第146話 佐々木の想いと倉本健の想い

 少し呻き声を出されてしまったけど、直ぐに死んだようでなにより。後は刑務所ん中か。


「……門だけなんだ、警備」

 刑務所入り口は自動ドア2段階のみ。近くに警備員が居てもおかしくないけど、どうやら常にがら空きの入り口らしい。


 堂々と正面からお邪魔し、誰にも会わないよう素早く人気のない所へ向かう。そこから換気扇を探し、バッグに入れてあるポンプ式小瓶を取り出し、中に向かって毒ガスを噴射。


 刑務所は二階建ての長方形。つまり2階に行って同じことを繰り返せば、全体的に毒ガスが充満すると思う。初めて殺るからよく勝手がわかってない。


「けどま、大丈夫でしょ」


 ボロい刑務所だし、造りも古い。簡単にガスが廻ると思われる。そして2階に行って再び毒ガスを換気扇内に噴射し、急いで外に出る。


 ちなみに涼野契はそのまま呆然と地面に座っており、床駒一はラミアダ君に殺されたので横になっている。まあ正面玄関に堂々と入ったとは言ったけど、木々も沢山ある場所に立てられているし、上手く姿が消せたんだろう。2人に見つからずに生い茂っている木々の中に入ることができ、そこから音を立てずに歩道へ出た。



 ラミアダ君とフレデリックさんの姿はもうなかったから、直ぐに撤収したんだろう。

 そう思い、帰路する。


 僕なりに刑務所を制圧することに成功し、無事家に到着した。


 ______


 まぁ、あの日はそんな事をこっそりやっていた。



 目の前のレゴブロックに思いを馳せるように、しん君達のことを振り返る。


「バレてないから良いけど、捕まったら僕も刑務所行きかぁ……。ラミアダ君とは長い付き合いになりそうだけど、フレデリックさんはなぁ」


 死刑宣告されている。



「…………辛いなぁ」



 しん君とラミアダ君、フレデリックさん。この3人の他愛もない会話を聞くのが楽しかった。殆どしん君とフレデリックさんの2人で来店されるけど、たまにラミアダ君も着いてきくれて、仲良くコーヒーやお菓子を頼んでつかの間のひと時を過ごしていた。


 もう見ることは無い風景。生き残るはラミアダ君たった1人。


 

ずっと、あの組織とつるんでいたかったよ。


 一般人の僕に声を掛けてくれた唯一無二の友達、しん君。口数は少ないけど、いつも優しかったフレデリックさん。真面目で、しん君を陰ながら支えるラミアダ君。たまに顔を出しては相談事を必ず聞いてくれるウィリシアさん。


「あぁ……僕もそっちに行きたい。組織に、仲間になりたい……」


ラミアダ君、君はいつ刑務所から出られるんだい?たった1人殺しただけじゃないか。死刑になって欲しくない。

もう大切な人を失うのは嫌だ。でも、またなんか行動したら、今度こそ手に足つく。大人しくしてなきゃ刑務所歴が長くなる。


「とりあえず、いつも通り仕事してるか」


一気にやらない事をやった為か、疲労が体力を覆いかぶさっている。これは暫く取れそうにない。仕事するくらいの体力は残っているから、変わらず出勤していこう。


カレンダーの2月24日水曜日、今日。

死刑執行日は確か31日。


悔いのないように生きよう。瞼を閉じ、レゴブロックの形を指先に神経を集中させ覚えさせた。


_____


25日木曜日



「ダメなんですか……」

「ああ。無理なんだそうだ」



俺、涼野契は倉本兄妹と面会を行っていた。

四十万からフレデリックさんは倉本兄妹と会いたくないという節のメールが、今日の朝届いたのでそれを伝えに看護師に許可をもらい、今に至る。


「酷い話、全く持って会う気が無い様子だったそうだ。だからまぁ、死刑執行日しか会えないことになる」

「結局、思い通りにならなかったですね」

「そうだな。お前の思う理想ってのが俺にはよく分からんが、多分しつこすぎたんじゃねぇのか?」

「ただ想いを伝えたかっただけ、に時間をかけたのも良くなかったんですかね?」

「おそらくな」


「死刑になったから告白するってのも、ねぇ。けどお兄ちゃんは想いを伝えたいだろうし。当日言うしかないんじゃない?」

「だよな……」



それに、こればっかりは言えたもんじゃねえが、倉本兄妹を目にしたら殺したくなるとフレデリックさんは言っていたらしい。

つまり超厳重な体制で3人を会わせなきゃいけなくなる。完全な対面では話は設けられない。

ある意味 健にとっちゃ公開処刑だろう。人前で告白して振られるんだから。



「まぁそういう事だから。あともう少し、心の整理でも付けといたらどうだ?」

「そうですね、そうしときます」

「じゃ、またな」

「はい」


扉を開けて自室へ戻る。色んなことを考えながら





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