ギルド調査補助員のお仕事

第一話(元第六話)


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 ギルロック・ホームズ殿 


 この度は急な手紙での連絡、恐れ入ります。

 

 [ギルド:ルビール]より、指名依頼が来ております。

 魔物の強さに変動があり、死傷者が出始めているようです。


 アッポウ村での調査は、こちらで他の者に引き継ぎます。

 

 それでは、お気をつけて。


 ギルド調査局・局長秘書:ラドル・エルドルト

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 ギルロック・ホームズこと通称ギルは、黒髪黒目の美形だが、これといって顔自体には特徴のない男だ。しかし体は人よりも特徴的で、右腕は肩から丸ごと義手であり、左腕はアームホルダーに常に収納されている。


 義手は特殊な素材でできており、魔力さえ操れるのなら普通の腕と変わらない。黒い皮の手袋で隠している為、表面上義手には見えないが。


 左腕はとある事情から隠しているが、問題なく動かすことはできる。


 人目を避けるために最も効率がいいのは怪我に偽装することだと考え、彼はまるで骨折しているかのように左腕を擬態させていた。ただしアームホルダーは黒い革製の特別頑丈な作りで、人目を集めることもしばしば。


 一般人よりも筋肉質だが、体格に差はない。


 調査員の制服である脹脛ふくらはぎまである長い外套を羽織っており、中は黒いワイシャツに黒いズボン、どちらも普通の生地ではなく魔物資源から作られており、伸縮性に優れたものだ。


 外套には紋章が刻まれており、黒い六角形の中に翼を広げた白い梟が描かれている。これは調査員のみが背負うことを許される紋章だ。


 森で人命救助を行ったすぐ後に、調査員専用の宿舎の主から黒い洋封筒を受け取った。黒い洋封筒の口には、いつも通りギルド調査局紋章の白い押し印がされている。


 黒い洋封筒に専用の白い押し印、調査局から手紙が来る際には、常にこの様式がとられている。


 内容は上記の通り、彼に対する指名依頼だった。


 ギルド調査員による調査は、当然失敗することもある。しかしこうした緊急事態の場合、気長に調査をしている時間はない。


 冒険者に死者が増えるからだ。


 冒険者稼業が彼らの食い扶持である以上、いたずらに仕事を止めることはできない。思慮深い者は時を待つが、この職業においてはそうでない場合が多い。それは彼らの好戦的な性格だけのせいではなく、明確な理由がある。


 依頼を受け続けなければ、ギルドランク(冒険者側の指標)が下がるからだ。


 そしてギルドランクの低下は、収入の低下を意味する。


 緊急だからといって実力の足りない調査員を招いても、いたずらに調査時間が延び、その間に死傷者を増やすだけだ。


 そういった事態を避けるためには、当然調査の成功確率を上げる必要がある。だからこそ、緊急時には信用度の高い個人を指名して依頼する場合が多い。


 そして今回、指名されたのは彼だった。


 別段、珍しい話ではない。


 特に”ルビール”というギルドは、彼と少なくないつながりもある。また信用においても、彼にはそれなりの実績と地位があった。


 現在、通称:ギルは馬車に乗り、目的地に向かっている。


 仲間の白い大梟オウルの背に乗って手っ取り早く移動する手もあるが、彼はその手段を選ぼうとは思わなかった。


 例えば目的地に待つものが本人にとって都合の悪いものであれば、多くの人間はその足取りを重くし、目的地にたどり着くのを少しでも遅らせようとするだろう。


 人命がかかっている以上、流石に徒歩という訳にはいかず、最低限の速度を保ちながら移動を続けていた。それは彼の心情の表れでもある。


 彼は外套についたフードを深くかぶり、便箋にある”ギルド:ルビール”の文字を見ると、今日何度目かのため息をついた。


「はぁ…あの人、苦手なんだよな」


 なんとなく八つ当たりで、便箋を魔法で燃やし空へと投げた。


 紙はやがて灰へと変わり、皮肉にも空を優雅に舞った。


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