Bパート2 ED Cパート 次回予告
「――そろそろ自分の弱さを認めて、次の工夫にいってみようか」
「ウ、ウフフフフフ……」
RAの右手がゆっくりと挙げられた。
それを合図に、今まで銃撃戦を繰り広げていたはずの街の住人がRAの背後の一列に並んだ。
「――僕が最優先すべきは、秩序の維持。そのためには確かに手段を選んではいられないようです」
「いいぞ――それがお前の美学だよな」
『あんな事も出来るんですねぇ』
モノクルが改めて感心したところで、RAの身体がたわみ。そして宙に舞った。
後方への宙返り。
その瞬間に、一列に並んだ街の住人が発砲。続いてトンボを切ったRAが追撃する。
これも簡単にかわす――かと思われたGTが、突如やぶにらみの表情を作る。
そして地べたに這いずり、住人からの銃撃をかわし上空からのRAの銃弾をそのまま転がってかわした。
結果としてGTの真っ黒なスーツが土に塗れる。
「ウフフフ。銃弾が見えるというのは、はったりではないようですねぇ」
着地したRAが愉快そうに笑う。
「この者達はお察しの通り、こちらの操り人形です。だからこそ全ての銃弾を、全くのタイムラグ――あなたの大好きなタイムラグですよ――無しにあなたの元へと届けることが出来る。しかも、一点ではなく、あなたの身体の各所に狙いを付けている。避けるのが難しいでしょう?」
「今――避けたわけだが」
「ウフフフ。想像力が無いんですか、あなたは」
再び手を挙げるRA。
すると今度は街のありとあらゆる場所から、住人達が銃を持って現れた。
GTの背後。左右の路地。木の上、絞首台の上。そして先ほどGTが駆け抜けた家屋の上。
あろう事かさきほど命を落としたはずのご婦人までもがRAと邂逅した掘っ立て小屋。その庇の上でウィンチェスターを構えている。
「こちらの人手はこのように増やせるんですよ。そして増えるたびにあなたの逃げ道は減る」
RAは自らの二つの銃口をGTへと向けた。
「すでにあなたは詰んでいる。下手に動けば、あなたが弱いと断じた僕から敗北をプレゼントしてさし上げます」
そこで、RAは愉快そうに「ウフフフ」と笑った。
「その虚飾の強さにしがみついていたいなら、あなたが何処の誰かを明かしなさい。そうすればこの世界での“勝ち”を譲ってあげましょう」
それは勝利宣言と言っても良いだろう。
そして、取引としてRAが持ち出してきた条件は、実際の命に関わる深刻なものだ。
GTがこの世界で相手にしているのは、裏社会の住人達。現実世界での素性が知れ渡れば――いわゆる“リアル割れ”を引き起こせば――わざわざGTの撃破を目指さずに、その大元を断つことを選択するはずだ。
かといって、ここで負けを選択するのは――
「ここで負けて、結果的に現実世界での命を永らえさせる……ウフフフ、僕はそれを余り美しいとは感じませんね」
「同感だ」
死中にあってもなお、GTは嘯いた。
ゆっくりと、スーツに付いた土埃を払っていく。
そしてRAを真っ直ぐに見据え、
「――モノクル。やっと前座が舞台を作ってくれたぞ。そろそろお前のカードを切ってもらおうか」
あろう事か話しかけたのは胸元の薔薇だった。
一瞬、呆気にとられるRA。
『――――!』
そして、それは薔薇の向こうのモノクルも同じだった。
『やけにRAさんに付き合っていると思ったら、そんなこと考えたんですか!?』
「さぁさぁ、早くしないと死んじゃうぞ」
『そんなこと選択するつもりは――』
「無いと言い切れるか?」
突然、前座扱いに“格下げ”されたRAはもはや躊躇しなかった。
NPCに銃撃の合図を出し、自らは油断無く銃を構える。
カンッッ!!
突如、庇の上のご婦人が持つウィンチェスターが弾き飛ばされた。
そして、
……ターン……
と、谺のような銃声が周囲に響き渡る。
その正体は、長々距離からの射撃。
音が届くよりも先に届いた銃弾がウィンチェスターを弾き飛ばしたのだ。
そんな異変が起きても動揺することなく、
ドドドゥン……
引き金を絞る街の住人達。
しかし包囲網の一角が崩れた今、その正確すぎる射撃をかわすことはGTにとってみれば、普段よりも容易かった。銃弾が飛んでこない婦人の方向へと身体をずらす
そして、しばしその場に留まってRAに見せつけるように笑みを浮かべると――次の瞬間にはその場から消え失せた。
ドンッ! ドンッ! ドドンッ!
街のあちこちで銃声が響くたびに、住人達が消えていく。
GTがわざわざ住人達の背後に回り込んでから、その頭を吹き飛ばしているのだ。
『さっきの絶対にピンチじゃなかったでしょ!!』
「うるさいなぁ。手を出させた段階でお前の負けだ――だけど、まだ問題があるな」
銃声の合間に聞こえてくる会話は、RAにさらなる屈辱を与えるものだった。
本来であればGTは自分に恐れ戦いて、その対処に全ての労力を費やさなければならないはずなのに。
「……こんな事、認めてたまるものかーーー!!」
天を仰いでRAが吠える。
だが、そんなRAの目はGTを捕捉できない。
完全にその姿を見失っている。
ドンッ! ドドンッ!
そうしている間にも銃声は響き続け、RAが配置したNPCが倒されていく。
銃声のした方向に目を向けても――
僅かに消失エフェクトの残滓が漂っているだけ。
RAは首を左右に振り、銃口を右往左往させるが、GTの影すら捉えられない。
ガガガガガガガガンッ!
突如、雷鳴の如き連続した銃声が響き、RAの周りにいたNPCが一息に倒された。
すでに街中にNPCの気配はない。
GTが最後の詰めに入った――
そんな現状を、額を伝う冷や汗と共に強制的に自覚させられたRA。
突きつけられる銃口。
一瞬の痛みと共に吹き飛ばされる己の頭。
あるいは風穴が胸に開けられる瞬間。
そんな絶望的な未来が、RAの脳裏に浮かび上がる。
だが訪れた現実は、ある意味そんな安らぎよりも酷いものだった。
「悪いな。俺の銃だと威力がありすぎてな」
RAの眼前に突如現れたGTは、その右手の銃をもぎ取った。RAは突然のことで抵抗らしい抵抗も出来ない。
GTは奪い取った銃でRAの両膝を撃ち抜き、腹を蹴飛ばして地を舐めさせる。
そして左手を撃ち抜き、右肩に一撃を食らわせた。
RAはその場で芋虫のように動けなくなる。
GTの狙いは、そのままRAを嬲り殺すこと――あるいはその方がマシだったかもしれない。
そうやってRAの動きを封じたGTは、それに背を向けて胸元の薔薇を取って自らの額の前に掲げた。
「モノクル、名前は知らんがお前が雇った新人に伝えてくれ――この薔薇を撃て! と」
『……何故ですか?』
「確かに役には立つようだが、そいつは人を狙撃するのを選択しなかった。人が殺せることが立派だとは思わないが、それが出来ないようでは現実問題として、この仕事では役立たずだ」
『しかしですね……』
「やらせろ」
GTの静かな恫喝に、モノクルが黙り込む。
「き……貴様……」
そして動けなくされたRAは懸命に身体を捻り、憎悪に歪んだ眼差しをGTの背中へと向けていた。
「ぼ、僕を利用したのか? こんな事……こんな事、許されるはずが――」
GTが肩越しに振り向いた。
それはRAが初めて見る、GTの“本来の”瞳。
ザ……ザザ……
それを見たRAは思い出す。
それは雨音か、あるいは何かのノイズか。
RAの脳裏によみがえる忌まわしき記憶。
「き、貴様……貴様は……」
そして突然に薔薇は散った。
疾り抜けてきた銃弾が、花びらを荒野の風へと手渡す。
GTは全てを見ていた。
己の額へと迫る銃弾を。
血のように広がる薔薇の香りを。
かわす――
当然の如くライフルの銃弾をかわすGT。
そしてGTがいた空間を突き抜けた銃弾は――這い蹲っていたRAの頭部を破壊した。
ターーン……
そして遅れて届いた銃声が弔意を示すかのように、荒野の街「ゴールデンリバー」に響き渡り――
――GTは
◇◇◇◇◇◇ ◆ ◇ ◆ ◇◇
『彼はどうです?』
「聞いていた以上に面倒で――聞いていた以上に優秀だわ。でも、最後のあれはなんなの?」
女性が立ち上がりながら、聞こえてきた声に応じた。
声の元はどうやら奇抜な仮面らしい。
『最終的に、この世界においてあなたが“人を撃った”という事実が欲しかった、ということなのかもしれません。何しろ彼は避けるつもりだったようですから』
「馬鹿な心配だわ……あんな細工をしてしまう能力には驚いたけど」
『彼の能力は私でも測りしれませんから』
ふと、女性は黙り込むがすぐに言葉を継いだ。
「……一度撃ったから、狙撃位置が判明するのは仕方ない――それよりも問題なのは、私の存在に気付いたこと。自信あったんだけどなぁ……彼の素性は?」
『そんなこと……』
仮面が笑う。
『いくら何でも教えるわけ無いでしょう――そうだ』
仮面――モノクルは笑うの止めて、女性に話しかけた。
『その姿の時のあなたの名前を決めておきましょう。もちろんそちらのご希望に添いますよ』
「そうね――」
女性は暮れかかった紫の空に輝く一番星を見上げる。
「――“エトワール”でいいわ」
『それはそれは』
モノクルの声が深く沈む。
『――夢と希望に満ちた名乗りですね』
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次回予告。
新たなる仲間エトワール。
だが、GTは今までの行動をまったく改めることはなく、結果としてエトワールによる諜報活動も意味をなさなかった。
業を煮やしたモノクルは、改めて二人の顔合わせを行うことを決意。
かくして二人は初めての会合に挑むことになるが、それはそれぞれに試練を与えることとなる。
次回、「
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