2.レイラの過去

― レイラが十一歳の頃。


「・・・どうしよう」


朝、目が覚めるとレイラのベッドに小さな真紅の卵が産み落とされていた。それはウズラの卵ぐらいの大きさだった。レイラは水を飲み終えたガラスのコップを用意し、その中に割った卵の中身を崩さないようにそっと落とした。そしてその中身に仰天した。その中から赤い黄味が出てきたからだった。これがレイラの初潮だった。その後、それが訪れ来るペースは人間と同じだったが、毎回、自身から排出されるのは真紅の卵だった。


母親のナターシャは年頃の娘より初潮の相談がないことを不思議に思い、何度も様子を伺ったが、レイラが真実を口にすることは無かった。

医師の資格を持つナターシャは自宅でレイラの検診などを行ったが異常は見られなかった。


レイラの両親はレイラに優しく暖かかったが、言葉には言い表せないような緊張感を感じることがまれにあった。


例えば楽しい夜の団欒、二人は突然会話を止め、レイラを寝かしつけ何処かに行ってしまうことがあった。または週末のショッピングでも遊園地でも、まだまだレイラはその場にいたいのに、突然それを止め、帰路についてしまうなど、レイラの理解できない行動が多かった。朝起きたら家に両親の姿は無く、それが翌朝にまでなることもあった。それについてレイラは何度か両親に理由を伺ったが、納得する答えを得ることは一度もなかった。


昔からレイラの両親は少し謎めいていて、何処か秘密を抱えている様子だったた。そしてまた、レイラ自身も謎めいていた。自分で自分が理解できない状況だったが、それを人に説明するのならば、何処から話せばいいのかわからなくなる程なので決してその詳細を誰かに話すことはしなかった。


― レイラ・凰花・バード。二十四歳。


国籍・アメリカ。父親はケイン・アキラ・バード。母親はナターシャ・ナタリー・シェフソフスキ。両親共に医者でレイラが高校に入るくらいまで、アメリカ国内を家族3人でで転々としていた。


しかしレイラが大学に入学する為に、当時住んでいたウィスコンシン州からミネソタ州に一人で引っ越した時から両親とは連絡が取れなくなる。電話はつながらず、実家に戻っても両親の姿は無かった。それどころか置手紙の一つも無く、まるで誘拐されたか夜逃げでもしたかのようだった。

それでもレイラが大学生でいる間は、レイラの口座に父であるケイン・アキラ・バードから学費や最低限の生活費が振り込まれていた。レイラにとって辛うじてそのことだけが、両親は生きていると信じ続けられる理由となっていた。


レイラはあの手この手で両親の捜索活動を行ってきたが、未だにその消息はつかめていない。そんな今は、数枚の家族写真と思い出だけが両親の存在を証明するものだった。


レイラは幼い頃から不思議な夢を見ることが多かった。


特に多かったのがフェニックス、大きな鳥の夢だった。時に炎のように燃え盛り、時に光のごとく輝くその姿に、その大きな鳥がフェニックスなのだと強く感じていた。

そしてまた、足を踏み入れたことがないはずの日本の大自然の景色や多くの日本人との交流そんな夢を頻繁に見ていた。その影響もあってレイラは日本という国に興味を抱くようになっていた。


知れば知る程、日本という国は興味深く、レイラにとって憧れの地へと化していた。

レイラは大学に進学すると、日本への留学を決行した。

留学先の大学は埼玉県にあり、ホームステイした都幾川家は長瀞町ながとろまちにあった。一年間の留学だったが、レイラにとってそれはかけがいのない思い出となっていた。



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