12.フランス・ソー編
マルセイユ空港に到着したレイラたちは、車でソーに向かっていた。
一時間弱、車を走らせるとラベンダー畑が広がり始めた。広大な土地に薄紫のラベンダーが見事に広がっている。開けた車の窓からは心休まるラベンダーの香りが車内へ広がる。
「いやー良い香りだな」
マルタンが運転席で機嫌良くそう言った。
「そうね」
レイラもその広がるラベンダーの香りに深呼吸をしながらそう答えた。
「あれは?」
セリカが見覚えのある女性を指さした。
「あれは、そうだな、恐らく・・・」
マルタンも誰だかすぐに察し車を減速させた。
「赤音ー!」
レイラが嬉しさを爆発させて彼女の名を呼んだ。
「???凰花ちゃん?」
「赤音ー!」
そう言ってレイラは車から降りると、手を振りながら赤音の元へ走り出した。
「凰花ちゃんなの?嘘でしょ?」
赤音は手に抱えていたラベンダーの束を落として駆け寄ってきたレイラに抱きついた。
「何で?凰花ちゃんどうして?」
二人は再会を子供がはしゃぐように喜び合った。
「見ろよエンゾ!まるで大好きな相手にに再会した犬のような喜びようだな。あんなに無邪気に再会を喜べるって良いな」
「俺たちも久々の再会はああなるかな?」
「よせよ!気持ち悪い!」
「ふっ、確かにな」
マルタンとエンゾはそう言って二人を見守った。
「あの人たちは?」
赤音はふとレイラが来た方向へ目をやりそう言った。
「あっ、うん。話すと複雑というか、まあ、仲間だよ。敵ではないから安心して」
「なあに、敵って」
赤音はレイラが今日まで人生で体験した出来事の全てに程遠いい様子でそう言葉を返した。
「こんにちは。私はICPOのフランソワ・マルタンと申します。都幾川赤音さんですよね?」
「・・・はい」
「アイシーピーオー?」
「国際刑事警察機構です。インターポールってやつです」
「つまり、刑事さん?」
「ええ。そうです。実は今回、私は・・・うーん、そうですね、実は都幾川赤音さん、あなたはこの世界では死んだことになっていますよというお話です」
「えっ?えー?」
「そうなんです。驚かれて無理はない・・・」
「えっ、そんな・・・。あっ、何か、そのっ、とても複雑そうですね、あっ、こっ、ここでは何ですから家にいらしてください」
酷く動揺した赤音はそう言うと、皆を自宅へ案内した。
赤音が案内した家はラベンダー畑のすぐ近くにある小さな二階建ての可愛らしい家だった。
その家はもう何十年も昔に建てられたもので、何ども壁を白く塗り直し、屋根の石積みも何度も乗せ直した古い家のだと赤音はレイラたちに説明した。
「こちらにどうぞ」
赤音はそう言うと皆を外にあるテーブルへ案内した。
「ボンジュ~ル」
皆が席に着くとすぐに初老の女性がニコニコしながら紅茶を運んで来た。
身長は150中ほど。年齢は70になるぐらいだろうか。綺麗な白髪、緑眼、健康的に日に焼けた白い肌をしている。
「ありがとう、マエリス叔母様」
そう赤音が声をかけた女性はレイラがマルタンより画像で見せてもらった女性だった。
「良いのよ赤音。畑で話しているのが見えたから。それよりこの方々は?」
「紹介するわ。彼女が凰花ちゃん、レイラ・凰花・バード、私の親友です。それで隣の彼女が凰花ちゃんの友達のセリカ・アルキメデスさんで、こちらが考古学者でアラブ世界研究所の所長のエンゾ・アリさん、で、こちらがインターポールのフランソワ・マルタンさん」
「まあまあ、何だかたくさんこんな田舎までご苦労様。ゆっくりしていってくださいな。何かあったら声かけてくださいね」
マエリスはにこやかにそう言うと、家の奥へと戻って行った。
その後、ここにいる誰もが誰から話そうかといった面持ちで一瞬見合ったが、すぐにマルタンが口を開いた。
「まずは都幾川赤音さん、今回はいきなりの訪問、お許しください」
「いっ、いえ、驚きましたけど、凰花ちゃんに会えて本当に嬉しかった。それに赤音で良いですよ」
「それでは赤音、先ほど私は“あなたはこの世にはもう存在していないことになっている”と話しましたが、それについて説明します。あなたは今年の、いや、あなたではないでしょう。今年の六月九日にニューヨークの港で都幾川赤音と思われる人物が遺体となって発見されたのです。死因は焼死。その人物はあなたではないはずだ」
「え?私ではないわ。だって私はずっとここにいるもの」
「いつからここに?」
「もうかれこれ三年くらいかしら。大学を出て貿易会社に就職したのだけれど、体調を崩してしまって、ストレスで心と体を壊してしまったの。慣れない環境で順応出来なくて、会社を辞めて実家に帰らざる得なかった。そんな時、日本に遊びに来ていたマエリス叔母様に出会ったの。彼女は元女医で、日本へは以前から興味があって、たまたま私の実家がある長瀞へ観光に来ていて出会ったんです。私が渓谷の岩畳で寝転んでいたら『あら、気持ち良さそうね』って声をかけてくれて、そこから仲良くなったんです。母国では女医を引退した後、ソーでラベンダー畑をしながら余生を過ごしていて、もしよかったら遊びに来ないかって誘ってくれたんです。実際、実家も居心地があまり良くなくって、このまま日本にいても上手く行かない気がしたんです。それで思い切ってここまで来てみたんです。そしたらとっても素敵な場所だから、お手伝いしながら住まわせてもらっているんです。今ではすっかり元気になりました」
「なるほど。ってことはだ、やはりニューヨークで死んだのは赤音ではなく、別の誰かということになる。DNA鑑定で赤音と断定されたのだから高い確率でクローンという訳だ」
「私のクローン?そんな・・・一体誰が・・・」
「今、実家の居心地があまりよくなかったと言ったけれど、それはいつから?」
「・・・いつから?就職して一度家を出てからかしら」
「そう、そのタイミングで誰からか、何処からかはわからないが、人物を入れ替えるまたは何かしら別の力、コントロールされるなど違和感のある現象が起きているはずです」
「そういえば私が会社を辞めて実家に住む際に、蒼志兄さんにが何処か両親の様子がおかしいと話していたことがあったわ」
「そう、誰が何のためにと言うならば、恐らくフェニックス研究所が。更に言えば、その組織のトップ、鳳櫻子が仕組んだことの可能性が高い。彼女が野望を叶えるために起こしたことと言えるでしょう。彼女はこれまでに多くの未解決事件に関与しているとICPOでは疑っている。しかしその事件の細部に手を出そうとする者はいなかった」
「それは危険だから?」
ずっと黙っていたセリカが口をはさんだ。
「そう、鳳グループは世界の財閥の中でも群を抜いて恐れられている」
「もしそうなら、ここも危険なのでは?」
セリカが引き続きそう話した。
「どうしよう凰花ちゃん?私、とんでもない人に目を付けられちゃったの?」
「大丈夫。私が赤音を護る」
「いや、もし狙われているならばとっくに消されているはずだ。少なくともここにいる限りはその心配はないだろう。赤音のご両親も何処かでご存命の可能性はある」
「もしそうなら少し安心ね」
レイラは少し強張った面持ちでそう言葉を返した。
「赤音、それでご両親は実際、どう様子がおかしかったのですか?」
マルタンが赤音に改めて質問をした。
「父は無気力と言うか、例えば私に会うと不愛想ながらに私のことを『赤音、会社はどうなんだ?』とか『昨日の休みは何処行ったんだ?』とか聞いてきたりしたのだけれど、気付いたら一切聞かなくなっていたし、母は逆にやたら質問が多くなったというか、一緒にいる間ずっと質問攻めで、その質問も今思えば何処かおかしいというか、例えば『あなたの好きな食べ物何だっけ?』とか『お隣のお子さんの名前何だっけ』とか・・・。私はその度に、もうお母さんぼけすぎ!なんて返していたけれど、クローンとかの話を聞いてしまうと、クローンが情報収集していたのかなとか思っちゃいますね・・・」
「恐らくそうだろうな。なるほど、少しここまでの話をまとめよう。ありがとう、赤音」
「いえ・・・」
「そうだ!レイラ、あなたはマエリス・ルージュさんとお話があるでしょう」
突然、エンゾが思い出した様子でそう言った。
「そうだったわ。赤音、マエリスさんはミラクルージュと呼ばれていたのを知っている?」
「えっ?ミラクルージュ?知らないよ」
「凄く有名なお医者様だったそうよ。私の体、見てもらえたらなって」
「そうなのね、凰花ちゃん、詳しくは知らないけれど体のこと気にしていたものね。ちょっと待ってね」
そう言って赤音は席を立つと、マエリスを呼びに家の奥へ姿を消した。そして五分程でマエリスを連れて戻ってきた。
「私に見てもらいたいのはあなた?」マエリスはそう言いながらレイラの前で立ち止まった。
「はい」
「私はもう引退したのだけれどね、話だけでも聞きましょうか。良い医者を紹介してあげられるかもしれない。さあ、こちらへいらっしゃい」
そう言ってマエリスは家の中へレイラを案内した。家の中に入り、その奥を右に曲がった部屋に入るとそこは診察室だった。
「一応、医者魂は捨てられなくってね」マエリスはそう言って微笑むとレイラの診断を始めた。
― 一方、同刻、アラブ首長国連邦・ドバイ。
鳳櫻子と鳳龍玄はドバイにあるフェニックスタワーで話し合いを行っていた。
「お母様、今後レイラがソース・オブ・ライフを探す場所はエジプトとアメリカ、そしてフェニックスが探す場所は南極、、オーストラリアです。レイラとフェニックスがそれぞれ一つずつソース・オブ・ライフを持っています。どちらに向かいますか?やはり場所が絞りやすそうなエジプトでしょうか?」
「もう、レイラはしばらく追わないわ」
「何故ですか?」
「あの娘、知ってか知らずかフランスでICPOのフランソワ・マルタンと接触したのよ」
「フランソワ・マルタンってあのマルタン警部ですか?」
「そう」
「それは厄介ですね・・・」
「そう、あの男は厄介よ。もしもこのまま同行されたら面倒なことになるわ。それならば先にあのメスフェニックスが手に入れるまたは入れたであろうソース・オブ・ライフを奪ってからの方が有利に物事を進められるはず。レイラたちには軍事組織を動かして対応しましょう」
「なるほど。では、我々は南極?オーストラリアからですか?」
「最後に寄るであろうオーストラリアにて待ち、全てのソース・オブ・ライフを奪う」
「相手が3つも持っている状態で勝てますか?」
「ああ、やってみなくてはわからないけれど、ソース・オブ・ライフはそもそも誰かを傷付ける為のものではないからね」
「では何の心配もないということですか?」
「そうは言っていない。ただ上手くやれば良いだけのことさ。上手くね・・・」
「御意。準備に取りかかります」
― 同刻、フェニックスの凰麗は南極に到着しようとしていた。
一国目のペルーではソース・オブ・ライフ・四番、レッドを手に入れていた。
より一層、炎の力を身に纏い太平洋の上空を勢い良く横断していた。
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