8.ギリシャ・ミコノス島編

ー 7月5日午後3時。


レイラとガイアはアテネ国際空港にいた。人込みの中を世界の危機に追われているかのように歩いていた。


「今度はパルテノン神殿の地下とかに埋まっているのか?」ガイアがそう聞くとレイラは足を止めずにそのままガイアにこう返した。。


「今回の目的地はミコノス島よ」


「今回も王来儀のような人物がいるのか?」


「ええ。必ずソース・オブ・ライフの案内人はいるみたい。まずはその人物に会わないと・・・」


「了解した」


二人はミコノス島行の飛行機に搭乗した。飛行機の下には心が洗われるように美しい、サファイアブルーのエーゲ海が広がっていた。その景色をレイラとガイアは小窓から眺めている。


「綺麗ね・・・」


「・・・そうだな」


「日本でも中国でも思ったけれど、この風景、護らないとだね」


「ああ」


レイラはそのままぼんやりと窓の外を眺めていた。そしていつの間にかうたた寝をしていた。すると目の前に凰麗が姿を現した。


「レイラ、ソース・オブ・ライフを手にしたのね。私もペルーで一つ目のソース・オブ・ライフを手にしたわ。道中、何が起こるかわからないからくれぐれも気を付けてね。特に鳳櫻子には・・・」


「レイラ、着いたぞ」

いつの間にか寝ているレイラにガイアが声をかけた。


「・・・あっ、寝ていたみたいね。今ね、凰麗の夢を見ていたの。ペルーでソース・オブ・ライフを受け取ったって」


「そうか、良かった」


「うん、急ぎましょう」


「了解した」


二人は飛行機を降りるとレンタカーで島の中心部へ向かった。運命なのかコンパクトサイズで最安値だった車の塗装は真っ赤な色をしていた。用意された車を前に二人はまた赤かとにやけながら顔を見合わせた。車を走らせると島の所々に建物が立ち並ぶ白い民家が次から次へと目に飛び込んで来る。気付けば車は加速し続けていて、カーブを曲がる際には甲高いドリフト音が辺りに響いていた。


「・・・なあ、レイラ、つけられているぞ」

ガイアが荒々しく車を運転しながらバックミラーを見てそう言った。


「・・・そのようね。折角ここまで順調だったのに」

レイラも追尾されている車を目視しながらそう返事をした。


「まくか?」


「まくって言ってもね・・・。狭い島だし、車を降りて街中での方が良さそうね。」


「了解した」


今走行している何もない道よりも複雑な街の中の方が姿をくらませやすいとレイラは判断した。二人は街の入口に着くと直ぐに車を降り、白と青のコントラストが爽やかな街中を颯爽と走り出した。二人を追っていた黒ずくめの男四人が慌ててレイラとガイアに続いた。


「レイラ、身に覚えは?」

ガイアが走りながらレイラに聞いた。


「そんなのありすぎてわからないわよ。でも空港から追ってきていることを考えると、待ち伏せされていたってことでしょう?」


「そうだな。逃げ回り続けるには狭い場所だ。さっさと片付けよう」


「それもそうね」


そう二人は言葉を交わし終えると、わざと追手に追いつかれ、くるりと反転するや追手の男たちに対して構えた。そしてすぐさま四人の内、真ん中二名の上あご辺りに蹴りを見舞った。ガイアの蹴りは顎に命中し、レイラの蹴りは相手の喉を捉え、どちらも一発で伸されてしまった。

残った両脇の男たちに対しても相手より早く体を動かし、ガイアは右フック一発、レイラは後ろ回し蹴りを一発、それぞれ顔面に食らわせ、瞬く間に一網打尽にしてしまった。


レイラとガイアは四人をすぐに拘束すると、すぐ脇にあった無人の建物内に連れ込んだ。

そして内部にあった地下室で追尾してきた理由をガイアが追求した。


「おい、お前ら何者だ?」


「・・・」

男たちは意地でも話さないという面持ちだった。


「それはそうだよな。レイラ、どうする?」


「運よく見つけたこの建物の地下室は、町中なのに人が来る気配もないし、このまま放置すれば何年後かに誰かが見つけてくれるでしょうね」


「そうだな。おいお前ら、ここで放置されて死ぬか、素直に状況を吐くか選ばせてやるよ」


「・・・」

男たちは躊躇する様子を見せ、互いを見合わせたが、それ以上の何かに怯えるかのように細かく横に首を振りそして頷いた。


「話す気はないようね。拷問とか性に合わないし、このまま放置してくわね」

そう言ってレイラはガイアを連れ、その場を後にした。


二人が去るその背中を見て、男たちはほくそ笑んだ。


「あっ!」

レイラが思い出したかのように足を止めた。

「あなたたちの発信機、ガイアが持っているからね」そう言ってレイラは静かにほほ笑んだ後、再び足を進めた。


「お前ら、達者でな」

ガイアはそう言うと、発信機を一度彼らに見せ、レイラと共にその場を後にした。

男たちは大きくため息をつき愕然とした。しかしそれでもレイラたちを追尾したた理由を話すことはなかった。


レイラとガイアはすれ違った走行中のトラック荷台に発信機を投げ入れると、真っ白な町の細い路地の奥へ奥へと足を進めた。更なる追手がそのトラックを追尾したのは言うまでもない。


「ところでレイラ、今回の案内人は何処にいるんだ?」


「あそこよ」

そう言ってレイラは丘の上にある風車小屋を指した。小さな白い円柱の建物で屋根は三角屋根。そこに大きな風車が海風を受けて回っている。


「よし、行こう」


 二人は足早に丘の上の風車小屋に向かった。町は狭く、十五分ほどで小屋に到着した。


「ここも観光地だけあって観光客はいるが、その案内人は何処にいるんだ」


「もう目の前にいるわ」


レイラがそう返すと、目の前の腰ぐらいの高さがある白い石積みの壁に座っていたサングラスをかけた金髪で小柄な女の子がこちらに向かって微笑んだ。


「ハーアーイ」

彼女はそう言ってニコニコしながら右手で可愛らしく手を振り、かけていたサングラスを少し下にずらした。


「レイラ、あれは子供じゃないか⁉」


「しー、ガイア、声が大きいよ。子供ではないと思うよ」


レイラとガイアは彼女の前まで歩き、足を進めると挨拶をした。

「レイラよ」「ガイアだ」


「私はセリカ。大人です!私を子供扱いしたガイアさんの名前は女性の名前よね?」


「ほーら、ガイア、彼女怒っているわ。あなたの声聞こえていたわよ」


「あっ、ああ・・・。俺の本当の名はGAー1A。レイラが勝手にガイアと呼んでいる。気づけば俺の名はガイアに変わっていた。なんか・・・失礼なことを言った。すまない・・・」


「あーら、そうなのね。お二人共宜しくね!」

セリカはそう言うと握手を求めて手を差し出し、二人と握手をした。


ガイアの手を握った手は憎しみ込めて人一倍強かったのは言うまでもないが、強く握ったガイアの手が思ったより硬かったものだから、逆にセリカがそれに驚いて咄嗟に手を放してこう言った。


「固っ!」


「早速だけれど、セリカ、案内してくれない?」


「あっああ。勿論よ。この日をどれだけ待ち望んだか。こっちよ」

セリカはそう言うと、小屋のドアを開け、中へと二人を案内した。


かつて小麦を挽いていた小屋の中はその面影は無く、生活感で溢れるセリカの部屋だった。本が好きなようで、部屋を囲むかのように本棚が小屋の形にそって円形に並んでいた。

「まさかこうなっているとは思わなかったでしょ?」

セリカは微笑みながらドアに鍵をかけた。

そして「こっちよ」と言い、本棚の一角に手を伸ばした。

 

セリカが本棚にある本を一冊手で押すと、自動ドアのように本棚が左右に開いた。

そして開いた本棚の先には機械で塗り固めたエレベーターがあった。


「色々と予想外だな」

ガイアはそう言うと二人と共にエレベーターへ乗り込んだ。


エレベーターは下へ下へとひたすら降りて行った。エレベーターに階数を示す数字はなく、それはエリカの部屋と、目的地をつなぐものだとわかりやすかった。


「ついーにっ、この時が来たわね!まさかこの行き方がマッチするとは思わなかった!だってね、代々受け継がれてきた話では、その時が来たらフェニックスが空からやってきて、私に案内を求めるから、その背中に乗ってサントリーニ島に行って、そこから一緒に海へ潜るっていう夢の様なお話だったのよ。なのに来たのは綺麗なお嬢様だもの。あなた空を飛んだりしないわよね?空から来てもいないわよね?」


「事情が変わってね・・・。飛行機に乗って来たから、見方によっては空からって話かもね。でもセリカを背に乗せて空は飛べないわ」

少しばつが悪いといった面持ちでレイラは言葉を返した。


「ちぇー」

セリカはおどけてそう言葉を返すと、レイラに向かって小さく微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る