34日目 フィアールカの人々
――フィアールカ
豊富な鉱山資源がある山々に囲まれた天然の要塞とも言える地形からなる国で、戦争があった時代は武器の量と、攻めにくい地形のおかげで私の産まれたマルクウ王国に勝利できたらしい。
「ノーラス侯爵ご一家様ですね? お待ちしておりました。私はこの国の王ベルタース。長旅でお疲れでしょう、本日はごゆっくりお休みください。お前達、粗相の無いようにな」
「ご厚意いたみいります」
私達が到着すると、入り口まで出てきて挨拶をしてくれた国王様にびっくりした。柔和な笑顔の人の好い方だなと思うと同時に、カシューさん……リチャードさんにも似ていると感じた。続けて横に立っていた女性、私と同じくらいかな? その人が前へ出て挨拶をしてくれた。
「……お兄様に代わりご挨拶させていただきますわ。わたくしはブリザ。兄リチャードの妹になります」
「カリン=ノーラスです。この度は突然のご訪問に応じて頂きありがたく存じますわ」
「いえ、そのような小さいことでフィアールカは目くじらを立てませんわ、おほほ……」
口では笑っているが目は笑っていない……敵意をむき出しにしてきたわね? しかしこちとら27歳のOL。小娘の威圧くらい屁でも無い。そんなことを考えているとナイアがこっそり話しかけてくる。
『侯爵相手に国王自ら出迎えなんて珍しいですね』
「本当ね。あら?」
お父様、お父様が挨拶をしている中、ブリザの足元でもじもじしているミモザと同じ歳くらいの男の子が居た。顔つきはブリザに似ているが、雰囲気はリチャードさんかな?
「こんにちは! 私はカリンよ。ほら、ミモザも挨拶しよ?」
「はい! ミモザ=ノーラスです、こんにちは! あなたのおなまえは?」
流石はウチの妹。物怖じせず、ブリザの足元にいる男の子が顔を赤くして顔半分だけ出して答えた。
「……ぼ、僕はエドアール、です。よろしく……」
するとブリザがため息を吐いて、スカートを掴んでいたエドアールを前へ持って来る。
「すみません皆様。この子、人見知りが激しいんですの。ミモザさんははきはきとしているのに……」
「あ、う……」
ミモザを前にしたエドアールが硬直していると、ミモザはニコッとしながら首を傾げる。
「?」
「~!」
すぐにスッとブリザの後ろに隠れてしまった……凄い人見知りねえ。
「この子は……!」
「まあまあ……」
「ははは、仲良くしてやってくれるかいミモザちゃん」
「はーい! あっちのお庭に行きたいー!」
「いいとも。ほら、案内してあげなさい」
「う、うん……」
国王様に言われて、ミモザの手を取り、渋々庭へと歩いていく。困った顔でメイドさんも数人ついて行くのを見て、いつもこんな感じみたいだと思った。
「(ミモザを見てやってもらえる? こっちは多分大丈夫そう)」
『わかりました! うふふ、可愛いですねえ』
テテテ、と二人の後を追って行くナイアを尻目に、私達はお城の中へと案内された。
「それではお食事までごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます!」
お父様とお母様が同室で、私とミモザが同室という割り振りになった。ナイアとミモザは外なので今はひとりでベッドに腰掛けている。
「後はなるようにしかならないけど、どうしようかなあ。あのブリザって子が私に対して敵意がある。となるとそこを起点にしてお断り……?」
一応、私の策としてリチャード王子には『クラティス王子に申し訳がないし、他国を治められると思えない』という建前を使い、クラティス王子には『一瞬でも向こうに心揺らいだ女』と言って辞退するつもりだ。これならどちらとも結婚しないので、理想の婚約破棄になる。そう考えていた。
「後はリチャードさんの真意が知りたいかな……」
カシューさんとして出会ったのはたった二回。それでこの話を持って来るのは裏があるように思えてならない。だから慎重に言葉を選ぶ必要があるとも思っていた。
「どうしてこんな面倒なことに……」
ナイアとの賭けに勝ったのに何か振り回わされているなあ。そんなことを考えていると、扉がノックされた。
◆ ◇ ◆
「……」
「……」
『……』
一方、庭に向かったミモザとナイアは気まずい空気が流れていた――
「エドアール君、遊ばないの?」
「う、うん……その前に聞きたいんだけどいいかな……」
「うん?」
ミモザが首を傾げると、エドアールは恐る恐る口を開く。
「そのお姉ちゃん、誰?」
「え? エドアール君、ナイアおねーちゃんが見えるの!」
『あらあら』
興奮するミモザに困惑するナイア。するとエドアールを撫でながらナイアは優しい顔で言う。
『あなたも心優しい子なのね。わたしはナイア、ミモザさんのお友達です。でも他の人には見えないから内緒にしてね?』
「見えない……?」
「うん。ナイアおねーちゃんはわたしのおねーちゃんを守る死神さんなの! 知られたらおねーちゃんが危険になっちゃうからシーよ」
ミモザが少し遠くで見ているメイドさん達をみながら指を口に手を当てて耳元で囁く。エドアールは顔を真っ赤にして今の言葉を反芻して答えた。
「二人の秘密……うん、分かったよ! えっとミモザちゃん、お庭を案内するね!」
「はーい!」
『うふふ、純真な子供はいいですねえ』
ナイアは二人が庭で遊び始めたのを目を細めて笑っていた。
◆ ◇ ◆
「はい……?」
扉を開けるとそこにはブリザが立っていた。ニヤリと笑うと、部屋へずかずか乗りこんできた。まあ別に彼女の城だからいいんだけど。
「少しお話をしたくて参りましたの。お時間はよろしくて?」
「ええ、夕食まですることもないからミモザのところへ行こうかと思ってました」
「そうでしたか」
それだけ言うと椅子に腰かけて私を招く。
「……ハッキリ申し上げますと、今回の話はわたくし反対ですの。家柄はいいですが、隣国の者にこの国が治められるとは思えません」
「あーそうですね。私もそれは思います。できればリチャードさんには諦めて欲しいんですよね」
「そうでしょうそうでしょう……って、どういうことですの!? ……ふ、ふふ、そうですか、そういえばあなたには婚約者がいると聞いています。そちらをお選びになるのですね、なら安心ですわ」
「うーん、そっちも興味ないんですよね」
「興味がない!? あなた一体なんなんですの!」
フラウラに似てるなーと思う。
敵意はあったけど、結構面白い人かも……リチャードさんとの結婚に反対なら協力してくれるかも? 思い切ってリチャードさんのことを話してみるか。
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