Bパート2 ED 次回予告

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……


 空間の許容範囲を圧倒的に超えた断続的な爆裂音。


 死なぬはずがない。

 生きていられるはずがない。


 そんな確信を抱くしかない、圧倒的な暴力を象徴するひびき

 今度こそ、今度こそは――


 ドゥン……!


 しかし男達の野蛮な希望を圧倒的な威力を誇るハンドガンの銃声が打ち砕いた。

 GTの一撃が傷面スカーフェイスの頭部を吹き飛ばす。


 ドゥン! ドゥン!!


 二つの銃声が響き、また二人の男が消えた。


 何が起きているのか理解できない。

 男達は自らの銃弾が向かう先を必死で見つめ続ける。


 そこには銃を構えたGTが居る。

 射戦を確保するためか、GTは右に向かってゆっくりと移動していた。


 そして、無造作な銃撃が確実にこちらの人数を減らしていく。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……


 自分たちが銃撃を止めたわけではない。

 変わらずに自分たちは撃ち続けている。


 それなのに自分たちがばらまいている大量の銃弾は一向に効果を上げず、GTの銃弾は一発ずつが確実に仕事をしている。

 思わず神を呪いたくなる、途轍もない理不尽。


 そんな想いが生み出した憎しみの眼差しがGTに注がれる中、男達は怪異な現象を目撃した。

 GTの姿が空間に滲んだように“ずれて”見えたのだ。


 キャンバスにGTの姿を描き、絵の具が乾ききらないうちに、その輪郭を指で撫でてしまったかのように。

 世界にGTのスーツの色、黒が滲んでいく。


 その中に、薔薇の赤、エメラルドの緑がラインを描き、そしてまた消えていく。


 何が起きているのかを、男達は強制的に理解させられた。


 避けているのだ。


 最小限の動きで弾丸を。


「弾を見て、それから避けた」


 先ほどのGTの言葉をそのまま信じた者はいなかった。信じられるはずもなかった。


 だが、もはやどうしようもない。

 あの言葉を疑うべき理由が目の前の光景には何も存在しない。


 そんな滲んでいたGTの姿が一瞬だけ輪郭を取り戻した。


 ドゥン!


 GTの姿が像を結ぶ、その瞬間こそが自分たちが刈り取られる一瞬。


 それと気付いたとき男達の反応は様々だった。


 覚悟を決める者。恐慌状態に陥る者。撃つことを止め逃げ出す者。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……


 ドゥン! ドドゥン!!


 だが共通しているのはGTに撃たれ、世界から消える一瞬、そこに恍惚の笑みがあることだ。


 GTに撃たれれば、この理不尽な状態から解放される。

 それだけが男達に残された幸せだったのだ。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……


 そしてGTのマガジンが二度交換された後――


 その場に残っているのはクーン、そしてバルカン砲が破壊し尽くし瓦礫の山となったビルの残骸。

 その残骸の上に乗り、クーンを見下ろすGT。


 ただ――それだけだった。


「金が尽きたか」


 何もかもを失った。


 そんなクーンに追い打ちをかける無慈悲なGTの言葉。

 確かに、クーンのバルカン砲はもうずっと前から停止したままだ。


「違う! 尽きたのは金じゃねぇ!! 用意しておいた弾だ!」


 血が滲んだような絶叫を前に、GTも肩をすくめる。


「そいつは悪かったな。だけどお前が弾を準備するまで待ってやる義理はこっちにはないんだ」


 GTの銃口がクーンへと向けられた。


「さて、そろそろ話してもらおうか。お前の協力者だか、上だかの話を」


 GTが冷笑を浮かべる。


「ここまでやられといて、何にも話さねぇ――じゃ男が廃るぜ」


 勝者の当然の権利を行使しようとするGT。そんな理屈に拘束性はないのだが、クーンもそういう勝負の世界で生きている男なのだろう。ピクリと肩を振るわせ、一瞬観念したかに思われたが、やがてその肩が小刻みに揺れ始める。


「……何を勘違いしてやがる。俺が尽きたのは弾だけだ。武器はなくなっちゃいねぇぜ!!」


 クーンの声が暗く、そして深く響いた。


「お?」


 そんなクーンの声にGTは意外そうな声を出した。


 もはやクーンには打つ手がない――はずだ。

 だが次の瞬間、クーンの身体がいきなり反り返る。


 そして、クハハハハハハハハハハハハハハハ、と異様な哄笑を周囲に響かせた。


「壊れたか?」

『あなたが無茶苦茶しましたからね』


 モノクルの声にはどこか同情の響きがあった。


「カモォ~~~~~~ンッ!! スーパービーム砲ッッッ!!」


 そんなまとわりつく感情を振り払うように、叫ぶクーン。

 GTはその叫んだ言葉の意味を即座に理解できなかった。


『は?』


 と、モノクルが声を出せたのはその場に居合わせなかったアドバンテージによるものか。


 だが、そんな二人の反応にもクーンは構うことなく、見得を切って右手を横に振った。


 すると弾を撃ち尽くしたバルカン砲は消え失せ、クーンの前に巨大なオブジェが出現する。

 いや、正確にはオブジェとしか認識できない何か――と言った方が正しい。


 円形の台座。その上にフレキシブルな動きを実現する球状の接続機器で支えられたコンソール。

 コンソールには両手で掴むための取っ手が付いており、その反対側から飛び出しているのは長い筒状の――


「ありゃ、砲塔じゃないのか?」


『……! そうです! あれは警察軍の戦艦に採用された最新鋭の荷電粒子砲【HII-807】だ! この世界への対応バージョンがマニアの手によって作り出されましたが、当然の如く取り締まりの対象となり全て回収されたはずですが……』

「関係者の誰かが横流ししたな。金を積まれでもしたんだろう」


 ごく当たり前のニュースでも語るように、GTが推測を述べると、


『面目ない……』


 と、モノクルが消え入りそうな声で応じる。


 取り締まりをしたのは連合の職員だ。つまりモノクルにしてみれば身内の恥が目の前に具現化したようなものなのである。


「ワハハハ、恐れ戦け!! いくらお前でも亜光速で飛来する荷電粒子をかわせるものか!!」


 一方でクーンは絶好調だ。

 コンソールを操作しながら取っ手を掴むと、その砲口をGTへと向ける。


「あいつバカだなぁ。この段階で俺が移動したら終わりじゃないか」

『……どうします?』

「いいさ、もう少し付き合ってやろう」


 そう言っている間にも、スーパービーム砲とやらにはエネルギーが充填されていく。

 少なくとも、一対一の状況で使うような武器ではないことは確かだ。


 しかし、すでに心が半壊状態のクーンにそんな判断を求めても無意味だろう。

 GTは無表情で砲塔にエネルギーが充填していく様子を眺め、真っ正面からクーンを見つめ続ける。


「よ~~し、良い子だ。そのまま動くなよ……シューーートォ!!」


 出し抜けにクーンが取っての引き金を絞り、ぶっ放した。

 白熱した荷電粒子がGTへと迫る。


 が――


 荷電粒子はGTの身体をすり抜けてしまった。

 そして、そのまま背後のビルを軒並みなぎ倒してやがて夜空の彼方で光を失う。


 それを呆然と見送っていたクーンの目が、ある地点を確認して大きく見開かれた。

 その地点とは元々GTが立っていた場所。


 GTは荷電粒子がなぎ払ったはずの場所に、そのまま存在し続けていた。


「な、な、な、な」

「先に説明しておいてやるか。“見えたから避けた”んだ。それだけの話。さっきと変わらない」


「み、見えたって、お前、亜光速だぞ! 光速だぞ! 例えそれが見えたとしても、何でそれがかわせる!?」

『クーンさん、あなたこの場所の正式名称を知りませんでしたね』


 落ち着き払った声で、モノクルが割り込んできた。


『先ほど説明差し上げましたが、覚えてらっしゃいますか?』

「うるせぇぞ、てめぇ! それが今何の関係がある? こいつは光速をかわしたんだぞ。それはつまり……」

『ええ、光速以上で動いたんです』


 モノクルはあっさりと、クーンが認めまいとしている現象を肯定した。


『これはここの正式名称に関係があります。O.O.E.。正式には“Out of Einstein”。己の名誉欲のために人類を一世紀近く光速の檻の中に閉じこめ、今もまだ残る悪影響を及ぼした大罪人、かのアインシュタインの“ことわりの外の世界”。それがこの世界なんですよ』


「な、何を言っている……」

『では、わかりやすく言いましょう。この世界に速度の限界はありません』


 そうモノクルが言い放った瞬間。


 崩れたビルの向こうから、朝日が顔を覗かせた。


 眩しい太陽の光。


 その光の速さは、果たして現実世界と同じ早さなのか。


 クーンの常識が光と共に崩れ落ちていく。

 いや、それは錯覚ではない。


 その光に包まれるようにして――


 ――やがて、クーンの身体が透明になりやがて消えてしまった。


「あ……と……」


 GTが間抜けな声を出す。


「俺、まだ殺してないよな?」

『……迂闊でした。クーンさんの制限時間が来てしまったんですね』

「……ああ、あったなそんなの」


 O.O.E.の接続時間はおおよそ三時間が限界だとされている。


 この時間には個人差があるのだが、接続機器が使用者の状態を常に監視していて、危険な状態になる前に自動的に切断ダウンしてしまうのだ。


「……ということはなんだ? 逃がしたって事か?」

『そうなりますね。誠に遺憾ながら』


「いやけどよ。あいつが根っこに繋がる枝だって事は、ほとんど確定なんだ。またあいつが出てきたところに行けば……」

『……そういった感知が出来なくなっているから、私はあなたにこの仕事をお願いしたんですよ』

「おお」


 GTは大きくうなずいて、出しっぱなしだった銃を腰のホルスターに差し込んだ。


「やっと、そっちが何を困っているのか実感できたぞ」


 そんなGTの言葉に、モノクルはたっぷりと間を取ってこう返した。


『……それを今日の成果として数えて、自分を慰めることとしましょう』

「ま、気長にやろうぜ。どうせ誰も実際に死んだりはしないんだ。あいつらともまたどこかで会えるさ」


 そう言うとGTは瓦礫を踏みしめ、朝日の方へと歩き始め、


 ――その光の中に消えダウンした。


◇◇◇◇◇◇ ◆ ◇ ◆ ◇◇


次回予告。


止まらぬ虐殺を繰り広げるGT。

情報収集もままならな事態に頭を抱えるモノクルは、もう一人のエージェントを送り込んだ。


そんなモノクルの措置に納得がいかないGTの前に現れる、敵の刺客「RA」。

アメリカ開拓時代を模した区域で、RAとの戦闘が繰り広げられる。


その最中、GTの脳裏にある閃きが。


次回、「この薔薇を撃て!」に接続ライズ

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