第3話 幽霊と闇鍋

 落書き事件から数日がたった。

あれ以来、霊子は俺に落書きはしなくなった。

しかし、初めて幽霊と出会ってから幽霊の意外な一面に驚かされっぱなしだ。たとえば、幽霊なのに、意外と何かを飲み食いしたり、温度を感じることができたりと、本当に幽霊なのかと疑うことばかりだ。

 また、とてつもないご都合主義なのだが、自分の意思ですり抜けたり、触ることができたりと、なんでもありときた。

そんな日常を過ごしてきた。


 そして今日は霊子からこんな提案が来たのだ。

 「今日、闇鍋しない?」

俺は

 「急にどうしたんだ?」

と驚きながらに言う。

 「今日、テレビで闇鍋をしてる番組があってね。」

「今、意外と人気らしいんだけど。」

と、少し恥ずかしそうにもじもじしながら霊子が言った。

  霊子がもじもじしながら何かを提案することは初めての出来事で少し戸惑ってしまったが、

「なるほど。」

と、納得はした。


 しかし、俺は許可することはできない。

なぜなら、その2人分の食費は俺が捻出しなければならいからだ。したがって俺は、

 「しかし、断る!」

と言ってやった。

霊子は

 「なんでー!?」

と聞いてきた。

俺はさっき言った費用のことを伝えたところ、

霊子は

 「ケチ!」

「ちょっとぐらいいいじゃない!」

と言ってきた。

そこで俺は、

 「ケチの何が悪い!」

「俺はまだ安月給なんだよ!」

と言ったが、言ってすぐに悲しくなった。

しかし、霊子は諦めない。

 「なら、私がスーパーで食材取ってくるわよ!」

と言った。

 「それこそ、許可できねぇよ!」

「お前、絶対、金払わずに持って帰るだろ!」

と俺はストレートに言った。

すると、霊子は

 「テヘペロ☆」

と無駄に可愛く言ってきた。

そして、俺は腹立ちながらも心が折れてしまい、

霊子を連れて食材を買いに行った。


俺のアパートから徒歩10分の所にスーパーがある。

俺たちはそこに向かった。


 「なぁ霊子。」

「お前って家以外のところにもいけるんだな。」

と、俺は少し疑問に思っていたことを言った。

 「何を今更。」

「私ぐらいの幽霊はどこにだっていけるのよ。」

と誇らしげに言った。

 「てっきり、霊子は地縛霊かと思ってたからな。」

と霊子に言った。

 「あんな奴らと一緒にしないでよ!」

「私は自分が死んだこととか諸々理解してるんだから!」

「それに、私ぐらいの霊力のある幽霊はなかなかお目にかかれないんだから!」

と言ってきた。

俺は

 「ふーん。お前はそんなに強い悪霊だったんだな。」

と、言ってみた。

「あんた、私のこと、本気で悪霊だと思ってるの?」

と聞いてくる霊子。

 「うん。」

と即座に答えた。

 「私は善良な幽霊なの!」

「ちょっとイタズラ好きなだけよ。」

と少し頬を赤らめて言った。

俺は心の中で『マジかよこいつ』と思いながらも口にするのはやめた。


そしてスーパーに着き買い物を始めた。

俺は割引のされている食材を取っていった。

しかしいくつかの食材に対して抗議してきた。

 「ちょっと待って!」

「この白菜はダメ!」

「絶対こっちの方が美味しいから!」

と全力で言ってきた。

しかし俺は

「こっちの方が安いからこっちだ!」

と安い方にしようとしたが、霊子が霊力を使おうとしたので、

 「分かった!」

「分かったから力を使おうとするじゃない!」

と言って、少し高い白菜にした。

そして、俺は財布の中身を見ながらもそんなやりとりを何回か繰り返した。

意外と霊子はグルメらしい。

そしてレジに向かい、支払いを終えて帰ることにした。

その帰り道で

 「これで俺の昼飯を少し削らないといけなくなっちまった。」

とぼやいた。

霊子は

 「でもお陰様で、美味しいお鍋が食べられるわよ。」

今までに見たこともないくらい嬉しそうにして俺に言ってきた。

 「美味しくなかったら今回ばかりは心が折れちまうよ。」

とまだ少し不服そうに俺は言った。


 そして家に着き、早速調理の準備に入る。

霊子はすぐにダラけようとしていたので、

 「なんでお前がダラけようとしてるんだ?」

と言ってやった。

 「だって、歩夢が準備したそうだったから…」

その言葉を聞いた瞬間!俺は霊子ににじり寄りながら魔法の言葉(びっくりするほどユートピア)

を呟いた。

すると霊子は

 「分かったから!」

「やるから!」

「私がちゃんと美味しいの作るから!」

と言って急いで調理の準備をしていた。


霊子はかなり手際良く作業を進め、あっという間に鍋が煮立つのを待つだけとなった。


 「霊子って料理できるんだな。」

と俺は感心しながら言った。

 「当たり前じゃない。」

「生きていた時にしっかりと料理やってたんだから。」

と少しムキになって答えた。

そんなことを言っているうちに鍋が煮立ったようで、

 「さぁ、できたわよ!」

と霊子が嬉しそうに言った。

そして、部屋の明かりを消して、自分たちの席に着いた。

「頂きます。」

と2人で言って、鍋の蓋を開けて、具材を取り始めた。

鍋の味はびっくりするほど美味しかった。

 「うまい!」

「霊子、お前やるな!」

と俺は珍しく、霊子を褒めた。

 「そうでしょ、そうでしょ!」

「私が本気を出せばこんなものよ。」

と嬉しそうに言った。

今回ばかりは霊子に感謝しなければならないと思い、鍋を食べ終わった後に

 「霊子、今日はありがとうな。」

と俺は少し恥ずかしげに言った。

 「もっと感謝しなさい。」

と霊子が超絶上から目線で答えた。

それにイラッとしながらも、電気をつけて片付けを始めた。

そしてその時に俺は良いことを考えついた。

 「霊子。片付けをかけてジャンケンをしないか?」

と、俺は提案した。

 「いいわよ。」

「その提案をしたことを後悔させてあげるわ。」

とノリノリで言ってきた。

勝負をする前に俺はしっかりと伝えておくことがあった。

 「ズルは無しだからな。」

「そんなことするはずないじゃない。」

と、自信満々に霊子が言う。

そして片付けをかけたジャンケンが始まる。

「最初はグー、ジャンケンポン!」

俺はグーを出した。

霊子はチョキを出した。

 「お願いだから、もう一回させて!」

「こんなの納得いかない!」

「お願いだからー!」

と半泣きでねだってきた。

俺は心がかなり広いので

 「じゃ、次負けたら絶対にやれよ?」

と言った。

 「はい、もう訂正できないからね!」

「今度こそ勝ってやるわよ!」

全神経を注ぎ込むように集中する霊子。

何故だかすごい覇気を感じる。

そして二戦目が始まる。

「最初グー、ジャンケンポン!」

俺はまたもやグーを出した。

霊子もグーを出してきた。

流石に一筋縄ではいかないらしい。

「ジャンケンポン!」

2人で言う。

そして俺はまたもやグーを出す。

霊子はチョキを出した。

 「なんで、パーを出さないのよ!」

と霊子が悔しそうに言う。

 「何となくだよ。」

「それに俺、ジャンケンで負けること基本的にないしな。」

と加えて言った。

霊子は

「そんなのインチキよー。」

と嘆いていた。

しかし、理由はまだ他にもある。

俺自信、かなりの運の持ち主だと言うことである。

ジャンケンだけでなく、祭りのクジなどでもほとんどの確率で当たりを引いた経験がある。

故に運はかなり良い方だと思っている。

まぁ、そんなこんなで霊子が料理も片付けもやることになり、俺はゆっくりと休み、明日に備えた。



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