27日目 大荒れの予感?
「カリンさん、こちらですの?」
私がそろそろ王子に面会をする必要があるかなと考えていたその時、フラウラがクラティス王子を連れて部屋の扉を開けて声をかけてきた。王子は部屋の中を見渡した後、ナリィさんに向かって言う。
「すまないけど、あなたは外してくれるかな?」
「……かしこまりました。あっちに行きましょうミモザちゃん」
「うん!」
ナリィさんはケーキのお皿をお盆に乗せ、ミモザの手を引いて部屋を出て行く。入れ替わりにクラティス王子とフラウラが入り扉が閉じられた。
「どうなさいましたかクラティス様。それにフラウラ嬢も」
お父様が立ち上がって尋ねると、王子はソファに座りながら口を開く。
「まあ、座ってくれると助かる。カリンにフラウラ君も。先程、赤い目をした男と一緒にカリンがいたと報告があってな」
「ふむ、そうなのですか、申し訳ございません……。カリン、婚約中の身なのだから王子以外の男と一緒にいるなど許されんぞ?」
「う、ごめんなさい……でも前に助けてもらったからお礼しただけですよ……」
お父様に叱られる羽目になる私……
『でもケーキ屋さんに連れ込んだのは紛れも無くカリンさん……』
「(破廉恥な人みたいに言わないでよ!?)」
ナイアのツッコミを返しつつ、王子の言葉に耳を傾ける。
「あまり好ましくないが、今回はそこが問題ではない。一緒にいた男の素性が問題なのだ。あの路地裏でシアンという娘を助けに行った時、そして今回街でカリンと一緒に居た男は……隣国フィアールカの王子リチャードなのだ」
「あ、さっきフラウラさんに聞きましたよそれ」
ガクッと崩れる王子。
「そ、そうか。そういうことは先に行ってくれフラウラ君」
「も、申し訳ありません」
「しかし、かの王子は外に出られないというお話でしたが……?」
お父様はその辺りの事情を知らないのでスルーし、クラティス王子へ知っている情報を述べる、すると首を振りながら返事をした。
「そうだ、ラウロ侯爵の言うとおり外に出ることは許されていないはず……しかしあの赤い目は間違いなくリチャード王子のはず」
「そうなんですね……でも悪い人では無さそうでしたよ?」
「それはそうかもしれませんが、隣国の王子があちこちで見つかっているのが問題なのですよ? 別にどこの国の人間が歩いていても構わないですが、お忍びでウロウロする王族は大抵なにかを企んでいるものです」
「あ、それもそうか」
戦争の下準備で弱そうなところを狙うとか考えられるので、フラウラの言うことは納得が行く。でも真の理由は分からない。
「クラティス王子はどうお考えですか?」
「正直目的が分からないから何とも言えない。だが、二度目ということで警戒は必要だ。なので一応、フィアールカに書状を送り内情を聞くことにすることにした。カリンも警戒をして、彼に会ったら何とか言い訳を見つけて退避してくれるかい? というより今日みたいに出歩かないで、兵士でも連れていてほしい」
えー……そんなことしたら周りが怖がって楽しくお買い物ができないじゃない……しかし、ここは頷くしかないと思い、口を開く。
「分かりました。もし何か分かったら連絡しますね」
「……それで構わない。カリンともう少し話したいが、今の話を父上にも話さないといけない。私はこれで」
話しは終えたと立ち上がるクラティス王子に、私はポンと手をうって手を付けていない私のケーキを差し出す。
「あ、クラティス王子、このケーキ有名なお店のやつなんですけどいかがですか? 頭を使うには甘いものがいいですよ!」
「……いや、遠慮しておこう。また会おうカリン」
さっさと部屋を出て行くクラティス王子を、私達はポカーンと口を開けて見送った。
『結構効いてますかね?』
「ほ、ほほほ……カリンさん、嫌われましたかしら? あの目を見ましたか? 愛を感じられませんでしたわ!」
「そうねー。ありがたいことになってきたかしら」
「え!?」
「それじゃお父様、さっきの話もあるし、日が暮れないうちにそろそろ帰ります!」
「お、おお、そうか。というかクラティス様にあれでいいのか……? し、しかし隣国の王子とはな。二度会ったのも偶然ではないかもしれない。気を付けて帰るんだよ?」
「うん、ありがとうお父様! フラウラさんそういうことだから家まで乗せて行ってよ」
そう言うと、私の「ありがたいこと」発言に固まっていたフラウラがハッと我に返った。
「ハッ!?ど、どうしてわたくしがそのようなことを……」
「ミモザもいるわよ」
「家へお連れしますわ」
『ちょろいですね!』
そんなわけで私達は王都を後にし、今日のところは家へ帰った。帰りの馬車でうとうとしたミモザに萌えるフラウラが微笑ましい以外は特になにも無く、カシューさん……改めリチャードさんが追ってくるというような事も無かった。
まあ、国同士のことだし私には関係ない! クラティス王子との婚約破棄に向けてまた平和な学院生活に戻れると思ったのだけど――
◆ ◇ ◆
「見失った!? あなた達は一体何をしていたのです!」
「は……申し訳ありません。途中までは気付かれていませんでしたが、気付かれた後はすぐに姿を消されまして……」
「言い訳はいいです。連れて行きなさい」
リチャードを追っていた三人の男達が、目の前にいる豪華な衣装を身にまとった女の子の命令で騎士達に運ばれようとしていた。その内の一人が慌てて口を開く。
「ま、待ってくれ! ……いや、別に殺されたりしないってのは分かってるんだけどな。一ついいことを教えてやるぜ。あんたの大事な人は、街で女の子とケーキを食べていた――」
その言葉に目の前の女の子の耳がピクリと動き、振り向く。
「詳しく」
「へへ……そうこなくっちゃな……あの男は楽しそうにケーキを食べ笑っていた。女の子の妹を肩車して、まるで家族みた痛いっ!? でも気持ちいい!?」
「くっ……聞かなければよかった……! 私の大事なお兄様が馬の骨とも知らぬ女と仲良くしていたなんて……」
大事なところを蹴られた男が悶絶しているのを見ながら悔しそうに呟く女の子。それにもう一人の男が挟む。
「あ、侯爵家の娘さんだから馬の骨ではないっすよ。ちらっと聞こえました」
「あ、そう。……ぐぬぬ、お金でお兄様を誑かしたに違いありません……」
「いやいや、今日会ったのも偶然ですし、侯爵家と知ったのもさっきが初めてっすよ? ありえねっす」
「そ、そうですか……もうなんでもいいから許せません! ……いいでしょう。もう一度あなた達にチャンスを与えます。お兄様の監視をして、虫がつきそうなら報告なさい。あと、楽しそうに喋っていたという女の素性を詳しく調べなさい」
「ちょ、調査料はいかほどいただけるんで?」
「私のお小遣いから出します行きなさい」
「「アイアイサー!」」
「あ、こら勝手に城内をうろつくんじゃない!?」
二人は悶絶した一人を引き連れて部屋を出て行った。それを慌てて騎士が追いかけるのを見届け、女の子は一人ごちる。
「ようやくお兄様が陽の目を見れる環境を整えたのに、嫁さがしに行くとかあり得ませんわ……! うふふ、お兄様は私のもの……このブリゼ、虫を払って差し上げましょう!」
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