第13話 魔女

身体がふわりと浮く感覚がしたあと、気づけばうす暗い通路にいた。


「さて、行こうか」


イルナは恐々とした様子もなく前に進んでいく。


「僕たちも進みましょう。楓さん」

「そうね」


目の前にいるイルナから目を離さず、警戒しながらも楓は前に進んでいく。


まもなく扉が見える。


「ここをくぐれば牢だ」


イルナは持っていた鍵を開けて中に入る。まえに、ダイダンが現れる。棍棒に巨人のような体つきをしている。


「獄長ダイダンか、済まないが通してもらえるか」

「いいぜ、ただし、俺を倒してからな」


ダイダンが棍棒を振り上げる。それを楓が受け止めて、


「行って! 私が引き留めるから!」


それにうなずき、二人は扉をくぐる。


うすぐらい地下牢の中に、ぼろぼろの臆人がいる。両手を背中の手錠にかけられ、鎖で壁につながれている。


ぼろぼろだが元気そう。「どうしてここに!」


そこでイルナを見て、「なんでお前がここに!」と仰天したように言う。


「説明してる暇はない。どうにかここを開けないと。鍵は?」

「悪いが持ってない。ここは魔法を駆使してでも自力で開けるしかない」

「そんな!」


するとイルナが剣を抜いて、牢を斬り裂こうとしてはじき返される。


「びくともしないか……なら魔法を」

「多分同じだ。それより、この奥になんかいるのか?」


臆人はなにかを感じとっているのか、暗い通路の奥底に目を奪われている。


「奥には魔女カーミラの腕を培養した研究施設がある。おまえを助けたらそこでカーミラの腕を消し去る。そうすれば、魔素は元に戻るだろう」

「なるほどな。なら、先に魔女のほうからやってくれねぇか」

「わかった。そなたが言うならそうしよう。純、ついてこい」


イルナと純は奥の扉へ。鍵はあるようで、開ける。


「ここに腕が液体保存されてるはず――」


だが、そこにあったはずの腕がない。しかも、液体はこぼれおち、突き破ったような形跡。


「なにが起こって」


ダルア伯爵登場する。まわりに強そうな部下を引き連れて。


「これで終わりだ。一網打尽!」


心底楽しそうにしているダルアの頭上に、赤く光った目。


「上を見ろ!」

「そんなことして逃げられたら」


そこで両端の部下が二人たおれる。一瞬の静寂のあと、「お前たちなにをした!?」と逆切れ。


「おい、後ろ!」

「だから」


そのとき、カーミラがなにかつぶやいた。そしてダルア以外の兵士が倒れていく。


「なにが起こって」


振り返るとそこには、五体満足の魔女カーミラがいた。目を光らせながら立っていた。


そしてひっかくように手をふりかざす。


「ダルア!」


ひっかきを止めたのはイルナだ。「早く逃げろ、長くもたん!」

「そんな、でも」


敵だった自分をどうしてそんな簡単に助けるのかと。


「王が部下の一人も守れなくてどうする。逃げろ!」


ダルアが走り去ろうとしたとき、臆人が「まてと声をあける」


「ここの牢外してからいけや。持ってんだろ、鍵」

こんなところに持ってくるわけないだろうが!」


絶望する臆人。これでは手が出せない。


カーミラの目が純を剥いた。ゆっくりと近づいてくる。


「逃げろ」と呟いたのは、精鋭の一人。見ると、皆死んでない。


カーミラに睨まれて動えない。そこで、カーミラが泣いていることに気づく。


カーミラが腕を振り上げたその瞬間、臆人はその場に崩れ落ちた。


まだ一時間も経っていないはず、と考えたとき、目の前のカーミラが原因だと悟った。


カサンドラが何かを理解したかのように身体を震えさせる。


そこに現れたのは楓。「なに、腕だけじゃなかったの」と悪態をつく。再生したのかもと。


「殺すしか」

「待って。泣いてるんです、彼女」

「それでも殺さないとあんたが」

「でも、それじゃ、せっかく生まれてきたばかりなのに」

「ゴメンネ……アタシノ……セイ……」


辛うじて聞こえたカーミラの声。カーミラの手が純に伸ばされる。


楓が動こうとして、そのまま待ってと純が制止させる。


カーミラの手から何かが吸われていく感覚。


「コレデ……イイ」

「ありがとう」


するとカーミラは笑った。


「臆人を出してもいい?」


カーミラは頷くと爪で牢を破り、手錠を砕いた。


「すげぇ力だな。ありがとな」


カーミラはすぅっと純の後ろに隠れた。


「え、嫌われたの俺」


その瞬間、部屋全体が揺れる。


「生き埋めにするつもりか。どこまで卑怯なやつだな」

「申し開きもない」


臆人がカーミラのほうを向いて、「おい、この天井破って地上に出られるか」と聞くと、無視。


純が同じ質問をすると頷く。「こいつ……」と臆人がいらつく。


四人で乗ろうとして、転がってる兵士もと純。


「甘すぎだろ」と嘆息。


カーミラは翼を広げ、全員を包むと地上へ。



ダルアが玉座でふんぞりかえってる。目の前に穴が開いて、純たちとカーミラが出てくる。


顔をひきつらせ、「どうなってるんだ」と。


「どうもこうもねぇよ」


臆人は剣を抜いて、ダルアに向き直った。ダルアがやめてくれ、とぶつくさ。


「殺しはしない。お前は、ここでたっぷり自戒しろ」


純が一撃入れる。そして最後にイルナ。「性根を叩きなおす」


悪、破れたり!






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