15.アメリカ・セドナ編
― 8月23日午前10時。
フェニックス・スカイハーバー国際空港にセリカの自家用ジェットが着陸した。
「着いたー!ってあちぃー!」
セリカが伸びをしながら楽しそうにそう言った。気温は40度。エジプトよりも暑かったことにセリカは驚いていた。
「でも、嫌な暑さじゃないよね。ねえセリカ、本当、色々とありがとうね・・・」
「なーに言ってんすか!私たち、もうマブダチじゃないっすか!」
「うふふ、ありがとう」同じような感情をレイラも抱いていたので思わず笑みがこぼれた。
「しっかし、まさかフェニックス市とはねー。そのまんまじゃないですか!」
「ふふふ。そうね。」
レイラも同感だった。そしてまた、母国に戻ってきたことで不思議な安心感も少し覚えていた。
「さぁーって、レイラ、何処に向かう?」
「少し郊外にある“ホホカム”っていうレストランに向かって欲しいのだけれど、住所とか必要かな?」
「ナビゲーション起動。アリゾナ州フェニックス市、レストラン・ホホカム」
セリカがそう言うとモニターが素早く起動した。
“アリゾナ州フェニックス市、レストラン・ホホカムに向かいます”
「ねえ、セリカ、好きな食べ物は?」
「私は日本食ですねー。寿司、天ぷら、ラーメン、あと酒も」
「ふふふ、私も日本食が好きよ。日本に留学していたころ、たくさん赤音が食べさせてくれたから、今度、美味しいお店紹介するね」
「あざっす!」
「なあに、そのノリ!」アメリカに着いてからの妙なセリカのハイテンションにレイラは終始微笑んでいた。
「へへ、本当は私、こんなキャラなんですよ。ちょっと今まで猫かぶってました」
「もーう、何で猫かぶるのよー」
「いやー、立場的な?それでー・・・」
車は30分弱で目的地のレストラン・ホホカムに到着した。ホホカムの外装はいかにもアメリカに来ましたというような外装で、ウエスタン・ガンマンが今にも出てきそうなログハウスで外側には酒樽や馬車の車輪が目に入る。
二人が店の中に入るとアメリカ原住民の男が待っていた。
「待っていた。俺の名はボダウェイ。飯は食べたか?」
「初めましてボダウェイ。私はレイラ、彼女はセリカ、宜しくね」
「宜しく。まずは腹ごしらえして、その後、セドナに行く」
「わかったわ。お気遣いありがとう」
「くぅー、うまーい!うまうま」
セリカが口いっぱいにステーキを頬張る。
「ねえ、ボダウェイ、今日までで何か不自然な出来事などなかった?」
「昨日、火が黒く燃えた」
「え?火が黒く?」
「そう。ホホカムの言い伝え。漆黒の炎が燃え盛る時、暗黒時代の幕が開ける」
「ちょっと、嫌な言い伝えね」
「多分、良くないことが起きる」
「まあ、気にしても仕方がないでしょう!」
「そうね・・・。心の片隅に置いておきましょう」
三人は車でセドナへ向かった。レストラン・ホホカムからセドナへは一時間弱で到着した。広大な大地に巨大な赤茶色の岩山。そしていくつもの巨大なサボテンが荒野に点在している。
水気のない赤茶色い岩山を登り始めたところでセリカが足を止めこう言った。
「ボダウェイ、何かロック・クライミングさえしそうな感じだけれど、結構ここからあるかな?」
「ああ、ある。ここから大凡、1時間半はある」
「ええ?じゃあーさー、空飛んじゃおうか?」
そう言ってセリカは手元にあったスイッチを押した。するとセリカお手製のフライ・ハイが三人の元へ飛んできた。
「これに乗って行こう!」
そう言ってセリカはフライ・ハイに飛び乗った。
「さあ、二人共操作はとても簡単だから、ね!」
三人はフライ・ハイに乗って、巨大な赤い岩山を次々に超えて行った。
「ここの下」
15分程飛んだところでボダウェイがそう言ってフライ・ハイを降下させた。
到着した場所は誰もが山頂を目指したくなりそうな一番高い岩山でもなく、手軽な高さの山でもなかった。ただ、その岩山はどの岩山よりも赤かった。その岩山の中心でボダウェイは原住民の言葉で何かを唱えだした。
その様子を見てセリカが呟く。
「呪文・・・」
「呪文ね・・・」
レイラも相槌を打つ。
セリカとレイラはそれをただ見守った。ボダウェイがその呪文を唱え終わると、大地より光が上空へ閃光のように一瞬放たれ、次の瞬間、その場所に三人の姿はなかった。
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