第2話 前書き…… (2)

 まあ、とにかく最初の頃はお袋に叱られた。今でこそ懐かしい出来事だが。あの頃の俺は、何度も悔しくて、悔しくて仕方がなかったのだよ。だからね、自身の布団の中で俺は何度も涙を濡らしたものだよ。


 特に俺はその頃は、先程も皆には告げた通りで、ろくに仕事などしたことなどないロクでなしだったからね。


 そんな俺がいきなり売り場に立って声を出し──物売りをしようと思っても何も出来ない訳……。声など高らかに出ないよ、恥かしくてね。本当に情けない話しだけれど……。


 でもね、そんな販売素人の俺にお袋は、容赦なく物の売り方、お客さまの流れを見て止めるやり方などを叩き込み教えてくれたのだ。それと他にも秘伝だと俺に告げては、色々な販売の奥義を伝授してくれた。人が売り場に群がり山を自ら作るやり取りの仕方なども。最初は中々出来ずに苦労していた俺だが、お袋を助けたい一心で必死になって覚えたよ。早くお袋を安堵もさせてやりたい気持ちもあるから必死になって覚えた──お袋の言う秘伝という奴をね。


 でッ、秘伝を覚えた後の俺は、お袋に「もう大丈夫だから心配しないでよ!」と、述べた。


 すると、家のお袋は、もう思い残すことは無いぞと言わんばかりに。その後直ぐに病気の方が急変したのだよ。それからの、家のお袋は今までのような病院通いでは無くて、大きな総合病院へと入院となったのだよ。


 まあ、そんな事情の俺だから。とにかく一人で販売して回った。あちらこちらで販売……。我が家の愛車であるロングの箱型ワンボックスの営業車で県内だけでは飽き足らず出張販売で県外にも販売しに行った。とにかくあの頃の俺は、お袋の入院費を稼ぐ為に必死だったような気がする。


 だって我が家は母と子の二人だけの家族だから、お袋が死んでしまうと、この世で俺は一人ぼっちになってしまう。


 だから俺は本当に頑張ったな~。自画自賛するほどに……。


 まあ、お袋までとはいかないが、かなり売り上げの数字も追いついてきた。


 だから俺はお袋に、安心して良いのだと述べたかった。でもね、俺のお袋様は死んじゃったよ。俺一人を残してね……。一昨年だけど死んじゃったよ。


 まあ、そんな訳だから、俺とうとう天涯孤独になったみたいなのだ。


 ……ん? ああ、そんなにも俺自身が、独り身で暮らすのが寂しいのなら結婚すれば良いではないかと、傍から見ている皆さんは思うのかな?

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