10.ギリシャ・セリカアイランド編
ミコノス島にあるセリカの家はガイアの瞳を通して鳳櫻子に知られている。この先、いつ襲われてもおかしくない、そう判断したレイラとセリカはその家を一旦諦め、別の場所へ移動していた。そこはセリカの研究所がある、ミコノス島とサントリーニ島の間にある無人島だった。
1キロもない小さな島内には研究所と発明品を生産する工場が併設されているが、その大掛かりな建物は全てセリカが発明した防衛システムによって肉眼では確認できない様にカモフラージュされている。傍から見たら美しいエーゲ海に浮かぶ自然そのままの無人島といったところで、ヴァカンスで島の周りをクルーザーが浮かんでいることはよくある光景だった。
島に一般人が上陸しようものならば、すぐに防衛システムが作動し特殊な音波が放たれる。その音波の影響で、上陸者は嫌な気持ちで島からすぐ離れたくなる仕組みだった。
基本的に島へは潜水艇で入港する。陸に港は無く、地下に潜水艇用の港が用意されている。入港するとすぐセリカのアンドロイドたちが出迎える。基本、島内の研究所や工場内で働いているが人間はおらず、助手や従業員は全てセリカが開発したアンドロイドが行っている。
そんなセリカのいわば王国が“セリカアイランド(自称)”である。島内に人間の姿をしたアンドロイドは三名のみで、セリカの発明品を売り、部品を調達するなど貿易関係が主な役割だった。他のアンドロイドは機械むき出しで稼働している機械型と動物型があり、機械型は専門の能力に特化している。動物型はセリカの遊び心で造ったアンドロイドで二足歩行な上、言葉も話す。その種類は様々で、猫、犬、サル、ウサギなどセリカが特に好きな動物たちで固められていた。
「まず、レイラの傷を治さないとだね」
そう言ってセリカは研究所にある人が入るカプセルが並ぶ部屋へレイラを案内した。
「ここは?」
「ここは日本でいう温泉みたいな感じかな。リカバリーシステムっていってね、疲れとか負傷とか、肉体のダメージ回復、そしてその疲れて傷付いちゃった心もね、癒してくれるシステムを搭載しているんだ。このカプセルに入れば元気100倍になっちゃうんだよ」
「そんなことってある?」
レイラは半信半疑で苦笑いした。
「まあま、騙されたと思って試してみ」
「わかったわ」
そう言ってレイラは縦約2.5メートル、横1メートルほどのカプセルの中に入った。立っている状態で入ったはずなのに、機械が稼働すると空にフワフワ浮いているのか、または水の中に浮遊しているかのような柔らかい感触で眠りへと誘われた。そして次にレイラが目を覚ますと、二十四時間が経過していた。
「え?そんなに時間たっていたの?」
「ええ、おはようございます。どうですか?」
「そういえば体が楽みたい。それに気分も爽快だわ」
「ですよね。私が開発したので凄いんです」
「自分で言っちゃうんだ?でも本当、凄い。ありがとう、セリカ。お礼させてね」
「えー、いいのに。でも、いつかお願いしちゃおうかな・・・うふふ」
「え、何?もう決めた?」
「いえいえ、次は島内の工場も案内しますね。ここが研究所で、隣に併設されているの自慢の工場でして、まあ、どうぞどうぞ」
そう言ってセリカはレイラを隣の工場へ案内した。
工場の外観は既に異質でとても工場には見えなかった。ドーム型の建物はピンク色で、巨大なマカロンの様だった。そしてレイラは中で一段と驚くこととなる。
「ええ⁉嘘でしょ?」
建物の中はそれこそ工場だと言われなければ気付かない、いや、工場と言われても信じられない内容だった。
「か、可愛すぎる・・・」
レイラはそう言って声のトーンを上げた。
それもそのはずで、ドームの中はファンシーなデザインのテーマパークのように見えた。観覧車、ジェットコースター、コーヒーカップ、メリーゴーランド、おもちゃの汽車などなど、定番の乗り物が盛沢山で、犬や猫などの可愛い動物たちがその乗り物に乗って遊んでいる。
「ささっ、どうぞどうぞ」
そう言ってセリカはニヤニヤしながら工場内を案内した。
「ここって本当に工場なの?皆、遊んでいるようにしか見えない。」
「そうですよ。きちんと働いています。二交代制で、休憩だってあるんです。よーく見て下さい。サルがおもちゃの汽車を運転していますが、汽車の荷物は全て発明品に使われる部品です。コーヒーカップを猫たちが回していますが、あれは粉系の材料をかきまぜています」
そうセリカが色々とレイラに工場内を案内していると突然、サイレンが鳴り、近付いてきた。
“ウ~ウ~”
「緊急車両が通ります!」
サイレンを鳴らしながら近づいてきたのは、玩具の消防車に乗った犬だった。
「セリカ、久しぶり!」
そう言ってその犬はおもちゃの消防車を二人の目の前で停車させると、セリカに挨拶をした。
「久しぶり!じゃないわよ!緊急車両を通常の移動手段にしないでって前に言ったよね?いくら工場長だからってそれは駄目だから!」
「くう~ん、ごめんなさい・・・だってセリカに会うの久々だったから急いで会いたくて」
「そうだったの~。それは仕方ないですね~」
そう言いながらセリカは微笑みながらしゃがみ、目線を工場長に合わせた。
「でも、駄目だから!」
今の笑顔が嘘だったかのような表情でセリカは工場長を叱った。
「くぅ~ん、ごめんなさい・・・」
「レイラ、このちょっと残念な子が工場長で犬のアンドロイドのシリウス」
「シリウス工場長、レイラです。宜しくね」
「宜しくだワンッ!あっ!」
“ジリリリリリ・・・”
今度は工場内にベルが鳴り響く。
すると一斉に動物型のアンドロイドたちが持ち場を離れだした。
「休憩の時間ね・・・」
セリカはそう言うと、レイラの手を取り工場の出口へ歩き出した。
「休憩?必要なの?」
「必要にしたの。この島の全て私が作ったのだけれど、遊び心って何事にも大切だと思っていてね、アンドロイドを作る際もそれを取り入れた訳。だから、猫はサボりたがるし、犬は遊びたがる。ウサギはいちゃいちゃしたがるし、サルは本を読むの。部品の摩耗も和らげるしね」
「成程。後半のウサギとサルの設定は不明だけれど、面白いね」
「ふふふ、それって大事でしょ?」
「そうね、間違いなさそうね」
この日から約3週間、二人は次の戦いに向けた準備を進めた。移動手段、分かる範囲での移動ルート、装備品やセリカの発明品の使い方や実践、鳳グループについての情報収集。それに加え、レイラはセリカにせめて自分の身だけは自分で護れるようにと護身術を教えた。
「レイラ、この先、平和な世界が訪れたら、ソース・オブ・ライフ会議みたいな感じでさ、コーディネーター7人で集まってみたいな」
護身術の鍛錬中にセリカがそう言った。
「いいわね、それ」
「会ったことも見たことも無いからさ」
「賛成、それ、いつか叶えようね」
そしてあっという間に三週間は経過した。
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