十一.

 夕暮れどき、私は河原の石のごろごろの上を歩いていた。

 裏山を越え、草地を抜けていくと、そこに川があった。

 下のほうに目をやると、はるか遠く、橋のようなものがかかっているのがかすかに見えた。

 それを目指して進んだのだが、薮を切り開き、ときには水に足をつっこんだりもしながら苦労してたどりついてみると、巨大な巨大な木が横たわり、川の両岸を結んでいるのにすぎないのだった。

 ずいぶんと昔に倒れたものらしく、枝葉はすっかり落ち、幹も雨風にさらされてつるつるになっていたけれど、それ自体が折れたりひび割れたりはしていないようす。

 私は片方の河岸から太い幹の上によじのぼり、腕を左右に広げて平均台に乗るときの要領でバランスを取りながら、川の真ん中あたりまで行った。

 そこに腰かけて、流れの音を聞きながらおにぎりを食べた。

 食べながら、ふと脛のあたりにこそばゆさを感じて見下ろしてみると、私が幹の表面に投げ出した脚の先のほう——当然ながら、水面よりはかなり上にある——さきほど水深がある場所を通ったときに濡れないようにロールアップにしたジーンズの裾から肌がのぞいているところに、名前はわからなかったが、柳の葉のような細長い体をした魚が二匹、まとわりついているのだった。

 どうなるか、と思い、私が両足をばたつかせると、二匹はばらばらの方向に、つい、と遠ざかる。

 けれどもしばらく待っているうちにふたたび戻ってきて、そこに餌になる何かが付着してでもいるのか、それともただ単に好奇心からなのか、私の皮膚を、弾力のある口でつんつん突く。

 上体をかがめ、手でつかみ取ってやろうとすれば、私の指と指の間をするりと抜け、私が座っている幹の下に潜りこんで隠れてしまうのだが、やがてそこから姿を現し私の足もとにやってくる。

 私はその様子を興味深く眺め、ときに戯れに追い払ってみては、逃げ散った2匹がまた泳ぎ寄ってくるのを観察した。

 小一時間ほどもそうしていただろうか。

 突然、右手のほうから、どう、と強い風が吹き、私は落とされないように幹の上でしっかりと自分の体を支えた。

 風が止んでからもういちど見ると、二匹の魚はどこかにいっていた。

 私は立ち上がり、倒木の上をそろそろと渡って岸に戻った。

 その途中、河岸をおおった草むらの中で何かがきらりと光を反射したのは、彼らだったのか、それとも別の魚だったのか。

 そこからしばらく川下の方向に進んでみたけれど、川幅がすこし広がったほかには特に変化もなく、まわれ右をして今度は川を遡り、いちばん最初に流れと出会った地点まで戻るころには陽が傾きかけていた。

 そういえば、ここではうなぎは捕れないのだろうか、と考えて覗きこんでみたけれど、暗くなりはじめた水の底に魚影はひとつも見つからなかった。

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