26日目 ミモザ無双


 <スフェラ城>



 フラウラの馬車に乗ってゆっくりと城へ向かい、間もなく到着する私達。馬車から降りると、ナイアが突然声をあげた。


 『あ! わたし用事があったのを思い出しました。カリンさん、わたしはここでお別れです』


 棒読み! ちょっとは演技しなさいよ!


 「あ、そうだったわね。ごめんね、本当は一緒だったんだけど……」


 『大丈夫です。それではまた』


 「ナイアおねーちゃんはどこか行くんですか?」


 『また後でね』


 カクカクと変な動きと棒読みを繰り返しながらミモザに手を振って外へ出て行くナイア。恐らく姿を消して後をつけて来てくれると思うので、ミモザに耳打ちしておく。


 「(ミモザ、後からナイアが出てくると思うけど話しかけちゃダメよ? 姿を消してるから)」


 「(わかりましたー)」


 コクコクと頷き、ミモザは両手で口を押さえる仕草をする。かわいい。私の顔がだらしなくなっていると、フラウラがナイアを目で追いながら話しかけてきた。


 「……そういえば普通に着いて来てましたけど、どういうお友達なんですの? 学院で見かけたことはありませんが……」


 「あ、あー! 彼女、このあたりのお姉さんなの! 最近知り合ってね、たまに顔を合わせるのよ」


 「そうですか。まあシアンさんのような方もお友達でいらっしゃるから不思議ではありませんね。わたくしはお父様に先程の件を相談し、王子へ報告してきますわ」


 「分かったわ」


 「またねー」


 「ああんもう、かわいい! またですわミモザさん!」


 私自慢の妹にメロメロなフラウラは名残惜しそうにその場を立ち去り、同じく従者たちも会釈をしてその後をついて行った。

 

 「それじゃ行こうか。ミモザはお城、初めてだもんね」


 「うん!」


 私とミモザがお父様の仕事場へ歩き出し、しばらくしたところで後ろから声がかかる。


 『戻りました!』


 「あ、おかえりナイア。迷わなかった?」


 『大丈夫です! 迷いそうだったから急いで姿を消して慌てて走ってきました!』


 無駄なところで努力をするなあ……


 「まあもう少し歩いたら待つつもりだったから大丈夫だったけどね? こっちよ」


 「わくわく」


 お父様の仕事は財政なので予算や税金の管理をしている重要な役職だったりする。侯爵だからこそ、というのはあるけどね。

 仕事場が近づくとだんだん人が増えてくる。他にも環境保全をする部署など、仕事をする部屋がたくさんある区画なので、仕事をしている人とすれ違うことも多い。


 『お城に仕事場を作ってるんですね?』


 「そうね。地球みたいに役所を作るとそこを襲撃された時損害が出るからってこうしているみたいよ。城なら落とされないっていう自負があるからだと思うけど」


 ナイアとそんな話をしながら、そろそろお父様の部屋が近くなってきた。そこへ私に声をかけてくる人物がいた。

 

 「あれ? カリンちゃんじゃないですか!」


 「あ、ナリィさん。お久しぶりです」


 茶髪三つ編みメガネの彼女はナリィさん。


 お父様と同じところで働いている人で、私が小さい頃ここに連れてこられた時に可愛がってくれていたのでよく知っている。もう30半ばくらいの年齢のはずだけど、童顔なので若く見える。


 「どうしたの? ラウロ様はまだお仕事中だけど? それとその子は……」


 「この子は妹のミモザです。ご挨拶しなさい」


 「こんにちわ、ミモザです!」


 「こんにちわ。初めまして! そういえば産まれたって聞いてから一度も連れて来てなかったわねラウロ様……可愛いわねー」


 「えへー」


 やはり人気者のミモザが頭を撫でられてご満悦だった。私はナリィさんへここへ来た経緯を話す。


 「最近できたチーズケーキのお店に行ってきたんです。で、みんなで食べて欲しくてこれを……」


 ケーキの入った箱を差し出すと、ナリィさんが目をぱちぱちさせた後、箱を掲げて叫んだ。


 「嘘!? 連日並んでいて、私が帰るころには売り切れているあのお店のやつ!? 嬉しいー! それじゃお茶の用意をしないとねー。あ、ラウロ様はいつものところよ!」


 「あ、私達はの分はいいですからねー!」


 はーい! と、手を振りながらあっというまに消え、私達は取り残される。相変わらずだなと思いながら、お父様の居る部屋をノックした。


 「どうぞ」


 「お父様、ごきげんよう!」


 「ようー!」


 「おお! カリンにミモザじゃないか! どうしたんだ!」


 私達が執務室へ入ると、私達の顔を見たお父様が笑顔で立ち上がってミモザを抱っこし、私の頭を撫でてきた。


 「ふふ、私はもう子供じゃないよ? 急にきちゃったけど、忙しかったらごめんなさい」


 「何を言うか! 私にとってはいつまでも子供だよ? そういえば街へ行くと行っていたな。まさかこっちに来るとは思わなかったよ。一区切りしていたところだから問題ない! もし仕事があってもお前達を優先するさ」


 それはダメだと思うけど、お父様らしいと思い苦笑しながら返答する私。


 「なら良かったわ。たまにはいいかなって思ったの。ミモザは初めてだし。後、ナリィさんにお土産を渡したからもうすぐ――」


 と、お父様へ話しているとナリィさんがお茶とケーキを持って入ってきた。


 「失礼しまーす! ラウロ様、お茶の時間です!」


 私達は食べたので


 「ん? ほう、これはケーキか?」


 「ケーキなのー! 美味しいよー。あーんしておとうさま」


 「お? はは、これは恥ずかしいな。あーん」


 「おふう……可愛い……私もこんな娘が欲しい……」


 ナリィさんが悶絶していると、お父様がもぐもぐしながらニヤリと笑う。


 「ふむ、ナリィ君はカーツ君と――」


 「わーわー!? ど、どうして知ってるんですかラウロ様!?」


 「え!? カーツさんってあの冴えない感じの……」


 「な、何を言うんですかカリンちゃん! って、さっきも思ったけど、雰囲気が――」


 「それより、カーツさんとのこと聞かせてよー」


 「なななな……そ、それよりカリンちゃんも王子との婚約が噂されてますよ! どうなんです?」


 「う、嫌なところを突いてくるわね……ナリィさんが話してくれたら……」


 「くっ……カリンちゃん……恐ろしい子になったわね……!」


 「はっはっは。あーん」


 「あーん!」



 『ふふふ、面白い人ですね!』


 多分あんたには言われたくないと思うけど……そんなこんなで私達は楽しいティータイムとなった。


 王子へ報告に行ったフラウラはどうしたかしら? 私も顔を合わせておくべきかなと考えていると――

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