第28話 あらいっこ
冬至も過ぎたばかりで日が落ちるのも早い年末の頃だけに、午後六時を前にして既に辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。
ここから孤児院までの道には、所々街灯の配置されていないゾーンが有り、何が潜んでいるのか見えないくらいの場所が点在している。
とてもじゃないけど、まだ幼さの残る女の子達だけでは危険で歩かせられない。
僕も同行し、送り届けなくては。
「泊まらせていただくつもりだったのですが、ご迷惑でしょうか?」
提案するや否や、さらりと、さもそれが当然の展開でしょとでも言うかのように意向を打ち明けられた。
エリスちゃんは僕と一夜を共にするつもりでいるらしい。本気なのかこの子は。自分の言葉がどのような意味を持っているのかを分かって言っているんだろうか。
ユノちゃんに視線を巡らすと、純粋そのものの顔で頷き返すだけ。不穏な展開などまるで予想していないようだ。
まずいな、保護者の立場である聖薇ちゃんとチアキさんは僕への信頼が厚すぎるみたいだ。僕の中にある野獣が牙を剥く危険を考慮していない。
いや、チアキさんについては、わざと
「もう知っていると思うけど、ウチ、暖房無いけど大丈夫?」
二人と一夜を共にするのが嫌なのではない。そう思われたくはないので、別の理由を持ち出して自分達から辞退するよう仕向けてみる。
「みんなで一緒に毛布へ
「えっ、それで平気なの?」
「小さい頃はずっとそうでしたし、慣れていますもの」
「あったかいですよね〜おしくらまんじゅう」
ユノちゃんの口からは意外な表現が飛び出していたが、一方でエリスちゃんの言う小さい頃との発言からは、昔の孤児院には暖房器具が無かったのを窺わせた。
それに、エリスちゃんはお嬢様のような言動をしているから、孤児院に来たのはわりと大きくなってからなのかと思っていたんだけど、それは思い違いだったようだ。
いや、僕が平気なのかと確認したかったのは、その毛布の中に僕がいて、身体を密着させる事になる場合についてなんだけど。
なんだかんだ期待してしまっている自分がいるのは間違いない。
でも冷静に考えてみれば、実は僕を除いた三人だけで包まるつもりで、僕だけ仲間外れにされて寒い思いをするかもしれないんだけどさ。
+*+*+
「泊めていただくお礼に、お背中を流させていただきますね」
想像していた以上に引き締まった魅惑の肉体を競泳水着に包んだエリスちゃんが、タオルを二重にして必死に前を隠しているユノちゃんの手を引っ張って浴室に現れたのを見て、ああこれはバッドエンドのルートを引いてしまったなと思ってしまった僕のシミュレーションゲーム脳は果たして正しいのかどうか。
さも当然のように、小さな浴槽を全裸でシェアしているアムちゃんの姿が少しでも湯気で隠れてくれていれば、これから始まる惨劇を回避できる可能性がありそうだけれど、こちらからエリスちゃんの競泳水着のブランド名まで確かめられるくらいに視界はハッキリしているだけにその望みは皆無だろう。
親子だからやましい事は何もないと脳内で百八回は復唱して無我の境地に達し、外見の全てをアムちゃんの前に晒け出す覚悟を完了したところで、新たな強敵がよもやの奇襲である。
再び浴槽に身を沈め、意識が遥か彼方へ飛んでいき、醜態を晒すだけでなく股間を開帳したまま夜を明かし、宿のお客様に風紀の乱れたサービスを提供してしまうのだろう。ああ、そうなっても僕が悪いんじゃない。君たちが積極的に自分たちの武器を僕の純情に突き立ててきたからだからな。
反抗するかのように湯の中で突き立ったモノを鎮める妙案を考えるのを半ば放棄しながら、胸を隠して尻を隠さずなユノちゃんのたわわに実った桃の輪郭をぼんやりと眺めながら、朧気となった意識のどこかで美味しそうだなと思い始めていたその時。
突如として額にひんやりとした感覚が訪れ、それがアムちゃんの差し出した手に握られたタオルだと知って強引に意識が戻された。
戻ったところで天国と地獄の欲張りセットな状況のままではあったが。
「さあ父様、エリスとアムのどちらが父様を心地よくさせてあげられるか、勝負する時が来たのです。湯当たりして欠場、順延なんてことにしないでください」
あ、もし僕が欠場しても順延していつかやるつもりなんだ。この状況って遅かれ早かれ訪れるんだ。
もうルートは確定している。今更になって選択肢の出現を期待するのは無謀だ。
どうせ無謀なら踊らにゃ損損。バッドエンドどんとこい。
見せつけてやるくらいの覚悟を決め、ざっぱーっと音を立てて浴槽から湯を
「わあ、甘焦みたいになっててすごいです……」
僕の裸体をユノちゃんの視線が捉えて呟いたその一言に、乙女の純情を打ち砕く武器が繰り出されてしまっているのを実感する。
「大人になるととても大きくなると聞いておりましたが、これは想像以上でしたね。孤児院の子達がまだまだ子供なんだと納得してしまいます」
エリスちゃんは努めて冷静に僕のなけなしの武器を見定めている。
そうか、僕は孤児院の子の誰よりも大きいのか。
僕が立派な大人だと納得してくれたようで良かった。
――待て待て待て。
何がバッドエンドだ。この反応はストーリーの中だるみが出始めた中盤のギャグパート相当じゃないか。初めて見るおぞましい物体を目にして、阿鼻叫喚の地獄絵図になり、もう私お嫁に行けない! って流れになるのを期待――じゃなくて心配していたのに何だか拍子抜けで負けた気分になるぞ。
「では父様、そちらに座っていてください」
何を今更、とでも言いそうな平常通りのトーンの声でアムちゃんが促してくる。
僕の逸物などもはや日常の一風景でしかないのだろう。
言われた通りに座ると、続いて浴槽から上がってきたアムちゃんが僕の前に来た。
座った僕の目線と、立っているアムちゃんの下腹部辺りの高さが揃う。
視界にはアムちゃんのデルタゾーン、敢えて言うならデンジャーゾーンが収まっている。
僕の、乙女のような純情は情け容赦無く掻き乱された。
その一線が放った眩しすぎる光の一閃が視聴者の目を焼いているだろうが、僕には光シールドによる加護が無いから致命傷で済んだ。
「持ち時間は一人三分です。アムから行きますね」
限界まで間合いを詰めようかと迫り来る肌色の壁に僕は視覚を諦めた。
初めの三分間は、手際良く上から下へと垢が擦り取られていく触感があった。
当然のように甘焦の皮もまるっと磨かれた。
あまりに所作が手慣れすぎていて、僕という魂がこちらに来る前のロムさんとの日々では、どれほど互いの身体を許していたのかと聞き質したくなるほどだ。
続く三分間は、背中に何度か水着らしい生地が当たる感触があった。エリスちゃんの番だったのだろう。
当たりやすい部分は出っ張っているところ。なるほどわかりやすい。
折角だから『当ててんのよ』の一言をもらいたかったくらいだ。
けれども終始、エリスちゃんの声が聞こえる事はなかった。それだけ真剣に洗ってくれていたのだろうか。
しかし、だ。声は無くとも、息遣いと共に漏れる音が僕の鼓膜を弄り続けてくれた。僕の全身を洗おうと熱心に動いてくれているのだ。息が荒くなるのも道理だろう。決して、僕の貧相な身体を見て興奮しているのではないはずだ。
興奮しているのは僕だけだ。その証拠に甘焦が立派に実り続けている。
最後の三分は、モーターの回転音みたいな声を出しながらひたすら頭髪をこねくり回された。泡立ちすぎて体中に泡にまみれた感触がある。
ユノちゃんはそれなりに恥ずかしく思ってくれているのだろう。そう、そのくらいの反応をしてもらった方が僕が勇気を出してお披露目した甲斐があるってもんだ。
約十分に渡る、僕の純情が
お湯を掛けられ、全身の泡が取り去られたのを理解した直後、僕の手は浴室の扉に伸びて行った。
降参です。もう保ちません。この勝負、僕が負けました。
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