーはにっこりと微笑んだ。


                     ~・~


 GTがいつもの部屋に接続ライズしてみると、モノクルはすでにいて、また酒を飲んでいた。


 ここで、酒に溺れるとアル中になるのかな?


 と、GTは素朴な疑問を抱きはしたが、それは後回し。

 まずは仕事の確認をするだけの分別はある。


「モノクル装備は出来たか?」

「まだです」


 明瞭な返事。

 酒は飲んでいるが頭はすっきりしているらしい。


「じゃあ、ちょうどいいや。聞きたいことが……」

「私のこの醜態に、もう少し掛ける言葉はないんですか?」


 何だか逆ギレされた。


「醜態って……お前全然酔ってないじゃねぇか」

「会うなり飲んだくれてるんですよ。優しい言葉を掛けようというのが、暖かい血の流れた人間の行いというものじゃないですか」


「やだよ。どうせまた上司だか上役に無茶振りされたんだろ? お前のその話は飽きた」

「ぐっ…………」


「そんなことより、ロブスターだ」

「は? ロブスター代はちゃんと支給してるでしょ?」

「金はあっても物がねぇんだよ。今日なんてなぁ……」


 そこからGTは今日の騒動の顛末を説明する。

 それをグラスを傾けながら聞き流していたモノクルは、その説明が終わるとこう告げた。


「……全部、自業自得じゃないですか」

「お前! そこは『大変でしたね』ぐらい言っても良いところだろ!」

「私はあなたとは違うんです。こっちは真面目に仕事をしてるのに――」


 そこから始まるモノクルの愚痴大会。


 GTはそれを大人しく聞いていたが、それは先に自分がやらかしたから――というわけではなく、単純に下手に止めると、さらにややこしくなりそうだと感じたからだ。

 そもそもGTの意識では状況を報告しただけであって、愚痴を言ったわけではない。


「……酷いと思いませんか?」


 最後に何だか同意を求められてきた。

 手短に終わらせるために、


「酷い酷い」


 と、同意しておいた。


「心がこもってませんよ」

「お前は俺に何を期待して居るんだ。それよりもロブスターだ。何とかしてくれ」


「何とかって……人手不足は私の管轄じゃないですよ」

「そんな役人みたいなこと言うなよ」

「私は役人ですよ」

「今日、改めて理解した。お前絶対役人じゃないよ」

「……役人で居させてください」


 暗く沈んだ声に、GTもこれ以上追求するのはマズイと直感した。


「わかった。じゃあ、役人もどきの知恵で良いから、何か思いつかないか? このままじゃ問題がある」

「……今、どこに居るんでしたっけ?」

「ん? ああカルキスタ……って答えで良いのか?」

「ああ、今はそこにいらっしゃるんですね……じゃあロブスターの流通が滞ってない星に行けばいいでしょう。というかそもそも何でそんな星に……」


 GTはポンと手を打った。


「その手があったか。盲点だったな」

「迂闊すぎる……」

「い、良いんだよ、そんなことは。それで、どの星ならロブスターがあるんだ?」


 その質問に眉をひそめるモノクル。

 さすがにとっさに答えられるような事柄ではない。


「……ちょっとここで待っててくれますか。調べて戻ってきますから」

「あ、ああ、そうか――」


 そこでGTの表情が変わった。

 モノクルは、それを見て首をかしげる。


「どうかしましたか?」

「俺はカルキスタにいる。で、お前は多分、行政首都ロプノールに居るんだろ」

「え、ええ」


 当たり前のことを確認するGTに戸惑いを隠せないモノクル。


「これ本当なら、言葉を一回向かわせるだけで二日ぐらいかかる距離じゃねぇか」

「ああ、そうですね」


 モノクルは笑みを浮かべながら、それに応じた。

 それに助けられたわけではないだろうが、GTはさらに勢い込んでこう続けた。


「なんだこの状況、凄い便利じゃないか? なんなんだこの世界」


 今更何を――


 とは、モノクルは言わなかった。


 元々の「O.O.E.」の成立目的をまったく知らせぬまま、イレギュラーに対処してもらっていたのはこちらなのだから。


 従来であれば情報の交換も超光速航法が出来る宇宙船に乗せて運ばなければままならなかったのが「一週間の世界ア・ウィーク・ワールド」の常であった。


 GTが認識しているのも、そういった世界の形だろう。


 だが「O.O.E.」の出現は世界の距離を圧倒的に縮めた。


 もはや、行政首都ロプノールがその位置を動くことはないだろうとも予測されている。

 そんな世界の変化をGT――ジョージは今その身で感じているのだ。


 ここは素直に喜ぶべきところだろう。

 モノクルは、笑みを浮かべ胸を張ってこう告げた。


「ええ。それこそが“O.O.E.のある世界”の利便性です」


 GTはそれに大きくうなずいた。


「確かになぁ。困ってみて初めてわかった。これは本当に便利だ。そうか先に連合が使っていたっていうのはこういう事だったのか……しかし、民間に使わせてもよかったのか?」


「もちろんですよ。民間の活力が高まらなければ、国は立ちゆきません」

「そんなものかね」

「――だからこそ、我々の仕事には意味があるんですよ」


 そんな言葉とは裏腹に、モノクルは自嘲気味の笑みを浮かべた。


◇◇◇◇◇◇ ◆ ◇ ◆ ◇◇


 数時間後――


 ジョージは再び宙港に訪れていた。

 そして今度は迷わず受付カウンターに。

 一礼するコンパニオンに、ジョージは迷い無く告げた。


「イシュキックへ、一人だ」


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次回予告

GTには勝てない――天国への階段EX-Tensionでは。

それを認めたクーンは、GTの本体、つまりは現実世界でのGTの抹殺を目論む。


そのためにも必要なことは、GTの情報。クーンは多大な犠牲を出しながらも、GTとの接触に成功するが……


次回「今更、銃弾めいし交換」に接続ライズ

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