第38話 焦り、不安、そして……
「はぁ、はぁ……」
つい三十分ほど前に上った階段を、今度は駆け下りていた。
肺が痛い。息が苦しい。
運動不足の体が悲鳴をあげ、関節がきしんでいるような気がする。
でも、そんなことは今はどうでも良かった。
「夏生……。まさかまだ、探したりしてないよな……」
心の中に次々と生まれてくる不安を押し込めるようにつぶやく。しかし、それが収まる気配はない。
朝、このショッピングモールに来る前に、俺は一度夏生に耐性をあげていた。正確な時間は覚えてないけど、多分九時半か、十時くらい。
そして今の時刻は、午後四時十分。
最後に耐性をあげてから、既に六時間以上が経過していた。
「くっそ。なんであの時……」
なんであの時、さっき会っていた時に、耐性をあげていなかったのか。
気をつけていたはずなのに……。
四階の階段の踊り場につき、重い金属製の扉を開ける。すると、静まり返っていた階段室とは打って変わった喧騒が溢れてきた。
「この階のどこかにいるはず……」
階段室に駆け込む前に、俺は岡本に電話をしていた。佐原さんを見つけたことを伝えるのもそうだが、夏生の様子を知りたかったからだ。でも、夏生と岡本は手分けをして探しているようで、夏生のことはわからなかった。わかったのは、彼女の担当階は一階から四階で、時間的におそらく四階を探しているだろう、ということだけ。
俺はとりあえず岡本を屋上に呼び、佐原さんにもそのことを伝えてから階段室へと飛び込んだ。二人の仲直りも心配だったが、もはや一刻の猶予もなかった。
四階は、雑貨屋が多く建ち並んでいた。お洒落な小物からアクセサリー、時計にメガネなど、いろいろなお店が列をなしている。そしてもちろん、どのお店も多くの人で賑わっていた。
「どうする……?」
これだけの人の中から夏生を見つけ出すのは至難だ。雪女の姿に戻っていたら話は違うが、それは別の意味でやばい。騒ぎになるのは必至、最悪警察を呼ばれてもおかしくない。
俺は、額から滴り落ちてくる汗をそっと拭った。シャツが張り付いて、気持ち悪い。たった数階下りただけなのに、全力疾走した後みたいに心臓がうるさく高鳴っていた。
でも、やるしかない。しらみつぶしに店を回ってでも、なんとしても見つけ出すしかない。
俺はそう心に決め、人の合間を縫って走り出す。
「なぁ? さっきいた子、異様に白くなかった?」
「ああ、確かに。肌もそうだけど、フードで隠してた髪なんか特にな」
そんな会話が聞こえてきたのは、走り出してからわずか三十秒後のことだった。
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