第二話
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指名依頼のあったギルド・ルビールは、ジグザス王国・王都、ヘキサスにある。
「ありがとうございます」
それだけ告げると、彼は御者に道中の代金を支払った。
彼は普段歩く際には基本的にステッキを持っている。調査員という仕事柄、ステッキによって地面の安全を確保するためと、鞘から抜刀する手間を省くためだ。
コツコツとそれを鳴らしながら歩く。
ルビールは比較的に発展したギルドだ。ヘキサスという国の側には魔物が大量に群生しており、そこから安定した収入を得ている。
南に森林地帯、東に荒野地帯。それがヘキサスの立地だ。それぞれに魔物が群生している為、生活拠点としての立地は余り良くはない。
しかし”魔物資源”を元に発展した大国であるため、こうした変わった立地でもそのまま国を構えているという訳だ。
彼は久々に、魔物の侵入を防ぐためにあるこの国の強大な防壁を見た。
正門から入るにはもちろん検問が必要になる。ただしギルドが大きな力を持つこの世界において、各地にほとんど無条件で入国できる職業がある。
それは冒険者ではなく、ギルド調査員だ。
冒険者よりも圧倒的に移動が多い彼らの為に、ギルドが各国へと少なくない賄賂を贈ったためだ。
無論、完全に無条件という訳ではなく、調査員の制服に描かれた紋章が、入国証明証の代わりとしての役割を果たしている。
ギルロックが正門を通り過ぎても、誰も止めない。制服である外套の紋章には魔法が施されており、それが門番の持つメダルに反応する。
その仕組みが調査員の偽装を防いでいる。
ヘキサスの町並みは、非常に整理整頓された本棚のようなものだ。王都そのものが六角形をしており、そこに所狭しと区画整理された道、建物が並んでいる。
街路のほとんどは狭く、馬車で走るには適さないだろう。
ほとんどの住民が徒歩で移動することを余儀なくされる国だ。
ギルもその例外に洩れず、徒歩でルビールまでたどり着いた。
「…はぁ。相変らずの匂いだな」
彼は小さくそうつぶやいた。
ルビールはこのヘキサスには珍しく、木製の建物だ。そのせいもあってか、中からはある匂いが漏れ出している。
まだ昼間だというのに、中から香るのは酒の匂いだ。
そもそも”ルビール”という名前は、麦を発酵させた酒から来ている。かなり尖った名前だが、ギルド長が酒好きだからという単純な理由で名付けられた。
長の趣味が高じて、ギルド内に酒場を作ったほどだ。
彼がこのギルド支部を好きになれない理由は、そこにもある。ここの人間は危険な仕事をしている割には、かなり豪快で陽気なのだ。
このギルド支部が掲げる理念は、”どうせ死ぬなら陽気に笑顔で酒を浴びろ”だ。
そんなギルドにわざわざ集まるような人間が、一体どうのような人間なのか想像するのは難しくなく、側にいるだけで厚かましいことこの上ない。
ギルロック・ホームズは、辟易しつつも扉を開けた。
その瞬間ムワっとした酒場特有の匂いが、彼の顔面にぶち当たる。中ではかなり多くの冒険者たちが酒を飲んでいた。
本当に仕事をしているのか怪しいくらいだ。
彼が険しい顔をして中に入ると、珍しいギルド調査員の来客に、ギルド全体が静かになった。
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