43日目 緊迫する死神
『あくまでも向かってくるなら容赦はしませんよ!』
「馬鹿なことを! そんな細腕で何ができる!」
「女を殺すのは忍びないが、立ちはだかるなら死ね……!」
カン! キン!
「何!? こいつ……」
『えい!』
カンカン! ドカッ!
「ぐふ!?」
「動きに惑わされるな! 囲めぇぇ! 王子が見ているのだぞ!」
『ふっ! やあ!』
「はあ! そら! でえい!」
鎌を振るナイアは騎士達相手に奮闘していた。だが、戦闘するのが死神の本業ではないので、徐々に押され始める。
『えーい!』
「馬鹿め、甘いわ!」
ドシュ!
『う……』
騎士の剣が背中からナイアへと刺さり呻く。
「はっはあ! やりましたよ王子! さ、い――」
『――かせませんよ!』
「ぐへ!?」
鎌で無防備な首を叩かれて昏倒する騎士。それを見た他の騎士や、クラティスが動揺を見せる。
「な、何故だ……!? 今背中から腹に剣が突き抜けていただろう!?」
『はあ……王子、忘れてはいけませんよ。私とナイアは死神……物理的な要素で死ぬことはありません』
「何!? ではクレル、お前ならやれるのか!」
『ええ、それはもちろん』
「なら行け、魂を喰らいたいのだろうが!」
クラティスが激高するが、クレルはザッと一歩飛びのきニヤリと笑う。
『私との賭けに勝った願いは『カリンさんを手に入れるために力を貸せ』ですよね? ただし、それはあくまでも人間達に関わる場合のみです。催眠術をかけるのもいいし、誘拐もいいでしょう。しかしナイアは死神。死神同士が争うことは冥王様に止められていますので手は貸せません』
「ば、馬鹿な、こいつを倒さねばカリンは手に入らないぞ! それでは契約違反では無いか」
『それは王子の都合でしょう? 私にも私の都合があります。冥王様に消されたくありませんからねえ』
「それを言わなかったのは何故だ!」
『聞かれなかったからですが? まさかナイア……死神がカリンさんに憑いているとは思いますまい? それに記憶を取り戻しただけでも御の字では?』
クレルはぬけぬけとそんなことを言い、肩を竦めるクレル。クラティスは歯ぎしりをしながら睨みつけるが、クレルも死神のため殺すことはできない。仕方なくナイアへ向き直り、ぼそぼそと騎士達に号令をかける。
「……四人でその女を足止めしろ。その間に私と残りで走る。そいつはこちらを殺せないようだ、やりようはあろう」
騎士達が無言でナイアを囲みはじめると、ナイアはクラティスに向かって言う。
『……もうお帰りいただけませんか? 今なら何も無かった、ということでカリンさんもこの国の人もあなたを酷く裁いたりはしないでしょう。『ちょっと間違っちゃった、ごめんなさーい☆』で済みます』
「済むか! もう止まれないのだ、油断している王族を始末してカリンをいただく!」
わっと騎士達が襲いかかると、ナイアは悲しげな顔をして鎌を握りしめた――
◆ ◇ ◆
ナイアがクラティスと話しているその時、ブリザを背負ったアジーンが城の裏口を叩いて叫んでいた。
「誰か! 火急! 火急である!」
「アジーンか……!? ずぶ濡れでは無いか、一体どうし……ブリザ様!?」
転がりこむように中へ入り、ブリザを降ろしながらアジーンは苦痛に呻く。足の痛みがぶり返してきたからだ。しかし、ちょうど戸締りの確認をしていた執事の男の足を掴み、縋るように口を開く。
「た、頼む! 国王様達に知らせてくれ、クラティス王子が奇襲をかけてきたと! ブリザ様は操られて……うぐ……」
「わ、分かったから喋るな! ……あわわ、えらいこっちゃ……!」
◆ ◇ ◆
「ブリザ……」
そろそろ寝ようかな、と思っていた矢先、国王様のもとへ執事さんが慌てた様子で国王様の部屋を叩き、私達も集められ、話はあっという間に全員に知れ渡った。ブリザは応接室のソファに寝かされ、アジーンという男性もも苦痛に呻きながら寝ていた。そこへリチャードが深刻な顔で国王様に話しかけた。
「父上、こちらからも出向きましょう。城に侵入されると人質に事欠かない状況になります。俺が出ますよ」
「ならん。お前は結婚を控えている身、騎士達を派遣するのだ」
「……いえ、相手がクラティス王子ならここで引導を渡すべきかと。あ、もちろん殺しませんよ。ただ、徹底的に叩きのめしますけどね。この件で向こうに借りを作る事もできますし」
「大丈夫なの、リチャード……」
「これでも剣には自信があってね。大丈夫、騎士達もいるし」
少し不安だ。相手は転生者である初場であり、クラティスだ。どんな手を持っているか分からない。そういえばブリザを探しに行ったナイアはどこに行ったのかしら、まさか……そう思っていると、アジーンが脂汗をかきながらこちらに告げる。
「はあ……はあ……そうだ、ここに帰る途中騎士に追いつかれたんだ。だけど、フードを被った女性に助けられた……あ、あの人はクラティス王子の元へ行くって……セロとトレスも心配だ、い、いかねぇと……」
ドサリ、とアジーンがソファから転げ落ちる。私は慌ててアジーンに近づき、ソファに戻しながら尋ねる。
「フ、フードを被った女性って、けっこうな美人じゃなかったですか!?」
「ふう……ふう……あ、ああそうだ……知っているんですかい……?」
ナイア! あの子一人でクラティスのところへ行ったんだわ!?
「……!」
「どこへ行くんだカリン!」
「行かないと! その女の人、私の友達なの!」
「友達……? しかし、一緒には来てなかったじゃ……」
「話は後! 急がないと!」
私が走ろうとして立ち上がると、リチャードが困った顔で手を掴んできた。
「うーん……置いていっても出て行きそうだし、これで恨まれても困るしな。よし、俺と一緒に行くぞ。決して離れるなよ?」
「リチャード……。うん! ごめんね、わがまま言って!」
「はっは、そういうところに惚れたんだ、仕方ないさ。ただ、無茶はするな」
私はコクリと頷き、身軽な格好に着替える為部屋に戻る。この間にリチャードが出て行く可能性もあったけど、きちんと彼は待っていてくれた。三十名ほどの騎士達も城の入り口できれいに整列していた。
「雨の中すまない、賊が入り込んだらしい。迎撃に向かうが、殺すなよ? これは命令だ」
すると無言で騎士達が敬礼をし、ガシャガシャと出て行く。それに続き、私とリチャードも外に出て馬にまたがった。
「ナイア……!」
そして――
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