Bパート2 ED 次回予告
「何だッ!?」
思わず反射的に飛び上がるGT。
別にアテがあって飛んだわけではなかったのだが、伸ばした手の先にあった“何か”を掴んでしまう。
どうやらシャンデリアだったようだが、GTの体重がかかると同時に、
ガコン!
と一段下がる。
「なんか……やばいか?」
ポゥン……
その声に応えるように、GTが先ほどまで立っていた床が発光する。
空いている左手でボルサリーノを被り直したGTがそちらへと目をこらすと、床一面が一斉に発光した。
さすがに息をのむGT。
「あれは……鎧達の目?」
思わず呟いた言葉通りに、床には大量の金属甲冑。その兜のスリット部分に鬼火のような灯火がある。
そして、その灯火は増殖するかのように床から壁を伝い、ついには天井まで――
ありとあらゆる方向に現れた西洋甲冑。
先ほどの音は甲冑が格納されたゲージがせり出したり、シャッターが開いたりした音らしい。
「なるほど、これが“500”の正体か」
『正確には“499”ですね』
ギギィ……
床面の甲冑達が一斉に起き上がり始める。その動きは鬼火と同じように、壁、そして天井へと伝播した。
天井の場合は、ゲージからの落下を始めることとなるわけだが、そのあまりに馬鹿な収納方法に突っ込んでいる暇はなかった。
実際には金属の塊が一斉に降り注いでくることになるのだから、いかなGTとしても平静を保ってはいられない。しかも足場が不安定――どころか“無い”のである。
掴まっているシャンデリアは甲冑のボディプレスを次々に食らって、すでに半壊状態だ。
このままでは遠からず全壊して消失してしまうだろう。
そうなれば掴まる物を無くしたGTは落下して、金属の群れの中で揉みくちゃにされる――想像したくない未来だ。
GTは身体を揺らし、その勢いで宙に舞う。
そのためにシャンデリアは根本から折れて落下してしまったが、GTは落下する甲冑の群れとすれ違うようにして、その上空へと達することが出来た。
が、そこにはもう、都合の良い足場や掴まれる何かがあるわけも無し。
GTはトンボを切って、落下する甲冑の背中に乗った。
他の選択肢がなかった、とも言える。
ガガ、ガッシャーーーーーーン!!!
轟音が室内に飽和する。
その音に紛れ込ませるようにGTは発砲。それもマガジンに残っている弾を全部。
その全てが効果を発揮して、撃った数だけ甲冑は消えているのだが、まったく減ったように見えない。
だがそこで、落胆しているわけにもいかなかった。
他の鎧が、冗談ではなく十重二十重とGTを押しつつもうとしている。
襲いかかってくるものが銃弾であればこの程度の数ものともしないGTであるが、物理的に逃げ道を遮断されたこの状態だと――
「あ、これはマジでマズイかも」
――と、思わず弱音が漏れても仕方のないところだろう。
そこにモノクルが被せてくる。
『戦いは数ですねぇ――これも教養がないと出てこない台詞ですよ』
「教養の問題じゃねぇ!」
ドンドンドンドンッ!
言いながら真正面に銃撃。包囲網の一角を崩して、ほとんど捨て身でGTは出来た穴に突っ込む。
転がりながら――その転がっている場所も鎧の上ではあるのだが――さらに銃撃。
『なんて勿体ない!』
「なにが!?」
『何で銃弾一つで、一体しか片付けないんですか?』
「そんな理不尽な文句、生まれて初めて聞いたぞ!」
マガジン交換。
チャンバーがスライド。
ドドドドドドドドドンッ!!
『壊れる! また壊れる!!』
「てめぇ! これが終わったら、まずお前を壊してやるからな!」
『チューンした威力で、五百発も連続射撃したら、間違いなく不具合を起こしますよ!」
「こなくそ!」
もはやモノクルの繰り言に付き合っている暇はなくなった。
物言わぬままに、ギシギシと迫り来る鎧の胴体を蹴飛ばして、まとめて三体を吹っ飛ばす。
そして右手を振り回して、グリップを兜に叩きつける。
その動きでスペースを確保したところで、右、左と銃撃。
さらにしゃがんで背後からの攻撃をかわすと振り向きながら、その攻撃を仕掛けてきた相手に銃撃。
「今更ながら、こいつらは何だ!?」
さらに転がりながら銃撃を加えつつ、GTが叫ぶ。
『いつかのNPCと本質は同じでしょう。ただ数が違いすぎますが』
ヒュンヒュヒュン!
その時、闇を切り裂いて三本の矢がGTへと降り注いできた。
ドドドンッ!
反射的にそれを銃弾で迎撃したGTではあるが、タイミング的にはかなりギリギリだ。
「くそ! 天井に張り付いたままのが何体かいるな」
『壁にも居残り組がいそうですね』
「こいつら殺気がない! 見えてれば簡単だけど、暗い中だとかなり面倒だ!」
当てずっぽうで天井に向けて撃ちまくるGT。
何発かは効果を上げて鎧が落ちてくるが、今度は別方向から矢が飛んでくる。
GTは眦を決してそれを睨み付け、左手で全てはたき落としてしまった。
「……やっちまったぁ」
『何か問題でも?』
「極力、この馬鹿げた力を活用したくはないんだよ」
『今更ですか?』
「今更だよ!」
矢が飛んできた方向に銃弾でカウンターを食らわせる。
そして背後から迫ってきていた鎧へと後ろ回し蹴り。
すると、その一撃だけで鎧にダメージエフェクトが発生し――ついには消失エフェクトにまで追い込んでしまう。
「……今回ばかりは、そうも言ってられないな」
『それがよろしいでしょう。見てください――武器持ちが現れましたよ』
「あのバカ――これはもうトラップでも何でもねぇだろ! 結局力押しか!!」
GTとブラックパンサーが同時に吠えた。
~・~
酷い。
とにかく酷い。
エトワールは、他に言葉の選択のしようがなかった。
制御室のモニターにはGTの無双振りが映し出されており、それを見た素直な感想はどうしてもそうなってしまう。
ブラックパンサーによる銃撃で甲冑を倒していくのなら、まだ納得も行く。
だがGTの攻撃方法はそれだけに留まらなかった。
殴る、蹴る、握りつぶす、転がす、踏み砕く。
金属製の甲冑を“素手”で破壊していくのだ。
その合間に飛んでくる矢を打ち払い、振り下ろされる剣、メイス、フレイル、斧、といった武器の数々をこれまた素手で打ち払っていく。真っ正面から受け止めるようなことはしなかったが、横から払うだけで武器自体がダメージを受けて消失していくのだから、これもまた十分に反則じみた能力だ。
そうやって無防備|(?)になった鎧にとどめの銃撃を加え、確実に仕留めていくGT。
その光景はまさに虐殺。
圧倒的力を持った
最初にGTを
「ボス、これでもダメですね。残り約200体です」
傷面の男が、ますます諦観の滲み出た声で状況を報告する。
「ボス! やっぱりGTは凄い!!」
「俺の前であいつを褒めるなって言ってるだろッ!!」
残りの二人は狂乱状態だ。
微妙にスタンスが違うようであるが。
「ボス! 追加を発注しよう!」
GTのファンであるらしい若者の方が、エトワールに取って都合の良さそうな悲鳴を上げた。
ちなみに若者と呼んでいるが、年齢はエトワールとほぼ同年代かちょっと年上ぐらいだろう。
この三人の間で、本名らしきものが交わされていないので、何とも呼びようがないのだ。
それだけこの三人の距離感が近しいということなのだろうが、エトワールにしてみれば不自由である上に成果も上がらない。
――面倒なので少年Aとしよう。
その少年Aがさらにクーンへと詰め寄った。
「これだけのもの、ポンと造って寄越す相手なんだ。甲冑ぐらい簡単でしょ!?」
もっともな訴えであるように思えたが、言われたクーンは渋い顔だ。
「……フォロンにこれ以上貸しを作るとやばい」
(フォロン?)
ようやくのことで成果らしい固有名詞が出てきた。
しかし、それが本名である確率は限りなく低い。
むしろクーンとの関係性の方が貴重な情報だ。クーンは幹部には違いないだろうが、その幹部の中にも序列のようなものがあるらしい。
「奴がこの城を用意する交渉に協力してくれたのも、GTの戦力を測る、という望みがあったからみたいだ。俺がそういう風に丸め込んだんだが……」
なるほど、あの部屋の仕掛けだけ何か毛色が違うのはそのせいか、とエトワールは得心した。
それにしても戦力を測るにしても大げさ過ぎはしないかと、再びモニターに目をやると、GTはもうほとんど動いておらず、生き残り(?)の甲冑にひたすら銃弾を叩き込む作業に移行していた。
500体1の戦いに勝利するのはもはや時間の問題だ。
「じゃあ、足りなかったとか何とか言って……」
「いっぺんに500体あったから、意味があるんだ。フォロンが追加を送ってくれたとして、それを順繰りに繰り出して奴に叶うと思うか?」
(意外にバカじゃないか……)
エトワールは酷いことを心の中で思う。
もっともそういう風に思うのも、GTやモノクルがクーンを散々バカだと説明したからではあるのだが。
そんなことをエトワールが考えている間に、若者がさらに反論する。
「じゃあ、とりあえずどこかに溜めておいて……」
「それはダメだ、マイク」
傷面が、即座に否定する。
「溜めている間にGTが大人しくしてくれると思うか? もう終わるぞ」
「う、ぐ……」
少年Aから、マイク――これまた手がかりになりそうにない名前だが――に昇格した若者が言葉を失う。
「ボス、そういうことであればここのデータ持って、例の連中のところに行ってください。全くの無駄ではないなら、我々に資金力がある以上向こうも無視できないはずです」
「……そうだな」
エトワールは迷う。
このままクーンの後を付ける――のは
『やれますか?』
GTのデータをまるまる渡すのは論外だろう。
モノクルの指示も、当然そういう方向になる。
エトワールは、ゴテゴテとアタッチメントの付いたスナイパーライフルを出現させた。
距離適正が合ってないのは承知の上だが、飾り物の剣は役に立たないし、そもそも剣を振るう技量もない。
エトワールはライフルを構え、スコープを覗き込む。
最初に狙うのは――
パンッ!
傷面の頭部をヘッドショット。
呻き声一つ立てずに、傷面は消失エフェクトに包まれた。
「な!?」
もちろん、ここまですれば残りの二人もエトワールの存在に気付く。
部屋の隅に突然出現した――様に見える仮面の女性を見て二人は驚愕に目を見開いてた。
だが、今までの観察結果から撃つ順番を決めたエトワールは慌てることはない。
次はクーン。
状況を理解できない内に、狙いを定めて狙撃――という距離でもないが。
パンッ!
もちろん、これも成功。
ヘッドショット一発でクーンを消失させる。
残りはマイクだが、未だにパニック状態から立ち直っていない。
立ち上がって、とにかくエトワールから遠ざかろうと、じたばたと蠢いているが、その動きはまったく効果を上げていない。
――動かれると、狙いにくい。
そんな単純な理由で、エトワールは一歩前に進んだ。
「ヒィ!」
そんなエトワールの動きに、悲鳴を上げるマイク。
思わずトリガーから指を外してしまいそうになるが、ここで躊躇うわけにもいかない。
(本当に殺すわけじゃない)
脳裏をよぎるのは、そんな言い訳と、あの時薔薇に狙いを定めトリガーを引いたあの瞬間。
(くっ……)
エトワールは奥歯を噛みしめる。
それは人を撃つ事への嫌悪からか、GTに予行演習をさせてもらったという事実を認める事への悔しさからか。
エトワールは背を向けたマイクの後頭部に銃口を向けて――
パンッ!
――引き金を絞った。
~・~
ドゥンッ!
その頃、GTも最後の一発を撃ったところだった。
ブラックパンサーは、そのボディから湯気、もしくは白煙を吹き出していてご臨終間近――もしかしたらすでに涅槃に旅立っているかもしれない。
『……ご苦労様です』
控えめな声が薔薇から聞こえてくる。
「……で……成果は……あったか?」
一時間以上暴れっぱなしでは、さすがのGTも息が上がっている。
これでも後半は射撃に徹したので、幾分か落ちつている方だ。
『いくつかの固有名詞を拾えました。あと、向こうの組織図らしきものが見えてきましたね。こちらの方が成果がありました』
「そうか……エトワールが上手くやったのか……」
『最後には情報漏洩を防ぐためにクーン達を始末してもらいました』
「……そうか」
GTは大きく息を吐いた。
そしてボルサリーノを目深に被りなおす。
『……エトワールさんから伝言です。“礼は言わないわよ”だそうで』
「あ?」
銃を腰の後ろのホルスターにしまいながら、GTは首をかしげる。
期せずして静寂が訪れるが、それは何の答えもGTに返してはくれなかった。
モノクルも何も言わない。
「……ま、いっか。礼を言われる覚えもねぇんだから、それはそれで寸法は合ってるわけだしな……先行してたって事は、向こうはそろそろ接続時間切れだろう。俺もそろそろ……」
『あ、その前にですね』
「なんだよ。まだ働かせるつもりか?」
『仕方ないんですよ、ここの施設残したままだと、また来られても困りますんでね。時間いっぱい使って、この先にある部屋の装置破壊していってください』
「破壊って……」
ブラックパンサーはそろそろ限界だ。
『わかってます。銃はまた用意しますよ』
呆れたように呟くモノクルに、GTもため息を一つ返す。
「…………何とも締まらねぇなぁ」
――そして
古城は
◇◇◇◇◇◇ ◆ ◇ ◆ ◇◇
次回予告。
本筋と違うとごねるGTであったが、そんな現象を起こせるのは奴らかもしれない、と説得され問題の地点に赴くことに。
そこは一面の砂漠エリア。
オアシスのほとりに立つ白亜の宮殿。
そして、その主とは……
次回、「砂上の
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