3.親友
― そして4年後、ニューヨーク国際空港。
今日は日本からレイラの親友、都幾川
赤音はレイラが学生時代にホームステイしていた家の娘で、日本にいた時は同じ大学に通っていた。
レイラはガイアと共に、ニューヨークの空港に向かい、ゲートで赤音との再会を待った。しかし、いくら待てども、赤音がその場に現れることはなかった。
携帯電話はつながらず、赤音の実家にかけても、誰も電話に出ることはなかった。仕方なくレイラとガイアはマンハッタンにある自宅へと戻っていった。
― そして翌日、レイラは赤音をテレビ画面の中で目にする。
「今朝、午前5時ごろ、ニューヨーク・サウス港の倉庫内で日本人の観光客、都幾川 赤音さんが遺体となって発見されました。都幾川さんは全身を焼かれ死亡しており、警察は何者かによって赤音さんは殺された可能性が高いとみて調査を進めております」
「えっ?」
レイラは朝食の手を止めた。そして我が耳を疑った。聞き間違えであって欲しいという思いで、今一度ニュースに耳を傾けた。
「・・・赤音・・・」
ニュースキャスターは間違いなく彼女の名前を伝えていた。画面には黒髪が肩まであり、童顔で優しさが溢れる赤音の写真が写っていた。
「ガイア?」
レイラは混乱する頭を落ち着かせようと震える声でガイアの名を呼んだ。
「レイラ?どうした?」
寝室の掃除をしていたガイアがレイラに呼ばれて傍に来た。そしてそのニュースを耳にし、レイラの肩を抱き寄せた。
「まず現場に行ってみよう」
レイラはガイアと共に報道されていた現場に向かった。
― もしかしたら生きているのではないだろうか?何かの間違いではないだろうか?
そんな思いを抱きながら現場に着くまで、何度も赤音の携帯電話に電話をかけたが携帯がつながることは無かった。現場では報道陣と警察官がたくさんいて、近づける状態ではなかった。遠目で現場に残っている黒い焦げ跡を見て、何故彼女がこの場所にいたのかを想像した。
― 私を装った誰かに連れ出された?・・・殺される理由がわからない。
「ガイア、本当に赤音なのかな?もしそうなら何でここにいたの?」
「わからない。赤音のことはレイラの方がわかっているのではないか?俺が想像できるのは自由の女神でも見に来たのではないかということぐらいだ」
― そんなはずはない。そもそも赤音は約束を破った試しがない・・・。でも殺されるようなことをする人ではないのに。
「警察が邪魔で現場付近を調べるとかは難しそうね」
「ああ。今は無理だろう」
赤音について二人で話していると現場の人込みから少し小柄の女警官が一人でこちらに向かってきた。
「1A《ワンエー》?」
顔がはっきり見える位置で婦人警官はガイアをそう呼んだ。警察の帽子をかぶっているが髪は金髪でウェーブがかった長髪、瞳はブルーでキラキラしていた。久々に恋人にでも再会したかのような無邪気な笑顔で可愛く手を振った。
「7A《セブンエー》?」ガイアは少し驚いた様子で彼女をそう呼んだ。
「はっ、お久しぶりであります!」
7Aと呼ばれた彼女はそう言うと、緩んだ顔を引き締め、ガイアに向かってピシッと敬礼した。
「よせ7A、俺はもう・・・」
ガイアは困った様子で7Aの敬礼を止めさせた。
「レイラ、彼女はGA-7A《ジーエーセブンエー》、アンドロイドで、今は巡査部長、だったな?それで元・・・いや、俺の妹みたいなものだ」
「・・・こんにちは、7A。私はレイラ。宜しくね」
ガイアのぎこちない7Aの紹介でレイラはガイアが元警察であったと改めて感じた。それは確信に近く、今までもそうだったのではないかという言動、素振りはあったが、あくまでかもしれないという仮説だった。しかし今のガイアの言動でそれは確信に迫っていた。
「レイラ、宜しく。初めまして」
7Aはそいう言うと手を差し出し、レイラと握手した。
「1A、どうしたの?まさかこんな場所で再開するとは思わなかった」
「実はここで亡くなった都幾川赤音はレイラの友達なんだ。その真相を確かめにここに来た」
「そうだったのね・・・。それはお気の毒に・・・。悪いようにはしない。そうであれば一緒に来て。一緒に謎を解明しましょう」
7Aはそう言うと、二人を警察署へ連れ出した。
この日から3日間、レイラは警察署で取り調べを受けた。7Aの言う通り、悪い様にはされなかったが流石に3日間は精神的にも参る時間ではあった。
そんな中で赤音の母親である
「レイラちゃん!」
目に涙を浮かべた都幾川愛子はレイラを見つけるなりレイラの名を呼んだ。
「愛子ママ!」
レイラは愛子と涙を流しながら、互いを慰め合った。
「レイラちゃん、赤音はあなたが帰国した後もずっと、あなたを大切に思ってきたわ。これ、あの子があなたに渡したがっていたペンダントよ・・・」
愛子はそう言うと、遺品として預かった荷物の中から、ペンダントをレイラに渡した。
金のペンダントの中を開くと赤いルビーのような石がはめ込んであり、その中のくすみが何処か鳥のように見える。
「フェニックス・・・」
レイラはそう呟くと、以前赤音と話したことを思い出していた。
― 一ヶ月前。
レイラは赤音とバーチャル空間で話していた。レイラと赤音が話す空間は決まってポップなデザインで、真っ赤な部屋に色とりどりの可愛い家具が並んでいる。
「ねえレイラちゃん、そっちに行ったら渡したい物があるの」
「えっ、何?」
「今はあえて見せないよ。この前、箱根に遊びに行った時にね、見つけちゃったの」
「すっごい勿体ぶるね・・・。って言うか今まで通り
「あっ、凰花ちゃん、ごめんごめん。久しぶり過ぎて・・・でね、渡したいものは価値ある物だと言い切れるよ」
「え?じゃあヒントは?」
「ヒントはねー、フェニックス」
「何それ?すっごい気になる」
「でしょ?楽しみにしていてね・・・」
ペンダントはきっとあの時に話していたものだと思った。レイラはペンダントをギュッと胸元で握りしめた。レイラは近い内に日本へ遊びに行くと愛子と約束をし、その場を後にした。
帰宅後、レイラはマンションのベランダから赤音のペンダントを天にかざし、見つめていた。そしてその視線の先には赤音と過ごした日々が走馬灯のように映っていた。
つい先日までは楽しい思い出だった赤音と過ごした日々。レイラはペンダントを握りしめた両手の上に額を乗せ、日が暮れるまで泣き続けた。
― 4年前。
レイラは日本に留学、都幾川家にホームステイしていた。
都幾川赤音の父、
勝は父の話の通りとても明るくて、ひょうきんな男だった。そして父の命の恩人でもある。なんでも父は何者かに命を狙われたことがあって、そのとき
都幾川家の家族構成は、妻の愛子、結婚当初、なかなか子宝に恵まれなかったことで購入したアンドロイドの
都幾川家がある
週末の暖かい日には、赤音とレイラは近くの川で遊んだりもした。
また、年相応に東京や横浜、時には京都や大阪など遠くまで遊びに出たりもした。渋谷でははやりの服を買ったり、原宿でコスプレをしている人と写真をとったり、横浜の中華街で中華料理を食べまくったり、水族館や遊園地など、赤音はレイラが少しでも気にした場所へ率先して連れて行ってくれた。
その数々の思い出の中でもレイラには格別に忘れられない赤音との思い出があった。
長瀞の荒川渓谷にある岩畳の上で夕日を見ていたあの頃、赤音がレイラに言った一言。それはレイラにとって心を掴んで離さない大切な友情の思い出だった。
「実は私ね、凰花ちゃんと出会って、初めて親友ってどういうものなのかがわかった気がするよ。私ってさ、いじめられっ子だったんだ。しかも言われたことは何でもひょいひょい信じちゃうからさ、人に騙されちゃったこととかもあってさ・・・。今やっと心が真っ直ぐで綺麗ななあなたに出会えて、安心したんだ」
「安心?」
「うん。安心。正直、本当はね、人間不信に
「そう、ありがとう。私も、赤音のこと好きだよ」
「えへへ。もし、凰花ちゃんに何かあったら、私は力になる。いつ、何処で、何をしていても」
「うん。私も。約束する」
レイラは赤音との時間を思い出しながら日本へ向かう決心をした。赤音の死に纏わる謎の解明と、そして自分自身を知る為に。
また、レイラを心配したガイアも日本へ一緒に行くことになった。
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