33日目 フィアールカへ!



 ――カリンが国王達とわちゃわちゃやっている時、ナイアはクレルと対面していた。憶測を擦り合わせるため、ナイアは質問を繰り返していた。



 『あなたがクラティス王子に近づいたのは偶然ではない、そういうことですね』


 「ご名答だ。賭け自体はまだ終わっていないからあの男を刈り取ることはできないが」


 『終わっていない……一体どういう内容を……』


 死神の賭けは当人同士が決めたルールに従い勝敗が決まるため、カリンの『20歳までに記憶を取り戻す』というのは一例にすぎない。この二人がどういう賭けをしたのか知ることができれば牽制になるかもと尋ねてみるが、


 「それは言えない。まだお前達にも関わるだろうしな。そっちはどうやら記憶を取り戻しているみたいだな」


 ナイアは顔を顰めてニヤッと笑うクレルを見ながら話しを続ける。


 『……そうですね。しかし初場 桐。いえ、クラティス王子が記憶を取り戻すのは避けたいところです』


 「私はどっちでも構わないんだがな。お前だってそうだろう? 魂を喰らい、浄化することで我々は自分の罪を減らしていく必要があるなら使える者は使うべきだ。賭けに勝とうが負けようが我々次第でいくらでも現世から回収できる」


 『だけど、彼等はそれを良しとしないでしょう。消されますよ?』


 「やりようはある。お前のようにお優しい死神には分からんだろうが――おっと、ここまでのようだ。王子が帰ってきた」


 クレルが扉に目をやると、言うとおり扉からクラティスがビルと共に戻ってきたところだった。


 「……カリンめ……私との婚約は気にいらないような口ぶりを……」


 「落ち着いてください王子。彼女は以前と違いすぎます。別の妻を娶ることもお考えした方がよろしいかと思いますが……」


 「うるさい! ダメだ……カリンで無ければ……!」


 くっくと笑いながらナイアの横に立ちクレルが言う。


 「記憶は無いのにこの執着。本人も何故かは分かっていないだろうな」


 ゴクリと喉を鳴らすナイア。どうしてそこまで……そんな思っていると、クレルが陰気な顔に戻り、クラティスへと話しかける。


 「……私は、どうすれば良いでしょうか……?」


 「チッ、お前か。そういえば置いたままにしていたか……今日は部屋に戻っていい。また機会が来たら呼ばせてもらう」


 「は……(行くぞ)」


 『え、ええ……』


 死神二人が部屋から出て行き、部屋の外で向かい合わせに立つと、一つ向こうの廊下にカリンやフランが歩いているのが見えた。


 「くっく、また会おうじゃないか」


 『あ! まだ話は――』


 


 ◆ ◇ ◆



 『ということを話してました』


 ――夜、私の部屋でナイアが昼にクレルという男と何を話していたのかを教えてくれた。驚愕な事実が満載で、どれから驚いていいやら分からない。


 「催眠術にかけられていたのは全然覚えていないわ……それに……うむむ……まさか王子があのストーカー男とは……というかあいつ、私を殺して逃げ出したんじゃないの?」


 『その後、何かしらの要因で亡くなったのかもしれませんね。流れとしては、佳鈴さんの遺体が見つかる報道の後、会社で追悼の何かがあって、バレてないけど罪の意識から『そんなつもりはなかった……』とか後悔しながら首を吊ったのではないかと』


 「見てきたようなこと言うわね……というか生々しいわ! まあ、これでクラティス王子との結婚は100パーセントする訳には行かなくなったわね。彼に記憶が無いのが幸いか」


 となると、リチャード王子との婚約話を足掛かりにするのがいいか。一応、この後どうするかも決めているから問題は無い。


 「とりあえず明日はお父様とフィアールカへ行くことになったからよろしくね」


 『はい。クレルやクラティス王子については今のところできることはありませんし、考えなくてもいいと思います。そうと決まれば……ご飯を食べましょう! 冷めちゃいます!』


 かつ丼を前にしてうずうずしていたナイアがいよいよ我慢できなくなり涎を垂らしていた。




 そして翌日――



 「そろそろ出ようか。フィアールカにつくのは今からでても夕方だ」


 お父様がきちっとした服を着て私に言う。朝早いけど、アリコの街からまだ向こうだから早ければ早いほどいい。支度はできているのでいつでも出られる。来賓室から出た後、急いでアポを取ったのだが、昨夜遅くにOKをもらえたのは良かった。ごめんなさい使者の人……



 「そうね。話は早い方がいいし、行きましょうか」


 私が頷くと寝間着姿のミモザがふらふらと歩いてくる。


 「ふああ……おねーちゃんどこか行くのですか……?」


 「おはよう。ちょっとお出かけしてくるわね」


 私の「お出かけ」というのを聞いて眠そうな目をパッチリ開けるミモザ。


 「お出かけ! ミモザも行きたいです!」


 「ごめんよ、大事なお話だからミモザは――」


 と、お父様が頭を撫でるが、ミモザはさらにヒートアップする。


 「ミモザをなかまはずれにするんですか? 行きたい行きたい行きたい! うわあああああん」


 『うーん、またパフェやケーキが食べられると思っているのかもしれませんね』


 困った顔でナイアが言う。お父様が抱っこしてあやすが、行くと言ってきかない。


 「お父様、危険もありませんし連れて行きましょう。私が責任をもって面倒を見ますから」


 「う、ううむ……相手は王族だしなあ……」


 するとお母様が泣き声を聞きつけ、広間から顔を出しお父様へ向かって口を開く。お母様も一緒に行くのでおめかししている。


 「いいじゃありませんか。ミモザも大きくなれば社交界デビューをすることもあるでしょうし、連れて行くのは勉強になるかもしれませんよ? 考えてみれば一人置いていくのも可哀相よね」


 「うんー、お勉強するの」


 ミモザがすんすんと鼻をすすりながら生意気なことを言い、私は笑いをこらえながらお父様へもう一度訪ねた。


 「大丈夫ですよ、リチャード王子はミモザを知っていますから喜ぶと思いますよ」


 「そ、そうなのか……? なら連れて行くか……すまないがミモザを着せ替えてくれ」


 お父様がそう言い、メイヤが衣裳部屋へ連れていった。


 「えへへー」


 しばらくして満面の笑みで余所行きの服をきたミモザが帰ってきて、私達一家は一路、フィアールカを目指す! うまくおさまるといいけどなあ……





 ◆ ◇ ◆




 「何か報告があるそうね?」


 フィアールカの姫、ブリザが三人組を前にして口を開く。調査をするため三人を放った後、ようやく報告が上がってきたのだ。


 「ええ、リチャード様は隣国へあのカリンという娘と結婚したいとお願いにいきましたぜ」


 「な!?」


 「で、明日にでもここに挨拶に来るそうです」


 「に!?」


 「さらに、カリンさんが結婚してもしなくても鉱山の使用権は隣国に与えられるらしいですぜ」


 「ぬ!? あなた達は何をやっていたのですか! お兄様を止められなかったんですの!」


 ブリザが激高すると、男達は顔を見合わせてから逆に尋ねた。


 「いや、どうにもできないでしょう? 我等がやめてくれと言ってやめる訳もありませんし、そもそも内密で動いているからバレたら姫の株が下がりますよ?」


 「ぐぬぬ……」


 正論を言われて口をつむぐブリザ。


 「おのれ……カリンとかいう娘……お兄様を誑かして……お兄様と結婚するのはわたくしですわ……!」


 「いや、実妹は無理ですって」


 男の一人が「ナイナイ」と手を振るが、ブリザはヒートアップして叫んだ。


 「こちらに来るなら好都合です! ……いじめてやる! いじめて追い返して差し上げますわ!」


 止めた方がいいと思うけどな、と三人は思っていたがまた怒鳴られるのも面倒なので黙っていた。

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