第4章:んなことあるかいな
全てを焼き尽くすような眩しさに目を瞑った莉結が、再びその視界を取り戻した時。
悠璃とオレンジ色の球体はどこにも存在していなかった。
静寂に満たされた部屋の中、波紋のような揺らぎが残っているだけ。
そしてその揺らぎから、金色の毛並みをもった犬のような何かが這い出してきていた。
「……なんやねん。ホント」
一匹、二匹と増えていくそれらの頭上に〈神犬〉と表示されている。
次いで、己の視界が変化していることに気づく。
〈阪島莉結〉
レベル:1(コンボ補正値0%)
HP:16
ウエポン:【
アイテム:エプロン・筆箱・リンゴジュース・ゲーム機
今の莉結の状態と持ち物を表す、ステータスとでも呼ぶべきものが莉結の視界左端に表示されている。
「はは、くだらな」
莉結の口から、おそろしいまでにフラットな笑いが漏れ出た。
あまりにもバカげた状況すぎて、感情の波が閾値を超えてしまったのかもしれない――などと考えている自分が一番バカだなんて思いながら、
「悠璃とダラダラしながらゲーム作れればいいって言うたばっかなのに……神様なんかなりたないって、言うたからなんかなぁ」
それでも溢れ出る言葉を留めることはできない。
奥歯がギリギリと鳴るほどに噛み締められ、憎悪の塊のような声音が滲み出る。
「一緒にいることさえ、できればよかったのに」
ゲームだから。
その一言で全てが片付いてしまう。
あまりにも非常な現実に打ちのめされたのか、莉結はうつむいたまま身動き一つ取ろうとしない。
そんな彼女を囲むのは、犬のような何か。
金の毛並みを輝かせるそれらの数は都合七匹。
その全てが莉結を喰らわんと唸り狂い、飛びかかろうとしたその瞬間。
「――――あっっっっほらし!!」
悠璃が吼えた。
犬たちは怯み、動きを止める。
荒く息をついた莉結はあほらしいと呟きながら今一度、自分の状況を整理する。
「朝起きたら友だちが神になっていて、
これまでの全部は作り物だったって、
お前はこの世界の主人公なんだって、
ウチの存在を手前勝手に定義されて、
ホント、笑えなさすぎて笑えてくる」
だから、唾と共に吐き捨てた。
「 どうでもいいわ、そんなん 」
阪島莉結は絶望などしていなかった。
「作り物だからどうした! ウチの気持ちは本物や! むしろ取り繕った偽物なんかよりよっぽど本物だって証明されとる! 存在定義されたからなんや! 運命なんぞでウチの気持ちと行動しばれると思うなよ! キャラ造形甘いねんどこの誰ともしれんクソ作者が!」
顔をあげ、未だ消えぬ揺らぎに向かって嘲るようにハッと笑う。
「ゲームだからどうした。人生はクソゲーって言われてたのが立証されただけや。そんならこのクソゲーぶっ壊してさっさと悠璃とりもどしたるわ」
絶望なんてしてやるものかと瞳に激烈な意志を宿し、首と視線だけで振りむいた。
「今これ見とるアンタ。そう、アンタに言うてる」
そうして、あなたに向かって問いかける。
「ウチが悠璃取り戻すためには、観測者がいないと話にならん」
思い出すのは『ゲームの世界観と特質について』。
――――誰にも観測されない事象は存在していないのと同じ。
思い出すのは悠璃の言葉。
――――このゲームをクリアするためには誰かが観測し続ける必要があって、観測されないとクリアできないどころかゲームオーバーになる。
ゲームクリアには、観測者の存在が絶対条件。
「この犬ども蹴っ飛ばすために見とってくれ。一言一句、見逃すことなく」
この物語は、
「そしたら、オモロイもん見られるかもな?」
莉結は不敵に笑い、徒手空拳で構えた。
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