Aパート2 アイキャッチ
音もなく、GTの右手にブラックパンサーが現れる。
そして柄にもなくグリップを両手で包み込んでしっかりとした射撃姿勢。
ドンッ!
発砲。
標的にしていたらしい、100m程先の木の枝が消失する。
その余剰エネルギーが加わったのか、さらに枯れ葉が舞い落ちる。
ドドドゥンッ……!
その枯れ葉の一枚一枚に、続けた放たれた銃弾が見事に命中し、そのまま枯れ葉は消失した。
GTは満足そうに笑みを浮かべる。
「うん、相変わらず良いトリガーの軽さだ」
『一番に確認するところがそこなんですか?』
思わず突っ込んでしまうモノクルの声は、相変わらず胸元の真っ赤な薔薇から聞こえてくる。
「狙ったところに当たるし、今のじゃ威力もわからんしな。まぁ、手応えは同じかそれ以上、という感じだが」
『……問題無しとしましょうか。今度は壊さないでくださいよ』
「まぁ、そうそう千発も撃つ機会はないだろう」
そんな風に二人が会話を交わしている周囲がどんな場所かというと、まず夜であるということ。
敵の区画では、そのあたりも自在であるらしい。
そして、向かう先に見えるのは鬱蒼とした古城。
何か最近もこんなの見たなぁ、と思い起こしてみると、例の遊園地にも似たような城があったことをGTは思い出した。
つまりは中世の欧州風の古城、と言われて真っ先に思い出すような城だということだ。
そういった素材に蔦をぐるぐると絡みつけ、背景に不気味な陰影を浮かべる月を備え付けると、こういった古城が出来上がる。
問題なのは、自然発生的にこういった城が出来上がったのではなくて、誰かの趣味丸出しで、こういった城が造られたということだ。
「……なんて言ったけ、えーと……」
『…………クーンさんですよ』
「そうそう。“ビーム”とかに名前代えないかな」
『それ多分、情報引き出すより難しいですよ』
「で、そのクーンがここに呼び出したんだよな――今日、エトワールは?」
その声音には“この仕事は面倒だ”という主張が滲み出ている。
パートナーの存在に寛容になった結果がこれでは、モノクルも浮かばれまい。
だが、今日のところは答えが決まっていた。
『いますよ。もう潜入してもらってます』
「は? ……くそ、気付かなかったぞ」
『どうやら遮蔽物があると、あなたの探知能力は落ちるみたいですね。考えてみれば当たり前の話ですが』
「……待て待て。じゃあ俺は何しに行くんだ?」
『クーンさんを慌てさせて、重要な単語をポロッと言わせるためですよ』
「例の策か……」
『ええ、エトワールさんはもう結構奥まで侵入してますね』
「エトワールに行けるなら、俺もいけるって事だろ、そのルート」
単純にジャンプする。蔦を頼りによじ登る。蔦を頼らずによじ登る。壁の一部を破壊する。
その全てをGTであればエトワールよりも上手くこなせるだろう。
『ダメですよ』
ところが、モノクルは即座にそれを却下する。
『せっかくこんなに用意してくれたのに、それをスルーなんてマナー違反でしょう』
「……お前……さては銃のこと恨みに思ってるな?」
『しかしクーンさんにも困ったものですね。荷電粒子砲のことと良い、スルーされるという可能性をまったく考慮に入れてらっしゃらない』
「………………」
実にイラッと来るが、ここで喚いても仕方がない。
それに、銃を壊したことはGTも悪いとは感じていた。
そこでボルサリーノを被り直しながら「はぁ」とため息をつく。
「わかったよ。付き合ってやるから、エトワールがポジションに着いたら知らせてくれ」
『助かりますよ。しかしクーンさんの狙いは何なんでしょう?』
「それは、俺を殺すことなんじゃねぇの? それが通常の始末の付け方だ」
『しかし、それはあなたをいつだっても殺せるという保証が出来なければ意味がないんでは?』
「一度勝ったあと、勝ち逃げすればいい。裏側の人間の面子はそういうもんだ」
『何ともまぁ』
呆れたと言わんばかりの声を出すモノクル。
だが、GTにしてみてもこの仕事のことがなければ、クーンに積極的に絡む必要性は感じてはいない。
モノクルとは所詮、住んでいる世界が違う。
「それじゃあ、門の前ぐらいまでは行っておくか。あの招待状からだと……こっちだな」
GTは特に急ぐことなく、ぼちぼちと古城へと近づいていった。
~・~
数日前クーンからの招待状が、遊園地付近のポイントにばらまかれた。
招待状というよりは、中身は完全に挑戦状であったが。
もちろん連合の監視下にある区域だったので、それはすぐに回収されたが元々の宛先がGTだったので、クーンにしてみれば願ったり叶ったりだろう。
それに――
「こういう馬鹿げたもの造れるっていうのは、もうそれだけで“クロ”なわけだ」
『間違いなく本命でしょうね――エトワールさんが良いようですよ』
巨大な鉄の門扉の前に立ったところで、二人は改めて確認し合う。
ギギギッ……
相手も準備万端らしい。
門扉が雰囲気たっぷりに開いていく。
「……あの招待状を手に取った奴はこの場所知ってるんだよな?」
『一応、行くなとは忠告しましたが、何人かは赴いたようですね』
「結果は?」
『この門の前で、回れ右、ですよ』
「バカにしては、少しはものを考えたらしい」
GTは処女地に足を踏み入れた。
~・~
「前言撤回だ。あいつはバカだ」
門を潜り、僅かばかりの敷地だった内庭を大過なく通り過ぎたあと、城内に潜り込んだGTを歓迎したのは――
ゴロゴロゴロゴロ……
坂を転がり落ちてくる大きな岩石。それも随分遠くから転がってくる。
何とも間の抜けたトラップだ。
城内は外の雰囲気そのままに、全体的に薄暗く、照明器具はといえば壁に掛けられた松明ぐらい。
今、岩石が転がってきている通路が一番メインの通路という設定らしく、横幅が一番広い。
そして、左右にも細いながらも通路が見える。
「こんなもの、外に出たら終わりだろ」
『扉が閉まってるとか』
「それでも横道もあるし、何より砕いても良い」
GTの指摘通り、こういうトラップは他の選択肢を奪ってから発動させるべきで、せめてもっと岩石に近づいたところで転がし始めるべきだろう。
しかも、こういうトラップを晒すことでクーンの意図がある程度読めてしまった。
「こういう趣向で殺すつもりだったか」
『向こうにしてみればお金がかかりませんからね。それが一番の動機かも』
資金のやりくりで苦労した分、モノクルが正解へと近づいた。
あまり意味の無い正解ではあったが。
「とりあえず、避けるか」
と、GTは一番無難な選択をする。
いつものGTであるなら、恐らくは岩を砕くことを選択したはずだが、微妙なやる気の無さが消極的な選択肢を選ばせた。
それが計算だったのか。
あるいはただの幸運か。
そのGTの選択はクーンにとって、もっとも望むべき行動だった。
ガコン!
横に踏み出したGTの足下の床が抜けた。
「お」
思わずGTの口から声が漏れてしまう。
移動中だったので、その分の慣性が仕事をしてGTの身体は一回転。
頭から落下してしまう。
『これは古典的な……』
薔薇が思わず呟いていた。
GTの顔が“
光源の乏しい状態であったが、GTの瞳はそこに据え付けられた円錐状の突起――要は落下した者を確実に仕留めるためのトゲだ――を確認した。
GTは銃を抜き放ち、そのウチの二本に向けて発砲。
ドドゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
狭い穴の中で銃声が反響を繰り返す。
だが、その狙いは過たず見事に二本のトゲを破壊。一応の安全地帯を作り出す。
それだけに留まらず、GTの身体はブラックパンサーの強烈な反動で半回転。
そうしておいて縦穴の壁面を蹴飛ばすことで、自らが作り出した安全地帯へと身体を導いた。
その上空でさらにクルリと回転して、見事に足から着地。
『さすがですね。大丈夫……そうで何より』
「まあな」
銃を手に持ったまま、左右に目を配るGT。
「……追撃の手配は無し……か?」
『詰めが甘い、と言うべきなんでしょうか』
ギギィ……
その時、先ほどGTを飲み込んだ開口部分が閉じ始めた。
「あのバカ、今回はとことんまで機械仕掛けに拘るのが美学か?」
『それよりも、あそこまで飛べますか?』
「……飛べなくはないと思うが、多分天井にぶつかるな――死ぬ勢いで。何せやったこと無いから加減がわからん」
『それは……ありそうですね』
どこまでも緊張が持てないまま、二人が緩い会話を繰り広げているウチに、ついに落とし穴の扉は閉じてしまった。そのために僅かに差し込んでいた松明の光も遮られることになって、周囲が闇に包まれる。
「……で、どうなるんだ?」
『パターン的に……』
ゴポン!
モノクルが何か言いかけたところで、再び音が響く。
単純に何かが開いた――だけの音ではない。
『……水、ですか?』
ザァァァ……
かなりの量の水が、この縦穴に注ぎ込んできている。
「水、だな」
GTが言わずもがなのことを確認する。
すでにGTの足下には水が溜まり始めていた。
『単純に考えれば、上の扉を破壊してしまえば問題ないわけですが……』
「それぐらいの対策はしていると、クーンを信頼してみよう」
『では、どうしますか?』
「そうだな……」
水はすでにGTの腰にまで迫ってきている。
「……一回、負けてみるか」
『えええええぇぇぇぇ?』
モノクルの悲鳴が、縦穴にこだました。
◇◇◇ ◇◇◇ ◆◆◆ ◆◆◆
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