六.

 目が覚めた。

 まわりが騒がしい。

 窓の外を見ると、景色が動いていない。

『お客様にお知らせいたします。先程、東長崎駅付近で人身事故が発生いたしましたため、この電車はしばらく停車いたします。お急ぎのところ、大変ご迷惑をおかけいたします……』

「ありゃま。困ったな」

 ひとりごとを言って、ポケットから携帯電話を出す。

 時計を見ると8:45。

 本当なら、もう池袋に着いていなくてはいけない時刻だ。

 遅刻することは間違いない。

 電車の事故なら欠席にはされないけれども、とりあえず同じ講義をとっている友達に連絡して席を確保しておいてもらおう。

 メモリダイヤルをたどり、発信ボタンを押す。

 すると、画面にメッセージが表示された。

『圏外です。「切」ボタンを押してください』

 しばらく電話を振りまわしてみたが、電波が入る様子がない。

 まわりでは通話している人も見えたから、ちょうど悪いところにはまってしまったのだろう。あるいは別のキャリアなら電波が入るとか、そういうことなのかもしれない。

 しかたがない。電車が少しでも動くまで待とう。

 私はもう一度、目を閉じた。

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