十二.

 私は宿を借りている家の裏山の、低い頂を目指して草をかきわけながら歩いていた。

 ふと、何気なく横を見ると、そこに駅があった。

 四角い、小さなコンクリートの駅舎の、誰もいない改札口の天井で、裸電球が揺れている。

 入口に掲げられている駅名のプレートは、闇にまぎれて判読できない。

 なんだ、こんなところにあったのか。

 近づいていく。

 人の気配はない。

 切符の販売機やICカード読み取り機も見あたらない。

 まあ、乗ってしまえばなんとかなるだろう。

 改札には駅員が入るブースすらなくて、こげ茶色に変色している頑丈な木の柵の間を抜けていくようになっている。

 柵のホーム側に、ところどころ錆び付いた青緑色の箱がぶらさがり、張り紙に、ご使用済みのキップはこちらへお入れください、とある。

 ふたに開けられた小さな長方形の穴の周辺だけが、色が落ちてやけにつるつるしている。

 と、いうことは、多少なりとも乗り降りする人はいるのだろう。

 木の屋根がかけられた、ひとつだけのプラットホーム。

 ぽつん、ぽつん、と、電球の明かりが灯っている。

 電車が来た。

 音もなく、扉が開く。

 誰も降りない。

 というより、誰も乗っていない。

 乗り込もうと、一歩を踏み出した。

「いけないっ」

 少女の叫び声が聞こえた気がする。

 気がつくと私は、線路の上に倒れていた。

 横にはプラットホームのコンクリート壁。

 ごおっという音。

 目の前に、巨大な光点がふたつ、迫ってくる。

 銃声。

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