第31話 古本屋の変化と妹
12月下旬。
小糠雨しんがフレデリック・サイデリカと
愛を育んでいた頃(※育んでいない)本作の
主人公 倉本健は、愛も変わらず一途に
天才美女詐欺師に片想いをしていた。
その想いは実家の古本屋にまで影響を及ぼし
あまつさえ店内の一角に、コーヒー専門の
本を取り揃え、コーナーを作る所まできて
しまった。
母を説得したが勝ち。許可がおりた途端
自ら棚を家から引っ張り出し店内に設置。
いそいそと作業に取り掛かる僕を、後ろから
冷めたと言うか嫉妬に覆われたせいかが無言で見下ろしていた。
「………」
「コーヒー専門のコーナー…作ってる。」
なんとか絞り出した声で簡潔に発すると、
更に嫌な顔をされ軽く足蹴りされた。
ゲシッ
「痛っ」
「他人からの影響を受けやすい人って騙され
やすいんだってよ、お兄ちゃん。」
「それどこ情報?」
「独自の見解とTwitterでみた」
「いや、どっちやねん」
「どっちでもいいでしょ」
___
喧嘩は殆どしない兄妹なので、これも別段
悪い雰囲気と言う訳ではない。筈。
しかしなんとなくだが、最近居心地が悪い
気がする。なんでなんだろう……。
あまり我が妹と一緒に居たくないというか
気まずさがハンパない。
「そういえばフレデリックちゃんとメルアド交換したのな。連絡とかしてるん?」
不穏な空気を無理矢理かき消すかように
話題を振る。
「うん、色々聞き出してる」
「聞き出してるって…。尋問かよ」
「尋問じゃありません。女友達として相談にのってあげてるだけです」
「と言う名の尋問を我が妹はしていると」
「……!!💢💢」
「ごめんて、嘘だってば」
「ぶー、ばかにぃ」
「すんません」
なんとか、いつも通りの会話にはなってきた
けどそれでも嫌な感じ。早く終わらせよう
「それ、作り終わったら部屋戻るの?」
「はっ?え、あぁ…うん。そのつもり」
「そう」
「なんかあった?」
「いや、別に。ただ…」
「ただ?」
「フレデリックさんに電話かけるから
盗み聞きしたら殺す」
あー、そういうことね。はい。
「分かった、なら少し出掛けてくるよ。
終わったら連絡ちょーだい」
「ん、ありがと」
そう言うとせいかはスタスタと家用のドアを開け、あっという間に姿を消してしまった。
___
黙々と本を並べだした結果、コーヒー専門のコーナーが無事に完成した。
「よしっ」
ちょいと後ろに下がり陳列具合を確かめる。
他のコーナーとのバランスは悪くないと思うが、一応確認の為お母さんを呼ぶ。
ちなみに今日は、きちんと仕事をしている。
「お母さーん!ちょっといい??」
「はーい、いま行くね〜!」
暫くすると小動物のようにトコトコと
やってきた。
「これ、陳列具合どう?大丈夫かな?」
「おお〜」
パチパチと謎の拍手をするお母さん
「いいね!他のコーナーと同じくらい様に
なってるよ〜。全然邪魔になってないし」
「ほっ、良かった。じゃあ僕ちょっと散歩
してくるね。せいかに出掛けるよう促され
たから」
「あら、どうしたのかしら?」
「フレデリックちゃんに電話かけるんだってさ。盗み聞きしたら殺すとまで言われて。
女のコ同士の会話には男はいらんしょ」
「ほほう、恋敵に電話なのね」
「ははっ。お母さんもそう思う?」
「もちろん!あの子が来てくれる様になってから、せいかちゃんオシャレに目覚めた
のよ?わかりやすいわよね。お母さん、見てて楽しくなっちゃう」
「そうだったんだ?へぇ〜」
「うん。健ちゃんもたまには褒めて
あげたら?」
「了解!今度言ってみるね。」
「そのほうがいいよ。じゃあ、気をつけて
いってらっしゃい」
「はーい、行ってきまーす」
久しぶりにお母さんと話し込んだので
時間が少し経ってしまった。
「さてと、でかけますか」
すっかり日もくれた夕方5時過ぎ
僕は1人寂しくご飯どきまで、どこの店にも入らず、近所をただ散歩しに行ったのである
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