16.アメリカ・ホホカム編

“フワッ”


そして次の瞬間、三人は違う場所へと移動していた。


「着いた」


「着いたって、ここは?」


レイラとセリカが周りを見渡すと、タイムスリップでもしたかのようなアメリカ開拓時代前の光景が広がっていた。殺風景な大地にいくつものテントが建っている。


「ここはホホカム族の村」


「ホホカム族の村って・・・何がどうなっているの?」


「今から約240年前、ホホカム族は白人の侵略によって滅ぼされそうになった。その時、天よりフェニックスがホホカム族の前に現れ、ここにいざなってくれた。フェニックスはホホカム族を救ってくれた。以降、ホホカム族はずっとここで平和に暮らしている。だからフェニックスは俺たちの神」


「なるほどね。じゃあ、レイラは神様だ」


「ちょっとセリカ、変な感じになるからやめてよ!」


「あはは、ごめんごめん」


「今から村長のに挨拶し、その後にソース・オブ・ライフまで案内する」

 ボダウェイはそう言ってレイラたちを村の中心へ連れて行った。


「村長、フェニックスが現れた」


「おお、待っておりましたぞフェニックスの姫君よ!私はホホカムの村長、ニヨルと申します!一族を代表して私がソース・オブ・ライフまでご案内したいところですが、そのお役目はボダウェイのものですので私はご挨拶のみとさせて頂きます。これはせめてもの餞別せんべつです」

そう言ってニヨル村長はレイラの手のひらに何かを乗せた。


「これは・・・」

レイラの手のひらの上には火の実が乗せられていた。


「一族の言い伝え。火を絶やすな、火の実を絶やすな。さらば汝(なんじ)らに永遠の幸福をもたらさらんことを約束しよう」ボダウェイがボソッと呟いた。


「でもこれは火口にのみ生息するのでしょう?」


「加工と同じ環境があればそれは可能です。そしてそのノウハウはフェニックスが我々一族を救った時から今までずっと伝えられてきている。我々はこれを食べることは出来ない。これは神聖な実。毎日、毎日、我々はこれを神様へのお供え物としてきたのですよ」


「そうだったのですね・・・。ありがとう」


「さあ、レイラ、ソース・オブ・ライフのある場所まで案内する」


村長の大テントを出ると、日が暮れ始めていた。


「あの岩山にある。あそこに行くときは岩山をいつも登っている。今回は、これ、使うと良くないか?」そう言ってボダウェイは少し照れくさそうにフライ・ハイを手に取りながらそう言った。


「「さんせーい!」」

レイラとセリカはニコニコしながらそう返事をした。


三人はフライ・ハイに乗って、岩山の中腹にある洞窟の入り口前に到着した。


「これは本当に楽・・・」


「そう言って頂けると作ったかいがあったってものですよ」

自分の発明品を誉められたセリカは嬉しそうだった。


「さあ、この先」

そいってボダウェイは二人を洞窟の奥へと案内した。


洞窟の中はレイラに共鳴してか、レイラが一歩足を踏み入れると中の洞窟自体が明るくなった。


「これなら私が中を照らす必要もないですね」


「さあ、姫君、この先」


ボダウェイはがそう言った場所の先からは紫色の光がこぼれていた。そして進んだその先には岩を丸く大きく切り抜いたような巨大空間が広がっていて、その空間の中心にソース・オブ・ライフが浮遊していた。


「あれがソース・オブ・ライフ、六番・パープル。時空を司るもの」


「時空・・・」


「そう。さあ、レイラ姫、あれをお取込み、下さい」


「ええ」

レイラはそう言うと、自分の翼で空間の中央まで飛び、ソース・オブ・ライフへ手を伸ばした。


ソース・オブ・ライフはレイラが手にした瞬間、強く輝き、レイラの胸へと吸い込まれた。レイラから紫と金色と、緑色の光が螺旋を描きながら放たれた。


「美しい・・・」

ボダウェイはその光景に見とれていた。


「凄い・・・。でもレイラ、フライ・ハイいらないんじゃないかな?」

セリカはあっけにとられながらも自分の発明品の必要性について振り返っていた。


レイラは三つ目のソース・オブ・ライフを手に入れたことで、二番・グリーンは大自然を、七番・イエローは宇宙の光を、そして六番・パープルは時空を操ることが出来るようになった。


一方、敵対する鳳櫻子は三番・ブルー、水を操ることが出来る。


そして残るは、大気やいかずちを操る一番、ホワイト、炎を操る四番・レッド、大地、鉱物を操る五番、オレンジ。


もしも残された三つのソース・オブ・ライフが凰麗ではなく、鳳櫻子に渡ってしまったら非常に厄介なことになることは目に見えていた。

 

レイラたちが洞窟の外に出ると、外はすっかり陽が落ちていて、幾千に広がる星々が夜空に広がっていた。

夜の闇夜を忘れてしまいそうなくらいに星は明るく世界を照らしていた。


「あれ?レイラ、どうしたの?」

美しい星々に見とれつつ、レイラは幼い頃両親と星をよく見ていたことを思い出していた。




― 十八年前、アメリカ・ウィスコンシン州・シカゴ郊外 グリーンレイク

 

バード一家はレイラの夏休みにシカゴ郊外にある湖でキャンプをしていた。夏のキャンプはバード一家の定番だった。日中、父のケインは湖で釣りをして、母のナターシャとレイラは森の中を散歩したり、時にはサイクリングをしたり、またはバドミントンやバレーボールなどをしてそのゆったりとした時間を楽しんだ。


夜には父親が釣ってきた魚のバスやトラウトを塩焼きや燻製焼きにして食べたりするなど、毎日バーベキューをしてディナーを楽しんだ。ディナーの後は決まって天体観測を楽しんでいた。両親共に星を見ることが好きで、レイラもその影響もあってかこの時には八十種類近くの星座を探し当てることが出来るようになっていた。


「ねえ、観てお父さん、あの星座」

レイラは無邪気にお気に入りの星座に天体望遠鏡の角度を合わせると、横で寝そべる父親に声をかけた。


「どれどれ?」

そう言ってケインは天体望遠鏡を覗き込んだ。


「私が一番好きな星座よ」


「・・・そうなのか。ナターシャ、観てみてくれ」

ケインはナターシャにも天体望遠鏡の中を覗かせた。そしてナターシャはケインと同じ表情でレイラを見つめた。その表情は何処か悲しさを漂わせていた。


「フェニックス座!私、フェニックスって好きよ」


「ああ・・・素敵だよね」

ケインもナターシャも相槌を打ちながらも、やがて訪れるであろうレイラの運命を心の中で嘆いていた。


「レイラ」

ナターシャがレイラの頭を優しく撫でながら囁いた。


「なあにお母さん?」


「幸せになってね。あなたが幸せなら、きっと皆が幸せよ」


「わかったわ」




― 現在


「ねえ、ボダウェイ、私の両親がどうしているかとかわかったりする?」

レイラは駄目元で行方不明の両親についてボダウェイに聞いてみた。


「ホホカムの村長ならわかるかもしれない」


村長は燃え仕切る炎に薪を投げ入れながら、ホホカムの言葉で何かを唱え続けた。そして一瞬、炎が高く燃え盛ると、レイラに向かってこう言った。


「ご両親は生きている。でも危険にさらされている。それは今も昔も。それを救えるのはレイラしかいない。レイラが心から微笑む時、本当の意味で救われる」


「それって・・・」

レイラはそれが今回の件のことを指していると確信した。そしてより一層の決意をもってやり切ることを決意した。


また、この日の夜、再びレイラの夢枕に凰麗が立ち、南極でソース・オブ・ライフを受け取り、今はオーストラリアに着くころだと報告していた。


また、南極で不思議な出会いをしたとも話していたが詳細までは話そうとはしなかった。レイラと凰麗は京都での再会を約束した。

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