6.中国・香港編港編
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「レイラ、こんな場所にソース・オブ・ライフがあるのか?」
午後七時、ガイアとレイラは煌びやかな香港の町中を足早に歩いていた。目がちかちかするくらいに派手な色とりどりのネオン看板が次々と目に入って来る。
「えっ?」
町中はあまりに賑やかで互いの声を聞き逃すほどだった。数多くの屋台が並び、夕飯時の胃袋を誘惑する。四方八方からフライパンで食材を炒める音、香ばしい香、弾む人々の会話。
「レイラっ!ここにあるのか⁉」
「ここにはないわ!ついてきて!」
レイラは凰麗に言われた通り、心のままに足を進めた。そして町の奥へ奥へと進んで行った。次第に人影は薄れ、遂には人気が無くなったところで足を止めた。
そこは町の外れにある大きくて古いビル群の入口だった。薄暗く重圧感のある高層ビルが立ち並ぶ。先程の明るい町中とは大いに異なり、静けさの中に人の視線を幾つも感じる気味の悪い場所だった。
「ここだわ」
「中々、味がある建物だな。殺気がプンプンするな」
「それもそのはずよ。ここ、きっとマフィアの基地だもの」
「マフィアって香港マフィアか?反対はしないが、本当にここに入るメリットはあるのか?奴ら入口に向けてマシンガン構えているぞ?」
ガイアは建物内をスキャンしてそう言った。
「大ありよ。私の心に従うと、ここにヒントが隠されているわ」
「よくわからないが、レイラがそう言うなら行くしかないな!」
ガイアはそう言うと、走り出し、ビル正面のドアを勢いよく蹴破ってレイラと共にビルの中へ突入した。
そして次の瞬間、幾多の銃弾がマシンガンの銃口から放たれる。
“ダラララララララ!”
レイラとガイアはすぐさま左右に飛び、球を回避した。
「貴様ら 何者だ⁉何しに来た⁉」
香港マフィアは射撃を止めると声を荒げた。
「私たちは合わせて欲しい人がいる!」レイラも声を張り、そう言葉を返す。
「誰だ⁉誰に会いたい⁉」
「
「王来儀⁉・・・そんな奴ここにはいない!」
マフィアはそう言うと再び、マシンガンを乱射した。
“ダラララララララ!”
「レイラ、これはもう、戦うしかないな!戦わないと殺されちまう!」
「・・・ノーチョイスね」
レイラはそう言うと、真っ直ぐマフィアたちの元へ駆けて行った。
マフィアたちは慌ててレイラに向かって発砲を重ねた。
レイラの体を銃弾がかすめる。その時だった。
「わあっ!」
マフィアの一人が声を挙げた。
レイラに発砲していた男をガイアが後ろから殴りつけた。マフィアの男はそのガイアの一撃で伸されている。マフィアたちがレイラに集中している間に、ガイアは彼らの背後に回り込んでいた。その後もあっという間にガイアはマフィアの男たちを次々とねじ伏せて行った。
レイラも巧みに体を動かし、マフィアたちを打ちのめして行く。そしてものの数分で、一階のフロアは静けさに包まれた。
「レイラ、君は何故、そんなに戦えるんだ?」
「あら?今どき女子はこれくらい普通よ?」レイラは頬に着いた返り血を手で拭ってそう言葉を返した。
「がははっ、そうなんだな!」
ガイアはレイラの予想外の返答に笑って、それ以上は聞かないことにした。いつでもガイアはそうだった。レイラには必要以上に質問をしなかった。そしてレイラにとってそれはとても都合がよかった。
レイラは秘密主義で、自分以外の誰かに自分のことを語ることが好きではなかった。
「ガイア、まだ上にたくさんマフィアがいると思うわ」
「わかっている。レイラ、こいつらの武器を持って上に突入しよう」
「そうね」
二人は武器を集めると、エレベーターで最上階のボタンを押した。
“チンっ”
エレベーターが最上階に着くと、到着音と共にエレベーターの扉が開く。勿論お約束のように銃弾の雨がエレベーター内に向けられる。
“ババババババババ!” “ダラララララ!”
しかしエレベーターの中に二人の姿は無かった。そして次の瞬間、エレベーターの天井から二人が銃を発砲しながら飛び降り、そのままま部屋に飛び出した。
激しい銃撃戦が繰り広げられる。レイラは右に、ガイアは左に飛びながら、ガイアはマシンガン、レイラは拳銃二丁を敵に向けて発射している。
「何だ貴様らは⁉」
マフィアの中の一人がレイラたちに荒々しく問い質した。
男は立ち上がると片手を挙げた。周りの男たちもその手の合図によって撃ち方を止める。
男は黒髪の長髪で中国の伝統衣装、緑のチェンパオを纏っていて、服には鳳凰の刺繍が施されている。歳は三十代くらいに見える。
「私は王来儀に会いに来た!」
レイラも負けじと大声で頭に浮かんだその名前を言い放った。
「何故だ⁉」
「力を貸してほしい!」
「何故だ⁉」
「鳳凰!」
「鳳凰?・・・貴様、何者だ⁉何故、王来儀を訪ねて来た⁉」
男はそう言うとレイラへ向かって走り出し、勢いそのままに蹴りかかった。
しかしその前をガイアが即座に立ち塞ぎ、男の飛び蹴りをガイアが腕で受け止める姿勢となった。
「お前は⁉」
「俺は戦闘用アンドロイドだ。生身の人間では俺には勝てないぞ」
「普通の人間ならばな!」
そう言って男は体制を即座に落とし、ガイアの足を振り払った。
ガイアは体制を崩したが、その体制のまま片足を振り回し、その足は男の脇腹を抉った。
男はそのまま数メートル飛ばされ、男の仲間たちは再び銃をレイラたちへ構えた。
「痛ててて」
男はそう言いながら脇腹を押さえ立ち上がった。
「私はフェニックス娘、レイラ・凰花・バード。あなたの正体を知っている!あなたの正体は」
「ストップ!」
男はレイラの発言を制止した。
「皆もストップだ!戦闘はは終わりだ!よし、あなたの話を聞こう」
「ありがとう」
レイラはそう言うと、両手を挙げて、部屋の真ん中へゆっくりと進んだ。ガイアもその後ろから両手を挙げて進んだ。
「あなた方に向けた暴力を許してくれ。俺たちの挨拶みたいなものだ」
「・・・でしょうね。でも私たちは下であなたの仲間を」
「それも覚悟の上で俺たちはここにいる。話を聞く。さあ、奥へ」
男はそう言って、二人を奥へ通した。
誰もいない部屋の奥は薄暗く、高級そうないかにも中国を感じさせる電気装飾品と、赤くて優雅なアジアアロワナが優雅に泳ぐ水槽が薄っすら室内を照らしていた。香港の夜景が一望できる部屋でよく見ると高価そうな骨董品がずらりと並べられている。
「さっき言いかけたこと、言ってみてくれ」
「あなたの名前は王来儀。鳳凰・・・鳳凰県にある・・・鳳凰古城の城主ですよね?」
レイラは頭に浮かぶイメージやぼんやりとしたワードで言葉をまとめそう言い放った。
「何故、そう思う?何が目的だ?」
「私の心がそう言っているのです。目的はこの星を救うこと」
「成程。・・・いかにも、俺が鳳凰城の現城主、王来儀である」
「あなたが私をここに通してくれたということは、薄々感じているかもしれません。時が来たのです」
「日本の富士山が噴火した時にこの日が来ることは予測していた。だが、まさか生身の人間が来るとは予想していなかったもので裏の裏をかかれたような気分だ」
「鳳凰の片割れが殺されてしまったのです。私はその代理。フェニックスと人間の遺伝子で創られた人造人間。云わばハーフフェニックスなのです」
「ハーフフェニックス?それは聞いたことがない。でも、あなたは俺のことをご存知のようだ。あなたが心の声を持っているからこそ、俺の名前や正体を見破った。俺のことはトップシークレットで誰も知らないはずなんだ。知る術は本当にフェニックスの力のみだ」
「心の声について、わかるのですか?」
「わかる。我々、案内人であるコーディネーターはこの会話と同時に、あなたの想いも心に伝わってくる。俺は嘆かわしい商売をしているが、これは本当に仮の姿。本来はあなたたちフェニックスが来るのを代々待っている。さあ、凰花、案内しましょう。我が城、鳳凰古城へ」
来儀はそう言うと、立ち上がり、天井を右手で刺した。
来儀はレイラとガイアを屋上に連れて行った。横風が吹き荒む屋上にはヘリポートがあり、真っ黒なヘリコプターが一台用意されていた。
「これで鳳凰県までひとっ飛びですよ」
「わかった。行きましょう」
こうして三人はヘリコプターで鳳凰県へと旅立った。
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