7.中国・鳳凰県編
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「綺麗なところね」
朝もやがまだ少し残る中、レイラは古き良き街並みに感動しながら、年季の入った木製の小舟に揺られていた。川を中心に町が形成されているせいか、古い木造建築が軒並む古都の雰囲気はとても幻想的で、その歴史を感じずにはいられない。
「ここはすっかり観光地になってしまったけれど、地元の人間は知っている。ここに古くから伝えられている不死鳥の伝説をね。この観光商売は目くらましみたいなものさ。実際はここ・・・」
来儀はそう言うと、川から街の方へ少し入った水路の一角にある軒下の扉を開けた。
来儀は小船を扉の奥へ奥へと進めた。中は小舟でなければ通れない狭さで、外部からの人間がこの道を通ることは皆無だと思わせる。また進行方向に向かって下っているのでぐんぐんとスピードが上がって行く。
「まさかここがこうなっているなんて誰も思うまいよ」
来儀はそう言いながら器用に水路の底を竿で突きながら小舟を操作した。
進んだ先に広がっていたのは、広大な空間だった。地下にまさかこんな場所があるなんて確かに誰も思わないだろうが確かにそれはあった。直径100メートル程の泉になっていて、天井は二十メーター近くあるようだった。泉の真ん中には綺麗に石を積んだ石壁で作られた小島があり、その上の
「あれが命の源、ソース・オブ・ライフね」
レイラは固唾を呑んだ。
「そうです。あれがソース・オブ・ライフ・第二番です。世界にはあと六つ、ソース・オブ・ライフがある。おっと、ご存知でしたね・・・」
「知ってはいても、見たのは初めてだし、こんなにも力強いものだなんて・・・」
「さあ、受け取ってください。そして世界をお救い下さい」
来儀はそう言ってソース・オブ・ライフの前まで小船を進めた。
「・・・なんて神々しいんだ」
ガイアはソース・オブ・ライフの輝きに少し目をくらませながらそう言った。
「神々しいだなんて。ふふ、ガイアさん、あなた本当にアンドロイドなんですか?」来儀は少し笑いながらそう言った。
「ああ、俺はアンドロイドだ・・・。アンドロイドとしては少し不良品だがな」
「成程。さあさあ、着きましたよ」
そう言って来儀は小舟を小島に着け、レイラを送り出した。
レイラは小島に敷かれている手作りの石階段を一段一段ゆっくりと登った。そしてソース・オブ・ライフを両手で救い上げるように持ち上げた。ソース・オブ・ライフはレイラに受け取られるのを待っていたかのようにより一層強い光を放つと、弾けるように目の前から消えた。そして次の瞬間、レイラの胸元が同色の光を放ち、そして瞬く間にその光は消え去った。
「凰花、これで完了です。ソース・オブ・ライフはフェニックスであるあなたの体内に一時保管されたのです」
「胸の奥がとても熱いわ。何と言うか優しい暖かさが燃え滾る様な、不思議な感覚」
「それはそうですよ。地球の原動力の七分の一が今、胸の中にあるのですから」
「それもそのはずね」
そう言ってレイラは少し歯を見せ微笑むと、両手で胸を押さえた。
「来儀、ありがとう」
レイラはそう言うと来儀と握手をした。
「次はギリシャに行くわ。ガイア、時間がない。急ぎましょ」
「お待ちください。今、ヘリで出て行くと目立ちますので、夜まで待ちましょう。ここに来た時の様に夜の闇に紛れて出て行くの得策ですので、それまでは俺の城でゆっくりとは言えませんが、次の作戦準備などなされてはどうでしょうか?」
「わかったわ」
王来儀に招かれた城内は王来儀の親族がレイラたちを笑顔で待ち構えていた。
「ようこそいらっしゃいました」
そう言ってきたのは王来儀の母、
「ゆっくりもしていられないでしょうが、時間の許す限り」
そう言って静蕾はレイラたちを奥の食卓がある部屋へ案内した。食卓には何だかよく分からないが色とりどりで香ばしい料理が並べられていた。
「静蕾さん、この美味しい料理は何ですか?」
レイラは特に気に入った料理を噛みながら静蕾に問いかけた。
「それはオオサンショウウオよ」
静蕾は微笑みながらそう言葉を返した。
「え?」
レイラはオオサンショウウオと味のギャップに驚き箸を止め、来儀を見つめた。
「まあ、驚きますよね。ここいらでは普通ですが、そもそもここは中国、何でも美味しく頂くのが我々のやり方だ」
そう言って来儀は白酒をグイっと口に流し込んだ。
夜の鳳凰古城周辺は朝とは真逆に煌びやかで賑やかだった。川を中心にした建物の多くがライトアップされ、その輝きが水面に反射することで夜の街の美しさを倍増させる。
街の至る所からは様々な音楽が大音量で流れている。ここまで賑やかならば何か普段とは違うことが少し起きてもざわつくことは無いだろう。
王来儀はレイラたちを再びヘリコプターに乗せ、夜空へ再び飛び立った。
こうしてレイラは一つ目のソース・オブ・ライフを手にすることが出来た。
7月3日のことだった。
ここまではレイラの旅は順調だった。ここまでは・・・。
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