第147話 公開処刑①

心の整理をしとけと涼野さんに言われてから、フレデリックちゃんの死刑執行日になるまで、本当にあっという間だった。つまり今日は2月31日。あんなに涼野さんから釘を刺されては、手も足も出ない。

冗談抜きで、大人しくしていた。


フレデリックちゃんのお母様、ハーパー・サイデリカさんも、娘の最期を大事に見届けようと、処刑台のそばに居た。僕らが来る前に少し話をしたらしく、お母様の目元が赤く色づいていた。泣きながら娘と最後のひと時を噛み締めていたのだろう。


僕とせいかも、あとからやってきたけど、完全に告白のタイミングを見失っている。


「じゃあ、健、フレデリックさんに話を」

「え」


待て待て待て!涼野さん!今!?いや時間ないのは

分かってるけど!これ僕も公開処刑されるパターンじゃん!


「頑張って、お兄ちゃん」

隣で静かに惨状を目にしていた我が妹は、そんなことを言い出した。


フレデリックちゃんはと言うと、ギロチンを真上に

目線は僕に向け、無言のまま。てかあんなに優しい表情を浮かべてた子が、こんなに笑わなくなるなんて。完全に僕のせいだよね。


「ふ、フレデリックちゃん、話していい?」

「どうぞ」

「ずっと君が大好きでした!フレデリックちゃんが居なくなっても、僕は一生忘れない。……出来れば今後も関係を続けたかったけど、こればっかりは回避出来ないから、最期に」


好きでも無い男に、母親の前で。最低な僕。


警備は厳重だけど、さすがに処刑台にいるフレデリックちゃんは、何も出来ない。僕は処刑台に近づき、フレデリックちゃんの顔の前に跪いた。


「倉本さん?何を……?」

「せめて、気持ちだけでも楽になればなって」


フレデリックちゃんの顔、いつ見ても綺麗だなぁ。

「大好きだよ、フレデリックちゃん。……チュッ」


僕の唇は、フレデリックちゃんの唇と重なる。

まあ要はキスをしたっけわけだ。みんなの目の前で。


「へ?今……っ」

「ごめんね、好きでもなかったでしょ?僕のこと。任務だもんね。なのにこんな事して。それに未練タラタラだよね。完全に嫌われてるの分かってたのに、ストーカーかよって。でも、僕は嫌いにはなれなかったよ。殺人鬼になったのは、しん君の事があったからでしょう?それ以前のフレデリックちゃんは、優しかったよ」



もう会えない。だから1人勝手にベラベラと。


「……私は最初から貴方のことが気に食わなかった。こんな冴えない男の実家を壊すなんてって。なんで特務なんだろうって。優しかったのは演技だから。警備が厳重、ギロチンは真上。こんな状況じゃなきゃ、私あなたのこと、殺してたわ」


「……殺してもいいくらい、僕は君を壊した。皆と出逢わなければ、しん君と結婚出来たかも知れない。それなら、いっそのこと殺してくれる?」



こう思ってしまうくらい、好き。



「お兄ちゃん!?何言ってるの!?だめだよ!」

「おい、健!いい加減に」

「良いんです、結局フレデリックちゃんは死刑が確定になってるんです。僕を殺してもいいでしょ?」

「良くないよ!!」


咄嗟に四十万楽都さんと芽木神楽さんが、僕をフレデリックちゃんの元から引き剥がす。


「……倉本さん、ホントにいいんですか?」

「うん。地獄で会おうね」

「キモイです。私、死んだら、しんと地獄を味わいたいの」

「きっついな〜」


お互いが殺したい・殺されたいの一点張りだと言うのに、皆は止めることしかしない。


「ね、そろそろ時間……」

四十万さんが怯えた目をしながら交互に僕らを見てきた。もうお別れしろってことだろう。


「だな。健、今日も大人しく見届けるんだ。いいな?」

「……わかりました」

「しょうがないですね」

「じゃ、さよなら。フレデリックちゃん」

「さよなら。倉本さん」


「じゃ、俺らは外に出るぞ。血だらけになりたくなかったらな」

「はい」


「フレデリック、今までありがとう。お母さんも、もう少ししたらいくからね」

「お母さん……ありがと。出来れば長生きしてよ」

「ふふ、そうね。わかったわ。ウィリシアさんに宜しくね」

「わかった、じゃあね」


ハーパーさんは短い言葉の間に様々な感情をのせながら、フレデリックちゃんと最後の言葉を交わした。


せいかも、後悔を滲ませながら振り返るも直ぐに部屋の外に出た。



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