第六話
「序列持ち…ってまさか?」
アブドが驚愕を表情に出しつつ、アルバスへと問う。
「お前が考えている通りの意味だ」
彼らが全員驚愕するのも無理はない。
「序列持ち」に関する説明をするには、まずギルドランクのシステムから説明しなくてはならない。
まず、ギルドランクはFランクから順に最大をSSSランクとする。
冒険者の目指す地点は当然最高ランクであるSSSランクであるわけだが、これらSランク以上のランクには呼び方がある。
Sランクを「ドット」、SSランクを「ライン」、SSSランクを「トライ」。
しかし、これらのランクシステムには欠点があった。それはこの指標そのものを図形として考えれば非常に分かりやすい。
この指標は頂点を元にする三角形ではなく、
つまり、
最強である彼らが次第に向上心を失い、徐々に依頼達成への積極性を失い始め、ギルドの利益を損なう結果になり始めていた。
そこでギルドが考えた
ギルドは現状台形でしかないギルドランクに頂点を生み出すために、
この序列を持つ者達を、それ以外の冒険者たちは畏怖を込め、「序列持ち」と呼称している。
この”序列持ち”にはさらに特別な呼称があり、それはギルドが定めたものではなく、彼らの逸脱した実力を見た冒険者たちが便宜上生み出してしまったものだ。
”序列”、1位から4位に位置する者達をさらなる畏怖を込め、
「スクエア」と冒険者たちは呼称した。
無論、誰もが一度は目指す到達点、「スクエア」はもちろんのこと、ほとんどの冒険者たちは「序列持ち」ないしは「トライ」ですら遥かな高みであることを理解し、次第に諦めることになる。
「序列持ち」とは冒険者たちにとってそれほどの意味と意義を持つ存在だ。
しかし、これらは冒険者が持つランクシステムの一部だ。
アルバスはギルド調査員であるギルロックに対して「序列持ち」という言葉を使っていた。
それは非常に単純な理由からであり、つまり調査員にも似た指標があるのだ。
だがギルド調査員たちは冒険者たちのように細かなランクは持たない。それはそうだろう、そもそもこのギルドランクは冒険者たちの安全性を高める為、ギルド調査員が調査した”魔生物指標”、別称:モンスターランクを元に作られたもので、彼ら調査員の為に魔物を調べる者はいないのだ。
常に強さが未知数の魔物を調べる以上、彼らにランクは必要なかった。
それでも冒険者が魔物資源と共に実績を得るように、彼らも調査と共に実績を得ることは当然であり、目標も必要になる。
ギルド調査局は冒険者たちのギルドランクを元に、ギルド調査員にも「序列」のみを設定した。
調査局は一直線の横並びでしかなかった調査員に、もう一つだけ点を与え、三角形へと作り変えたのだ。
設定された序列は冒険者たちと同じく1位~10位まで。そして情報を共有された冒険者たちは調査員たちの場合も1位から4位を「スクエア」と呼び、それら全体を「序列持ち」と呼称した。
当然、調査員と冒険者の持つ「序列持ち」の意味合いは異なる。
もとより情報のある魔物を討伐する冒険者たちと、情報すら持たない未知なる魔物を討伐してきた調査員、そのどちらが優秀であるかは言わずもがな、冒険者たちは理解していた。
だからこそ先ほどアルバスが唐突に言った「序列持ち」というただの言葉は、冒険者たちにとって大きな意味を持つのだ。
場の空気が制止するのは当然のことだった。
アブドが口をわなわなと振るわせながら、もう一度アルバスへと質問する。
「か、彼の”序列”は…いくつ…なのでしょうか?」
それはこの場にいる冒険者たちが例外なく気になっていたことであり、アブドはただ全員の疑問を代弁したに過ぎない。
「あぁ、こいつの”序列”は確か…」
「アルバスさん、この話はその辺で。俺たちはまだ肝心の本人に許可すら取っていないんですから」
ギルロックがアルバスの話を止める。
アルバスは手に拳をポンと置いた。
「あぁ…君、名前は?」
アルバスはローブの冒険者へと問う。
「わ…私は…アイネ・クライン…です」
ローブの冒険者は、ゆっくりとフードを外した。
その瞳と髪は藍色であり、可愛げな小鼻はほんの少しだけ赤い。それは彼女の肌が色白であるせいで、目立つだけだろう。
目は少しだけ垂れ気味で、右目のすぐ下には小さな泣きぼくろがある。美しい髪をそのまま伸ばしており、肩甲骨まで届く程度の長さだ。毛先は内側へと少しだけカールし、ふんわりとしている。
ローブで容姿までは分からなかったが、彼女が美しい少女であることは間違いなくこの場にいる全冒険者が息を飲んだ。
アルバスでさえ、ローブのせいで年齢や性別を見抜けずにいた為、今更彼女を本当に補助員にしても良いのかと迷っていた。
彼女も困ったように周囲を見回すと、突然もう一度口を開いた。
「わ、私…やります。ほ…補助員に、なります!」
唐突に大きな声を出し、自分の意見を主張した。
その様子を見て、アルバスは静かに頷いた。
「そ、そうか。同意が取れたようならば何よりだ。ではここに、ギルロック・ホームズのギルド調査補助員を決定とする!」
アルバスが大きな声で宣言する、その結果全員が盛大な拍手をした。
しかし、この中で一人だけギルは戸惑っていた。
(…ローブの中身が想像と全然違うんだが)
今更後には引けず、彼はこのギルドに入ってきた時のように、また適当にステッキを持った片手をあげてみんなの拍手に答える。
その頬には、嫌な汗がつたっていた。
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