ある夏の始まり(1)
どこまでも澄み渡る青空に、容赦なく照りつけてくる太陽。
潮風を受けて揺らめく海面には光の斑点が不規則に流れ、黄色く光る砂浜は夏の日光を反射し、じりじりと熱を放射している。
そんな夏真っ盛りの海岸に、俺たちはいた。
「やっほーいっ!」
恥ずかしげもなくベタな叫び声を発して、岡本は海へと飛び込んだ。
「ちょっと佳くん! 準備運動くらいしないとケガしちゃうよ! というか、先に場所の準備ー!」
彼女……というより、おかんみたいな注意をしながら、佐原さんが駆けて行く。
「あいつら、はしゃぎすぎだろ」
その後ろ姿をぼんやりと見送ってから、俺は持って来ていたビーチパラソルを砂浜に立てた。畳み込まれていた脚を広げ、傘を開くと、眩しい光と熱気を放っていた砂の上にパッと濃い影が広がった。その影を中心にビニールシートを開き、海風で飛ばないように荷物を乗せて、完成。
これで、俺たちの今日の陣地は確保できたことになる。と言っても、平日の昼間なので人も少なく、ほとんど貸し切り状態ではあるが。
「とかなんとか言って、佳生も本当ははしゃぎたいんでしょ?」
水色の日傘を閉じ、悪戯っぽい笑みを浮かべた夏生が、俺の顔を覗き込んだ。
「いや、全然――」
「えーうそだー。昔、あの青々とした海で久々に泳ぎたい、とか言ってたじゃん!」
俺の言葉尻に被せるように、彼女は言い放った。あんまり、というより全く記憶にないのだが、夏生に記憶力で勝てないことはわかっているので早々に観念することにした。
「……はい。言ったかどうかはわからないけど、はしゃぎたいです」
「素直でよろしい。じゃあ、ほら! 私に遠慮なんてしてないで、レッツゴー!」
そう言うと、彼女はドンッ、と俺の背中を押した。ひんやりと気持ちいい感触を肌に感じている間もなく……俺の身体は熱を放つ砂浜へと転がった。
「熱っあっつ! 熱いって!」
「えー、大げさだなぁ」
砂浜の上でぴょんぴょん跳ねる俺を見て、彼女はケラケラとあけすけに笑った。くっそー、俺で遊びやがって。
「いやいやマジだって! なんなら今度は夏生がやってみるか?」
二年以上経っても変わらない彼女の笑顔を見れて嬉しい反面、腹も立ってきたので、俺はビニールシートの上に避難してから一矢報いようと反撃を開始した。
「え! か弱い雪女にそんなことを言うなんて!」
すると夏生は、信じられないっ、とむくれ顔を向けてきた。
「いやいやいや! か弱くないだろ!」
俺は反射的にツッコミを入れた。
夏生と再会したのは四ヶ月ほど前。俺が某大学の医学部に合格したことを報告しようと、残雪光る思い出の場所に行った時だった。
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