第39話 想う気持ち


 うそだろ、おい。


 心の奥で、得体の知れない何かがうごめいた。

 ウィンドウショッピングをしているカップルたちの間を、謝りながら駆け抜けていく。何か怒鳴られたような気もするが、正直言って今はそれどころじゃない。ごめんなさい、すみません、と心の中で重ねて謝り、なおも先を急いだ。

 イーストストリートと呼ばれる通路を抜けると、開けた場所に出た。東西南北から伸びる四本の通路と、エスカレーターが集まっているホールだ。俺はそのままの勢いで、向かい側に伸びているウェストストリートを目指す。


 なんとか、間に合ってくれ。

 不安、恐怖、焦り……。

 様々な感情が、濁流のように流れていく。

 そこから何とか逃れようと、必死に足を動かす。そして、先ほどの二人組に聞いた空きスペースが見えてきた。

 そこは改修中だというのに、小さな人混みができていた。


「すげぇクオリティのコスプレだな。どんなメイクしてんだろ?」


「あの、店員さん? ここで何かイベントとかするんですか?」


「ちょ、ちょっとお客様⁉ ここで勝手なことをされては困ります!」


「ねぇねぇ、おかあさん。あのおねえちゃん、おめめがあおいよ?」


「あれ見てよ。肌白すぎない? まるで雪女みたい」


「え? あれ? ここってこんなに冷房効いてたっけ? 担当者に確認しないと」


 騒然としている群衆の視線の先には、パーカーのフードを被った見覚えのある姿があった。


「奈々ちゃん……どこにいるの……?」


 震えながらも、透き通った声。

 これだけうるさいのに、なぜか彼女の言っている言葉がわかった。


 うそだろ、夏生……。


 物がいくつも散らばっているその場所で、多くの好奇や警戒の視線が集まるその場所で、彼女はまだ友達を必死に探していた。


「くっそぉ!」


 力任せに人をかき分け、俺は彼女の真っ白な手を掴む。


「こっちだ!」


 突然の乱入者に呆然としている集団を尻目に、俺は西側の階段室へと続く扉を押し開けた。

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