20日目 お弁当作り



 「お嬢様が料理……?」


 「ええ、明日クラティス王子にお弁当を持って行こうと思って! 厨房使わせてね」


 「それは構いませんが奥様はご了承しているのでしょうか。万が一火傷など負ったなどあれば僕が大参事になります」


 と、弱気な発言をするのはウチのコック長であるエッジである。するとスッと影からお母様が顔を覗かせて声を出した。


 「私も思うところはあるのですが、頭を打ってから婚約破棄を言い出したりしていたカリンが王子のために何かをするというのを嬉しく思ったの。エッジ、お仕事があるでしょうけどカリンのお手伝いをしてあげて?」


 「なるほど、そういうことであれば分かりました。お嬢様、僕に出来ることがあれば言ってください」


 「ありがとう! それじゃお母様、後で味見してくれる?」


 「もちろん味見させていただきます。王子に変なものを食べさせるわけにもいきませんからね? でも、さっきも言ったけど注意しなさいね?」


 なるほど……あえて変なものを食べさせて嫌がらせするのもアリ……お母様やるわね……! それだけ言ってその場を後にする。立ち去ったのを確認した後エッジが私へ振り向き尋ねてきた。


 「では、お弁当と言うことですがやはり無難にサンドイッチでしょうか? ハムやチーズはありますから――」


 「ううん、作ってみたいお弁当があるから厨房を使わせてくれればいいわ。食材はここよね?」


 「え、ええー……」


 夜、ナイアの食事を作っている私に隙はない。テキパキと用意しているとエッジが困惑していた。すると今晩、私達の夕食であろうステーキ肉の前でナイアが涎を垂らしながら手招きしながら声をかけてくる。


 『カリンさんカリンさん! お弁当、ステーキ! ステーキにしましょう! きっと王子もお肉好きですよ!』


 そりゃあんたが食べたいだけでしょうが……エッジがいるので返事はせず、食材の用意をしていく。王子の気を引きたいわけじゃないけど、私は何を作るか決めていた。


 「~♪」


 「……お嬢様、随分手際がいいですね? 料理得意でしたでしょうか」


 「学院にお料理をする科目があるからね。まあ、ちょっと前まで散々だったけど、最近目覚めたのよ。ちょっとみたことない料理を作って見せるわ」


 「ほほう、それは興味深い。それだけ手際が良ければ僕が心配することも無いですね」


 「見てなくていいんですかコック長? 奥様にドヤされますよ」


 そう言ってエッジは自分の仕事に戻る。他にも何人か料理人がいて、苦笑しながら作業に戻って行った。


 さて、私はというと話しながらも作業は続けていた。とことことナイアが歩いて来て覗き込んでくる。


 『卵焼き、ですね? それとこれは……から揚げ?』


 「うん。この世界って揚げる料理はあるんだけど、どうも美味しくないのよね。から揚げは無いし、ちょっと反応が見たくて作ってみようかと」


 『いいですね、丸々と太ったニワトリの一番若い時期を絞めて作る、もも肉のジューシィなから揚げ!』


 「やめなさいよ!?」


 生々しい表現をしながらうっとりとした表情を見せるナイア。やはり死神は死神というところか……それはさておき、調理をしていこう!


 卵焼きは甘いのが好きだから砂糖を入れてさっと作り、塩コショウだけで味付けをしたシンプルなから揚げを作り終える。


 「うーん、お野菜も欲しいわね……」


 そこへエッジが様子を見に声をかけてくれる。


 「どうですかお嬢様? ……おや、これは?」


 「これはから揚げよ。カラッと揚げた鶏肉だからから揚げ……どう?」


 一つ差し出すと、エッジは口に含み、さくりと音を立ててもぐもぐと咀嚼する。


 「これは美味しいですね!」


 エッジは目を見開いて叫ぶと、他の料理人たちもわいわいと集まってきた。


 「お嬢様の料理、美味しいんですか? 俺にもください」


 「あ、私もー」


 「はいはい、まだすぐ作れるから食べていいわ、よ?」


 と思ったら皿には後二つしかなかった。私はナイアがリスのような口をしてもごもごしているのを発見する。


 「(全部食べるんじゃないわよ!)」


 『ぶべ!? で、でも美味しかったですー』


 「ちょ、ちょっと待ってねみんな! すぐ作るから!」


 「いいっすよ、これ切って食べるんで……おお、こりゃうまいっす!」


 「食べやすいし、お弁当にはいいね」


 と、料理人には絶賛だった。どちらにせよお父様とお母様に味見をしてもらう分は作らないといけないから作業に取り掛かろうとしたところでバタバタと走ってくる足音が聞こえてきた。


 「何か美味しいそうな匂いがするのー!」


 「ミモザ、どうしたの?」


 「部屋に行ったらおねーちゃん達が居なかったから探してたの!」


 「そういうことか。あ、それじゃこれ食べてみて」


 子供は甘い卵焼きが好きだからミモザが適任だと、卵焼きを一切れ差し出す。すぐに口に入れてもぐもぐしたあと目を輝かせて口を開く。


 「おー! これ美味しいねえ!」


 「お、やっぱり? やっぱり甘い卵焼きよね」


 会社に持って行っていた私のお弁当にはいつも入っていた卵焼きだ。……たまにあのストーカー野郎に盗られたりしていたけど……


 『後はポテトサラダ何かいいんじゃないですか?』


 「(あ、それいいわね。それもらい!)」


 『うへへ……好きなんですよポテサラ……』


 「(こいつ……!)」


 と、ミモザも加わり賑やかな厨房でお弁当の中身を決め、エッジの提案で夕食はステーキを差し替えから揚げを出すことになった。


 「おねーちゃんが作ったのです!」


 「ほう、どれどれ……」


 なぜかミモザがドヤ顔でから揚げと卵焼きをお父様とお母様に運ぶ、それをお父様がフォークに刺して食べ、お母様も口に入れる。


 「まあ、これは美味しいわね。揚げ物なんて油が多くて気持ち悪くなるけど、これは油っこくないわね」


 「きちんと油をきればサクッとふわっと作れるのよ。これを王子に出してみるわ!」


 「うんうん。きっと気にいってくれるよ。そういえばギドがまだ王子の婚約者として推すからな! と意気込んていたなあ。無茶なことはしない男だけど、娘さんが突っかかってくるかもしれないから気を付けるんだよ」


 ギド、というのはフラウラのお父様のことだ。屋上でのやりとりは伝わってないと思うけど、報告会までまだ確定じゃないのを聞いて頑張るのかもしれない。


 さてさて、フラウラはどんなものを作って来るかしらね――

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