Aパート2 アイキャッチ

 今この場にGTがいる理由は、単純に超スピードで店内から脱出しただけの話だ。


 そのまま飛び上がって、上空から四人を射殺した、というのが一連の出来事に対する説明なのだが、むろん通常の身体能力では何もかもが不可能な行動である。


 だが、この身体能力を以てすれば確かにむやみに殺すこともなく、相手を制圧できるだろう。

 薔薇が嘆くのも、もっともなことではあるのだが、


『そうじゃありませんよ。あいつらは装備から考えて連合の特殊部隊“re:GIG”のコピーを目指していたはずなんですよ』


 薔薇の嘆きは、別の事柄についてだった。


「あ、そうなの?」

『装備の選択から見て間違いないです。それなのに、何でしょうあの貧弱な防御力は。もうちょっとまともにコピーできなかったんでしょうか』


「俺にそんなこと言われてもなぁ」

『これは、連合への挑戦と受け取って良いでしょう』


「役人のお前が憤る気持ちもわからんではないが、別段あいつらの装備が劣っていたというわけじゃないんじゃないか?」

『そうですか?』


「俺の銃の威力が馬鹿げてるんだよ――お前が用意してくれたコレな。それに、この銃を現実世界も持ち出したら、間違いなく酷いことになる」

『……肩が抜けるとか?』


「それで済めばいいけどな。多分、右腕の関節という間接がソーラーパネルみたいにペタンコに畳まれることになるぞ」

『ちょっと……上手く想像できないんですが』

「つまり現実味がないってことさ。銃のトリガーの軽さも含めて」


『まさか殺しまくった理由を、トリガーの軽さのせいにするつもりじゃないでしょうね?』

「その発想はなかった。俺は使いやすさをアピールしたつもりなんだがな--製作者のお前を慰めるために」

『全然慰めになりませんよ……ところで、ここでのんびりと立ち話していても良いんでしょうか?』

「そうだな……」


 爆音が響いてから、まだそれほどの時間は経過していない。

 本隊がいるなら実行部隊の帰還を待っているぐらいの頃合いだろう。


 その本隊が何処にいるのか――は、この場合それほど問題ではない。その本隊に“当たり”が含まれているかどうかだ。

 そして、今までの敵の実力から考えると……


「外れっぽいな」

『ですね。どうします? このまま切断ダウンしますか?』

「いいさ。時間一杯はこいつらの相手をしてやるよ。趣味も合いそうではあるし」


 この周囲一帯の雰囲気と、GTの趣味に走りまくった出で立ちとは確かに妙にマッチしている。目立ちすぎる髪と瞳の色を除けばだが。


『確かに同じ趣味に思えますね。一体、誰が作ったフィールドなんでしょうか? 今までの連中が制作者の関係者……というのは都合が良すぎますか』


「そうだろうな。しかし、格好からして一応趣味は制作者と一致しているみたいだし、そういう場所で散るのもまたロマンだからな。望みを果たしてやろう」


『……余計なお世話の典型的な事例と言えるでしょうね』


 ザッザザッザッザッザザッ……


 暢気に話し込んでいると、隠そうともしない複数の靴音が聞こえてきた。

 GTが最初に姿を現した場所とは反対側からで、単純に考えればこの区画の奥まった場所からやってきたと思われる。


 もちろん足音を聞いて逃げ出すようなGTではない。


 銃も抜かずに、そして足音をわざと甲高くうち響かせながら、足音のする方向へと向かう。


 これに警戒したのか逆側の相手の足音が止んだ。それでも構わずにGTは進み続け、二つ目の角を曲がったところで、再びコンバットジャケットに身を包んだ--薔薇が言うには何かしらの特殊部隊をリスペクトしているらしいが--男達に遭遇した。


 今度は三人。いわゆる小隊編成がいちいちバラバラなところがいかにも素人だが、反応は素早かった。

 元々警戒態勢を取っていたこともあるのだろう。突然の遭遇に一瞬硬直するが、その隙はほんの僅か。


 しかし、それは人間レベルの能力を持つ者を相手にした場合の評価でしかない。


 ドンドンドンッ!


 先ほどの脳天からの射撃とは違い、銃声が重ならない分GTにとってはより丁寧に撃ったつもりなのだろう。


 横薙ぎに銃を振るっただけに見える動きであったが、その銃弾は正確に男三人の頭を吹き飛ばしていた。


 即死の判定を受けた男達が消失エフェクトに包まれる中、GTの銃から滑り落ちたマガジンも同時に消失エフェクトに包まれていた。GTは左手にマガジンを出現させると、そのまま装填しチャンバーに弾丸を送り込む。


『そのあたりの作業も自動化できるんですけどね』

「これもまぁ、こだわりだな。実際弾数制限はない状態だし」


『それは、我々のバックアップによるたまものですよ。税金使い放題ですから』

「……かつて無い罪悪感を覚えつつあるな」


 と躊躇無く殺し続けたGTが呟いたところで、ビルの渓谷に叫び声が響く。


「こいつを食らえェ~~~~~~!!!」


 気合いの入った胴間声だった。


 そしてそれを合図に聞こえてくるのはロケット砲の発射音。

 正面、右、左、そして――頭上。


 それも一つずつではなく、それぞれの方向から複数の発射音が聞こえてくる。


 どれほどに焦っても仕方のないシチュエーション。


 最適な行動を選択するならば、それは後方への撤退だろう。その判断に加えてGTの保有する超人の機動力があれば、安全な場所への退避は容易だったはずだ。


 だがGTはその場に踏みとどまった。


 まず正面から飛来するロケット弾を撃ち落とす。これが五発。


 続いて腕を真横に伸ばし、同時に視線を向けて右側を迎撃。これが三発。さらに上空から迫る二発をあっという間に片付けて、そのまま右腕は弧を描き、白煙をたなびかせて迫り来る左側の二発を叩き落とした。最後の一撃だけは、何かに当てつけでもしているかのように銃把をしっかりとホールドした理想的な射撃姿勢を取ったが、そのために迎撃速度が遅れたりはしない。


 この間、僅か一秒。


 爆音が周囲の何もかもを圧殺する中で、GTは唯一残された静寂の趣で静かにマガジン交換を行う。


『……素直に逃げましょうよ』

「動いたら負けな気がして。十二発で良かった」

『確かにあなたなら目の前で爆発されても逃げ切れるでしょうけど……』


「それだけじゃなくて重大なことに気付いたぞ」

『なんですか?』

「このビルは張りぼてじゃないってことだ。少なくとも屋上には登れる仕様らしい」


 そう言い放つと、GTの姿がその場からかき消えた。


               ~・~


 GTが消えた区画から、三ブロック程離れた区域に集まっている--というよりはたむろしていると言った方が雰囲気的には正しい集団があった。その一角はビルが密集しておらず、石畳で敷き詰められただけの殺風景な空間ではあったが、街灯に明るく照らされており、ちょっとした広場のような空間である。


 そこにたむろしているのはおおよそ三十人ほどであろうか。


 集まっている男達は全員がスーツを着込んでおり、手にはそれと不釣り合いのゴツい銃器。


 暗がりばかりのビルの渓谷の中で、この広場の明るさは確か目立ってはいた。だが、こんなところにわざわざ近づく者はおらず、見事に周囲一帯がこの常軌を逸した男の群れカラーに染め上げられている。


 その中心に居座るのも、もちろんスーツの男。


 だがこの男の場合、周囲の男達とは随分と印象を異にしていて、スーツは確かに着ているのだが、その上からゴテゴテと装甲を貼り付けており、ほとんどインナー扱いだ。


 襟元から覗くネクタイの結び目だけが僅かにスーツを着ているという名残を周囲に知らしめていた。


「ボス」


 と、話しかけられ振り返る男。むろん頭部も真四角なヘルメットでがっちりガードしていて、僅かに覗いているのは口元だけ。

 そこから判断するに、それほどの年齢は重ねていないようだ。尖った顎がやせた身体を想像させる。


「あいつら遅すぎませんかね?」


 と話しかける部下--なのだろう--に遮光ゴーグル越しの瞳が向けられる。部下の方は、この場ではごく標準的な出で立ちで、多少の個性を見いだすとすれば、頬に刻まれた傷だろう。


 そんな傷面スカーフェイスにボスはふんぞり返りながら同意した。


「まったくだぜ。あんなに趣味の悪い格好特別に許してやってるのに、情けねぇ」

「………………」


 言いたいことを言えない立場というものは確かにあるものだ。


 しかしここで黙り込んでしまうことも、また許されない立場である傷面スカーフェイスは何とか言葉を紡ぎ出そうとして、一つの可能性に気がついた。


「……あれだけロケット弾をぶちこんじまったら、死んじまったどうかもわからないんじゃ?」

「…………」


 どうやらこのボスは、そこまで考えてなかったらしい。


 そして人類には手に負えない静寂が訪れる中、まるでその場を救うかのように、広場を目指して駆け込んでくる一つの影があった。


 すでに重い武装は捨ててしまっているらしく、それでも手足をもつれさせて、見ているだけで自分も追い詰められているよう気分が味わえる酷い慌てぶりだった。


「お、おい……!」


 思わず声を掛けたボスに応じたのは--


 ドンッ!


 ――一発の銃声。


 まるでその銃声が刈り取ったかのように、逃げる男の右足が突然消失した。

 男は転がる勢いのままに宙を舞い、結果、上下逆さまになった頭部と腹部。


 ドドンッ!


 そこに立て続けに銃弾が叩き込まれる。

 もちろん男は宙に浮かんだまま消失。


 そんな非道を行った相手は、その場で悠々とマガジン交換を行っていた。


「お、ようやく着いたぞ。上から見る分にはすぐに着きそうだったんだけどな」

『ロケット弾打ち込んだ連中全員殺して回るから、そういうことになるんです』


 交わされている会話も酷い。

 もちろん言わずとしれたGTと薔薇の会話である。


 GTは、そこでようやく広場と、そこにたむろする男達に目を向けて、


「さてと、どいつが頭かな」


 と言いながら、躊躇う様子もなくその集団に近づいていく。


 男達のゴツい得物が一斉に自分に向けられてもまったく動じた様子がない。

 むしろ銃をホルスターにしまうような有様で、子供の遊びを見守るような笑みさえ浮かべていた。


「あ~~~っと……アンタが頭?」


 広場まで、おおよそ三メートルの距離に近づいたGTが尋ねたのは、あろうことか傷面スカーフェイスの方だった。


「おいこら! てめぇ! ボスは俺だ!!」


 当然の反応と言うべきか、スーツに装甲版を貼り付けた男から声が上がった。

 さらに続けて、


「こいつらのボスは俺、クーン様だ」


 と、親指で自分を示しながら威勢良く自己紹介。


 そんな様子を胡乱な眼差しで見つめるGT。

 そしていきなり断定する。


「それは嘘だ」

「嘘じゃねぇ!!」


 語彙も少なく、そのまま言い返すだけのクーンに、GTのエメラルドの瞳はさらに細められていく。

 それに追い詰められたのか、クーンは言い訳をするようにさらに言葉を重ねた。


「俺がボスだ! 見ろ! この装備! 他の連中よりも金を持っているからこれだけのことができる。それにこの街を作らせたのは俺なんだ! 俺が一番偉くなくて何でそんなことが出来る?」


 その必死すぎる訴えが功を奏したのか――


 今までクーンにまったく関心を向けなかったGTの瞳が輝いた。


「“作らせた”――だと?」

『聞き捨てなりませんね』


 GTと薔薇が同時に呟いた


◇◇◇ ◇◇◇ ◆◆◆ ◆◆◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る