第二十三話


「今のでなぜチャンスがあるんだ?」


 アルバスが呆れていることはその表情から誰でも読み取れる。


「我々は調査員なので、近々発表されると思いますが、…まぁ手はあります」


「は?」


 珍しく要領を得ないギルロックの説明にアルバスが首を傾げている。


「それはさておき…アルバスさん、もう一つ大きな問題点があるはずです」


「むぅ?…あぁ…なるほどな。確かにその通りだ」


 アルバスはそういうと「足」へと視線を向けた。


「ギルド内にいる内通者について聞かせてくれ」


 「足」は一瞬だけ困ったような顔をするも、直ぐに口を開いた。


「それについてなんだが…本当に知らないんだ」


「…どういうことだ?」


「いや、俺が会うことを許されていたのは、チェスさんとダンベルさんだけで、仮に他がいたとしてもその人たちとは会えてないんだ」


「そんな訳ないだろ」


 アルバスはそういった。


「そんな訳あると思いますよ」


 するとギルがすぐにそう返事をした。アルバスは彼の方へと視線を向ける。


「彼はギルドに所属していない。仲間ではなく、あくまでもいつでも切れるトカゲの尻尾のような存在なんでしょう。こうして俺たちに掴まっても、本当に重要な情報は一切持たせていない、つまりはそういうことです」


(残酷だが、最悪の場合「足」を殺すことも計算内だろう。彼らはそれだけで身元不明の死体になる)


「なら問い詰めても無駄か…」


 アルバスは悩ましそうに天井を見上げた。


「…これは予想というよりも勘ですが、当たりを付けている冒険者が何人かいます。よければその人物たちの情報を貰っても?」


「何!?もちろん用意するとも」


「では―――――と―――――、それに―――――の情報を。それと死んだチェスとダンベルのものも持ってきてください。照らし合わせれば何かわかるかもしれない。ギルドに入る前のものだと偽装の可能性もありますが、一応全部見たいです」


 アルバスはその名前に驚愕を覚え、ガタンッという音を鳴らしながら思わず椅子から立ち上がった。


「ま、待ってくれ!そ、そんな馬鹿な!!」


「事態はもうそんなことを言っていられない段階まで来ています。それはもうアルバスさんも理解していますよね?」


「だ、だが…」


「気持ちは分かりますが…まだ確定したわけではありません。だからこそ情報が

必要なんです、少しでも多くの」


 ギルロックがアルバスの目へ射るような視線を向けた。


 するとアルバスは一気に冷静になった。


「…わかった。そうだな…まだ確定ではない」


 アルバスはゆっくりと椅子に座り、深く深呼吸をした。


「すぐにまとめて持ってくる」


 アルバスは再び立ち上がり、資料を取りに行くために部屋から出た。


 数分後、彼は資料を持ってギルド長室に戻ってきた。


「これが今言っていた全員の資料だ」


 資料は五人の名前ごとに分けられていた。五つの内、四つは分厚いが、一つだけやけに薄い。


「そうですか、では失礼します」


 ギルロックはそれぞれの資料を数十分ほどかけてゆっくりと眺めた。


 それらを見終わると椅子に深くもたれかかり、眠るように目をつぶってしまった。頭の中を整理していたのか、数分後、彼は口を開いた。


「おそらく確定でいいでしょう。依頼の経歴にすでに死んでいる二人と一緒に行動していた可能性の高い箇所がいくつかあります」


「そ…そんな馬鹿な」


 アルバスはそういって静かにうつむいた。


「…」


 そう結論づけると彼はもう一つある薄い資料を手に取り、その中をジッと観察していた。そしてそれを閉じると机に戻し、天井を見上げた。


「…」


 天井に向けて静かに息を吐きだし、しばらく黙っていた。


 アルバスはもちろんのこと、「足」すら空気を読んで口を開かなかった。


「…調査に戻ります。卵を奪還し、ドラゴソードテイルを追い払って見せます。なので…」


「言いたいことは分かる。この件はお前に任せるさ。今更年寄りがしゃしゃり出てもどうにもならんだろう」


「ありがとうございます」


 彼が何を考えていたかまでは、アルバスには見抜けない。しかしどう結論付けたのかは、その表情から読み取ることができた。


 だからこそ彼に任せることにしたのだ。


「それでは、次はこの件を解決した後に会いましょう」


「…あぁ、任せた」


 アルバスはギルの少しだけ寂しそうな背中を見送った。


「な、なぁ…このまま行かせてもいいのか?」


 ギルのいなくなった部屋で、「足」がアルバスへと問う。


「…仮に間違っていたとしても、俺に出来ることはギルを信じることだけだ」


 そう返事をするアルバスも、「足」から見ればどこか寂しそうだった。


 ●


 ギルロックが広間兼酒場に戻ると、アイネはまたアブドと話していた。


 そしてその光景に、彼も参加する。


「また会いましたね、アブドさん」


「おぉ…調査員の兄ちゃん、また嬢ちゃんに話を聞いてたんだ」


 アブドは機嫌良く、笑いながらそう話した。


「そうですか」


 いつも通り彼の返事は素っ気ない。


 するとすぐにギルはアイネの方へと視線を向けた。


「次は荒地の調査に向かう。異変の原因はそこにある」


 彼がそう口にする。


「わ、分かりました」


 アイネは少しだけ困ったように頷いた。


「それではアブドさん、俺たちはこれで。といっても今日は夕暮れ時に出発することになると思いますが。それまでは宿舎で少し休憩します」


「お!そうなのか!ま、休憩も時には重要だろうな!」


「はい。俺もその通りだと思います」


 ギルドから出ると、アイネがすぐにギルロックへと問いかけた。


「だ、大丈夫なんですか?確かに休憩は大事だと思いますけど、ドラゴソードテイルがヘキサスに来てしまいますよ?」


「…休憩も時には大事だ。午後は少しだけ買い物を頼みたい。その時にこの国を少し見て回るといい。働き詰めっていうのもな」


「わ…分かりました」


 アイネは少しだけ不思議そうな顔で頷いた。

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